ウクライナの列車をキャンバスに、バーバラ・クルーガーがプロパガンダ批判を込めた新作を発表

鋭い社会批判で知られるアメリカのコンセプチュアル・アーティスト、バーバラ・クルーガーは5月1日、困難な状況下に置かれたウクライナの人々にとって「生命線」となっている列車を支持体にした新作を発表する。

Barbara Kruger for Ukraine
バーバラ・クルーガー《Untitled (Blind idealism is...)》(2016)Photo: Courtesy of the artist, Friends of the High Line, and Sprüth Magers. Photo: Timothy Schenck

ロシアによる全面侵攻が2022年2月に始まって以来、ウクライナの空域は封鎖された。これにより、国内外での安全を求める市民たちにとって列車での移動は生命線となった。そんな困難な状況下でもなお、ウクライナに留まり続ける人々、そして、「さまざまな意味で」この国を去った人々に敬意を表して、アーティストのバーバラ・クルーガーが自らの新作の支持体に選んだのは、ウクライナ鉄道のインターシティ列車の車体だった。

クルーガーのこのタイポグラフィ作品《Untitled(Another Again)》は5月1日、乗客を乗せたインターシティ列車がキーウ旅客駅から市の外れにあるダルニツィア駅への初運行を迎えるに際して公開される。今後この列車はウクライナ国内を巡るルートで運行され、西部のリヴィウ、北東部ハルキウ、そして激戦地となった東部ドネツク州クラマトルシクなどへの停車が予定されている。

本プロジェクトは、非営利文化団体「RIBBON International」とウクライナ鉄道(Ukrzaliznytsia)の協働によって実現したもの。RIBBONによれば、クルーガーの意向により、作品に載せたメッセージはウクライナ語のみで表記されるという。

アメリカのコンセプチュアル・アーティスト、バーバラ・クルーガーはこれまでも、簡潔ながら鋭い社会批評を英文を用いて表現してきた。とくに、プロパガンダによって国家権力や消費社会が個人をいかにコントロールしているかを批判する作品で知られ、広告黄金期のアメリカで育った彼女の代表作には、広告が持つ権威的な声とビジュアルを風刺し、私たちが「なぜそれを読むのか/聞くのか/欲するのか」を問い直すよう促すものが多い。

ロシアはウクライナ侵攻の中で、プロパガンダを通じて影響力拡大を図ってきたとされている。ウクライナ文化省の発表によれば、ロシアは2022年以降、170万点以上のウクライナ文化財を略奪し、それらを自国の「領有権主張」の根拠として利用しているという。

2024年4月、ウクライナのヘルソン美術館は、自館の所蔵品とみられる100点の作品がクリミアの「タウリダ中央博物館」で撮影されたとされる「プロパガンダ映像」に映っていることを確認したと発表。この映像は2023年9月、ロシアのテレビで放映されたと報じられている。こうした状況を受けてスイス経済省は4月22日の声明で、翌23日よりEUに歩調を合わせるかたちで、ロシアの国営メディア8社に対して制裁を科すことを明らかにした。

クルーガーが今回発表する列車を用いたインスタレーション作品には、ウクライナ語でこう書かれている。

ЩЕ ОДИН ДЕНЬ ЩЕ ОДНА НІЧ ЩЕ ОДНА ТЕМІНЬ ЩЕ ОДНЕ ЗАРЕВО ЩЕ ОДИН ЦІЛУНОК ЩЕ ОДИН БІЙ ЩЕ ОДНА ВТРАТА ЩЕ ОДИН ЗДОБУТОК ЩЕ ОДНЕ БАЖАННЯ ЩЕ ОДИН ГРІХ ЩЕ ОДНА ПОСМІШКА ЩЕ ОДНА СЛЬОЗА ЩЕ ОДНА НАДІЯ ЩЕ ОДИН СТРАХ ЩЕ ОДНА ЛЮБОВ ЩЕ ОДИН РІК ЩЕ ОДНА СУПЕРЕЧКА ЩЕ ОДНЕ ЖИТТЯ

(日本語訳:もう一日 もう一夜 もう一つの闇 もう一つの光 もう一つのキス もう一つの戦い もう一つの喪失 もう一つの勝利 もう一つの願い もう一つの罪 もう一つの微笑み もう一つの涙 もう一つの希望 もう一つの恐れ もう一つの愛 もう一年 もう一つの争い もう一つの人生)

from ARTnews

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