ハエが死ぬダミアン・ハースト作品に動物愛護団体が抗議。美術館はインスタレーションを撤去
ダミアン・ハーストのインスタレーションで数百匹のハエが死んだとして、動物愛護団体PETAが作品を展示したドイツのヴォルフスブルク美術館に苦情を提出。これを受けて、市の獣医局が美術館に口頭で注意を行い、その後、作品は撤去された。
ヴォルフスブルク美術館のアンドレアス・バイテン館長は、ドイツの地方紙ブラウンシュヴァイガー・ツァイトゥングに対し、「ハエは動物保護法の対象外だと考えていた」と話している。
7月10日まで開催されていた「Macht! Licht!(パワー! 光!)」展は、現代生活のありとあらゆるところに存在する人工的な光がテーマで、特に人工光の環境への悪影響について考えようという内容だった。
ハーストのインスタレーション《A Hundred Years(100年)》は、1990年に発表された作品を基にしたもので、半分に仕切られたガラスケースが使われている。ケースの片側で羽化したハエは、殺虫灯に引き寄せられるように仕切りの穴をくぐり抜け、接触して焼け死ぬ。このサイクルは、展示終了まで続く予定だった。
ハーストはこの作品を「箱の中のライフサイクル」と説明している。発表当時の作品《A Thousand Years(1千年)》では、殺虫灯の下に置かれた血まみれの牛の頭にハエが群がっていたため、世界的なキュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストに「危険で恐ろしい」作品だと評された。
「動物を殺すことは芸術とは何の関係もない。自分の利益のために、文字通り死体の山を築く人間の傲慢さを示しているだけだ」とPETAのペーター・ヘフケンは声明で述べている。また、ドイツの動物保護法は、「動物に危害を加えるには正当な理由がなければならない」ことを定めている。
ヴォルフスブルク美術館のマネージング・ディレクター、オトマール・ベーマーは、ドイツの通信社に対し、幼虫は釣り用品業者から買い入れたものであり、インスタレーションには羽化したハエの一部しか使われていなかったと説明。「動物は人間が楽しんだり、搾取したりするために存在するのではないと動物愛護団体は考えている。それは我々も同じだ」と述べた。
同美術館は、ハーストのスタジオに連絡を取り、《A Hundred Years》を人工のハエで展示できるか確認するとコメントしている。それができない場合、この作品を再び展示しないよう勧告するという。
ARTnewsは、ハーストの代理人にコメントを求めている。(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月8日に掲載されました。元記事はこちら。