ハーバード大学が奴隷制時代のアフリカ系アメリカ人を写した写真の所有権を放棄。子孫との和解が成立

ハーバード大学は、奴隷制時代のアフリカ系アメリカ人を写した写真15枚の所有権を放棄し、8年に及んだ被写体の子孫との訴訟で和解に合意した。写真はアフリカ系アメリカ人の文化に焦点を当てた博物館で公開される予定だ。

写真の返還を訴えるタマラ・ラニエ。Photo: Jonathan Wiggs/The Boston Globe via Getty Images
写真の返還を訴えるタマラ・ラニエ。Photo: Jonathan Wiggs/The Boston Globe via Getty Images

ハーバード大学が、奴隷制時代の1850年頃に撮影されたアフリカ系アメリカ人の銅板写真の所有権を放棄し、被写体の子孫との8年間に及ぶ法廷闘争が決着した。

非公開の和解合意に基づき、同校は、ピーボディ考古学・民族学博物館に長年保管されていた現存する最古のアフリカ系アメリカ人のダゲレオタイプ写真15枚を、サウスカロライナ州チャールストンの国際アフリカ系アメリカ人博物館に譲渡すると発表した。非公開の和解の一環として、金銭的条件については明らかにされていない。

国際アフリカ系アメリカ人博物館は原告のタマラ・ラニエと協力し、これらの写真を展示する計画を進めている。ラニエが提出した法定文書には、写真に写っているのは自身の高祖父レンティとその娘のデリアであり、2人との血縁関係は第三者の調査によって裏付けられていると記されていた。

ラニエは2017年に写真の返還を求めたが、ハーバード大学はこれを拒否。その後2019年に大学を提訴し、写真の所有権は大学にないと主張した。彼女はまた、被写体が「非人間的な扱いを受けている」と訴え、これらの写真はスイス生まれの生物学者で同校の元教授だったルイ・アガシーの依頼により、被写体の同意なく撮影されたものだと述べた。

1850年頃に撮影されたドレイのレンティ。Photo: Bettmann via Getty Images
1850年頃に撮影された奴隷のレンティ。Photo: Bettmann via Getty Images

アガシーは白人優越主義を支持し、アメリカの奴隷制を正当化していた人物だった。彼の名を冠した教育機関は数多く存在したが、2020年のブラック・ライブズ・マター運動の高まりを受け、名称の変更や彼の像の撤去といった対応が各地で相次いだ。

マサチューセッツ州最高裁判所は、写真の所有権は被写体ではなく撮影者にあるとの判決を下し、ラニエの訴えは不利な状況に置かれた。しかし、大学側が広報資料として継続的に写真を使用したことによる「精神的苦痛」に基づく損害賠償請求は認められた。その後、2023年にミドルセックス郡上級裁判所が、証拠開示と裁判の継続を許可した。

返還が決定したことを受け、ラニエの弁護士らは記者会見でこの返還を「奴隷の子孫にとって特別な勝利」と評価している。また、ハーバード大学が現在、トランプ政権の標的となり、キャンパス内でのパレスチナ連帯運動への対応をめぐって22億ドル(約3200億円)の資金援助が凍結されていることを挙げ、この返還は大学にとって重要な時期に行われたものであり、公平性が強く求められていると主張した。

一方ハーバード大学は声明において、ダゲレオタイプ写真をより多くの人によって見られる場所で展示する手段を長いこと模索してきた発表している。事実、博物館に譲渡されることで、これらの写真に触れる機会が多くの人々に与えられるだろう。(翻訳:編集部)

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