いよいよ開幕! アート・バーゼルの花形「アンリミテッド」セクションで必見の10作品

6月19日から世界最大級のアートフェアアート・バーゼルがいよいよ始まる(21日まで。6月16日から18日はVIP・プレスのみ)。今年は世界から290ギャラリー、4000人以上のアーティストが参加した。中でも同フェアの華である、大規模なインスタレーション作品を集めた「アンリミテッド」セクションからUS版ARTnewsが選んだ10作品を紹介する。

アート・バーゼル「アンリミテッド」セクションの展示風景。Photo: Sara Barth/Courtesy Art Basel

アート・バーゼルがスイスのメッセ・バーゼルを会場に6月19日から始まる(21日まで。6月16日から18日はVIPとプレスのみ)。今年は昨年よりも4軒多い約289ギャラリー、4000人以上のアーティストが参加する。そんなバーゼルの花形とも言えるのが、大規模なインスタレーションが集結する「アンリミテッド」セクションだ。

アンリミテッドは、昨年に引き続いて、スイスのアートスペース、Kunst Halle Sankt Gallenのディレクターであるジョバンニ・カルミネがキュレーションを務めている。今年は、約1万6000平方メートルのホールに92ギャラリーが67の展示を開催。展示数だけを見ると昨年から9の減少となったものの、従来のブースでは見ることができない迫力あるインスタレーションが繰り広げられている。

今年の大きな特徴は、「過去の作品への回帰」だ。1997年に44歳で死去したドイツのアーティスト、マーティン・キッペンベルガーが没年に制作した、地下鉄の入り口を作ることで世界と繋がる構想の《メトロネット・移動可能な地下鉄入口》や、マリオ・メルツ(1925-2003)が半円形のドームに様々なファウンド・オブジェクトを貼り付けた《Evidenza》(1978)、そして、今年96歳になる草間彌生が2009年に制作した、カラフルな水玉模様で描かれた少女、花、動物の彫刻7点からなる《輝くチューリップの楽園へ行こう》など、かつて発表された作品に再び光が当てられている。

VIPデーで話題を集めたのはパフォーマンスだ。エジプト・ カイロを拠点とする集団、nasa4nasaの振付による、頭に燭台を載せた7人のダンサーの動きを通して歴史的な遺産や、支配、身体的な限界を表現した2024年の作品《Sham3dan(燭台)》や、フェリックス・ゴンザレス=トレス(1957-1996)が1991年に発表した、上半身裸で銀色のブリーフを身に着けた男性がステージでダンスを踊る有名な作品《Untitled (Go-Go Dancing Platform)》が会場を盛り上げていた。

以下、アート・バーゼルのアンリミテッドで展示されている作品の中から、US版ARTnewsが選んだ必見の10点を紹介しよう。

1. マーティン・キッペンベルガー《METRO-Net Transportable Subway Entrance(メトロネット・移動可能な地下鉄入口)》

Photo : Sarah Belmont for ARTnews

スイス・バーゼルといえば路面電車が有名だ。しかし、それらの公共交通機関が地下に潜る可能性はあるのだろうか? マーティン・キッペンベルガー(1953-1997)が没年に制作した彫刻作品《メトロネット・移動可能な地下鉄入口》を通じて提案するのは、そんな問いだ。ガゴシアンが展示するこの模擬地下鉄入口と通気口は、キッペンベルガーの最終シリーズ「METRO-Nets」の一作品で、同シリーズは世界中を結ぶ相互接続された地下鉄網というビジョンを描いたものだった。ドクメンタXのために制作された本作は、真っ白な階段をのぼると鍵のかかった大きな門へと行き着く。これは、ユートピア的な夢へのアクセスを拒否するメタファーだ。戦争に負け、分断されたドイツで育ったキッペンベルガーは、進歩や統一といった壮大な夢を信じることができなかった。彼の作品は、ドイツの失敗を象徴している。つながるという幻想は、結局のところ袋小路だったのだ。

2. アーマン《Captain Nemo(ネモ船長)》

Photo : Sarah Belmont for ARTnews

フランスとアメリカを拠点に廃材を使用したアート作品を制作したアーマン(1928-2005)。キャリア全盛期の1970年から2000年にかけて手掛けた作品は20点に満たず、そのほとんどが屋外で展示されている。同フェアで、フランスのディーラー、ジョルジュ・フィリップ&ナタリー・ヴァロワがその希少なアーマン作品を鑑賞する機会を叶えた。展示されたのは、《キャプテン・ニモ》(1996)。この作品は、フランスのグラースにあるフラゴナールの工場を訪れたことがきっかけで生まれた。香水工場で使われなくなったさまざまな機械部品を組み合わせて、ジュール・ヴェルヌの『海底二万マイル』に登場するような、ユニークな潜水艦を創り上げている。

3. ペトラ・コートライト《sapphire cinnamon viper fairy(サファイア・シナモン・ヴァイパー・フェアリー)》

Photo : Sarah Belmont for ARTnews

ペトラ・コートライトの作品にインターネット上で拾ってきたあなたの写真や動画が使われているかもしれない。ロサンゼルスに拠点を置く彼女は、50のモニターでループ再生される200の動画をアンリミテッドで展示している。踊る人々を写した映像もあれば、PCのディスプレイを見つめる人々のポートレイトも展示されており、これらの短尺動画は、オンラインコンテンツがいかに速いスピードで消費されているかを来場者に考えさせる。コートライトは、スマートフォンやSNSが普及する前の2007年に制作を開始し、2023年に完成した《sapphire cinnamon viper fairy》で、発見した映像をさまざまな編集ソフトで加工・編集して作品として発表している。階段状に高低差を付けて展示されており、長時間観ていても飽きることなく楽しめる。

4. ミケランジェロ・ピストレット《Rispetto》

Photo : Sarah Belmont for ARTnews

アルテ・ポーヴェラ運動の中心人物として知られるミケランジェロ・ピストレット。イタリア語で「尊敬」の意味を持つ彼のインスタレーション《Rispetto》(2025)は、アレサ・フランクリンの楽曲にヒントを得たのかもしれない。地中海をかたどった鏡面の大きなテーブルを空間の中心に設置し、周囲には地中海沿岸諸国をイメージしてデザインされた椅子が配置されている。テーブルの周りにはひび割れた24枚の鏡が壁に掛けられ、その一部は色つきの木製ボードで覆われている。ボードには中国語やフランス語、英語、ギリシャ語など、さまざまな言語で「リスペクト」と書かれている。このインスタレーションは、世界的な紛争を乗り越えるため文化間の対話の促進を目的とした、ピストレットの「ラブ・ディファレンス」運動に基づく。椅子とテーブルを組み合わせることで彼は、対話のための空間を創出しているのだ。

5. フェリックス・ゴンザレス=トレス《Untitled(Go-Go Dancing Platform)》

Photo : Sarah Belmont for ARTnews

20世紀後半で最も影響力のあるアーティストの一人、フェリックス・ゴンザレス=トレス。彼はエイズで亡くなったパートナーのロス・レイコックと父親を同時に悼むなかで、《Untitled (Go-Go Dancing Platform)》を1991年に制作した。この作品は1995年にスイスのコレクターが取得して以来、同じ所有者のもとで保管されている。この作品は通常であれば、電球で縁取られた水色の舞台の上で、ラメが施された銀色の衣装をまとったゴーゴーダンサーが1日1度パフォーマンスを行うことになっている。だが今回のアンリミテッドでは、ハウザー&ワースの展示スペースで非公開の時間に1日2度パフォーマンスが行われる予定だ。ダンサーは個人の端末で音楽を聴きながら5分ほど踊りを披露する。彼が何を聴いているか、観客は知るよしがない。

6. アトリエ・ファン・リースハウト《The Voyage – A March to Utopia(航海 – ユートピアへの行進)》

Photo : Courtesy Art Basel

アトリエ・ファン・リースハウトの《The Voyage – A March to Utopia》に身を任せる準備はできているだろうか。アンリミテッドの入口から出口まで展開されているこの作品は、「ユートピアへ、未知の場所へ、よりよい場所、エデンの園、幸福を見つけるための場所、新たな世界、パラレルワールド、あるいはよりよい世界を創造したくなるような場所」への旅として構想されている。80点のオブジェクトで構成されるこのインスタレーションは、約束の地への道案内をする捨てられたスクーター「リーダー」の物語を描く。

作品のなかには継ぎはぎされたおもちゃも含まれており、つるはしやマネキン、義肢、ポンプといった発明品によって、未来の世代が必要とするレジリエンスと楽観主義が象徴されている。これ以外にも、外科チームが治療している間にコーヒーを提供する《Modular Operation Table》(2022)や、「すべての終わりと、すべての始まり」を告げる赤いロードローラーの《The Flying Dutchman》(2016)をはじめとする、不気味な作品が展開されている。

7. ルイス・ゼルビーニ《Os Comedores de Terra / The Earth Eaters(地球を喰らうものたち)》

Photo : Sarah Belmont for ARTnews

《Os Comedores de Terra / The Earth Eaters(地球を喰らうものたち)》は、生態系へのダメージに言及したルイス・ゼルビーニによる幅5メートルの大型両面インスタレーション。一目見ただけで魅了されるこの作品は、絵画と色とりどりの鉱石を模した彫刻で構成されている。片面の絵には、森林伐採や焼畑など人間の営みによる傷跡が刻まれた風景がパノラマのように広がり、反対側は木製の棚のようになっていて、16種類の色鮮やかな張り子の鉱石が並べられている。ブラジル人アーティストのゼルビーニは、プライベートで所有している鉱物のコレクションと、2011年の映画『メランコリア』に着想を得てこの作品を制作したという。絵の中の自然は彼の美学を反映し、息をのむように美しく、そして不吉なものとして描かれている。ゼルビーニはUS版ARTnewsの取材に、「終末が近づいているが、考えてみれば自然災害の中には美しさもある」と語っている。

8. ダニエル・ビュレン《Coup de vent, travail in situ, 16 Juin – 22 Juin(突風、現場作業、6月16日~6月22日)》

Photo : Sarah Belmont for ARTnews

フランス人アーティスト、ダニエル・ビュレンは、白とさまざまな色のストライプの工業用ファブリックを使うことで知られる。1970年ごろからはスタジオを飛び出し、パリや東京の地下鉄にストライプのポスターを無断で貼る芸術活動で話題を呼ぶなど、「現場」での制作を続けている。今回出展された《Coup de vent, travail in situ, 16 Juin – 22 Juin(突風、現場作業、6月16日~6月22日)》(2025)は、《Structure rigide et rose pour structure libre et verte Vent-Mouvement(自由で緑色の風の動きの構造のための硬くピンク色の構造)》を改作したもの。元の作品は、1985年にオランダ・アイントホーフェンのファン・アッベ美術館で開催された「Don Giovanni, een opera voor het oog(ドン・ジョバンニ、目のためのオペラ)」展の一部として制作された。ガレリア・コンティニュアのブースに展示された新バージョンでは、約12メートル×4メートルのストライプのフレームの中でストライプの布がひらひらと揺れている。布を動かしているのは背後にある換気装置だ。

9. クラウディア・コンテ《Temporal Drift(一時的な漂流)》

Photo : Sarah Belmont for ARTnews

アンリミテッドの会場の奥のほうには、海のリズムに着想を得た白と黒のうねるような横縞の壁が立っている。一見ゆがんだように見えるその模様は、奥行きやボリューム感に錯覚を起こさせる。壁には3つの大きな穴が切り抜かれているが、切り抜きの形はその手前に設置された大理石の彫刻と同じ形だ。来場者は、サンゴ、葉、サボテンの形に切り抜かれた開口部を行き来することができる。これまでの作品でも見られるように、クラウディア・コンテは自然界との関係を再考するよう人々に語りかけているのだ。

10. カール・アンドレ《Thrones(玉座)》

Photo : Sarah Belmont for ARTnews

昨年のアンリミテッドでドイツのギャラリー、コンラッド・フィッシャーが展示したのは、50枚のスチールを床に敷いたカール・アンドレの《Körners Repose(ケルナーの休息)》だった。今年も同ギャラリーは、アメリカのミニマル・アートを代表する作家の1人であるアンドレの、さらに印象的な作品を出品している。その木製彫刻《Thrones(玉座)》は、アンドレが手がけた中でも最大級。1978年にシカゴ美術館の個展で初公開されたもので、100本のウエスタンレッドシダーの太い角材が壁に沿って縦横交互に並べられている。アンドレが「場所としての彫刻」と呼んだこうした作品は、インスタレーションが空間を体験するものであることを体現している。(翻訳:石井佳子、編集部)

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