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アート・バーゼルがパリ進出、FIACからグラン・パレを奪う

1月26日、アート・バーゼルの親会社であるMCHグループが、今年10月からパリのグラン・パレで現代アートのフェアを開催すると発表。従来、10月のグラン・パレでは、1974年から続くフランス国内最大級のアートフェア、FIACが開かれてきた。しかし、先ごろ行われた10月の使用権入札をMCHが落札したことで、アート界に大変動が起きている。

パリのシャンゼリゼ通り沿いに位置するグラン・パレ。パリ万国博覧会のため1900年に建設され、展覧会場・美術館の機能をあわせ持つ(写真は2019年のパリ・フォトにて) 写真:picture alliance/アフロ

アート・バーゼルは、スイスのバーゼル、米国のマイアミビーチ、そして香港でフェアを定期的に実施しており、パリは第4の開催地となる。一方、FIACと写真フェアのパリ・フォトを主催するRXグローバルは、長年にわたり秋に両フェアをグラン・パレで開催していた(2022年のパリ・フォトは従来通り11月に実施予定)。

FIACは、2024年のパリ五輪に向けてグラン・パレの改修工事が行われる間、エッフェル塔近くのシャン・ド・マルス公園に仮設されるグラン・パレ・エフェメールを22年と23年の会場とし、24年にグラン・パレに戻る計画を発表していた。FIACのウェブサイトを見ると、22年の会期は10月20日〜23日であると記載されている。しかし、この一件で、新たな会場を確保しなくてはならなくなった。

グラン・パレ側は今回の決定を1月26日付のプレスリリースで発表し、MCHグループとRXグローバルについて次のように述べている。「この2社は、それぞれのアートフェアの国際的な評価を高めてきた実力がある。両社はともに、パリとフランスの、特に将来性のある現代アーティストの創作活動に焦点を当て、文化・クリエイティブ産業とのシナジー効果をいっそう高めることに尽力している。それは、グラン・パレがリニューアルオープンに向けて計画している芸術的・文化的プロジェクトの方向性と合致するものだ」

 入札の結果、MCHグループが10月、RXグローバルが11月のイベント開催について7年契約を締結した。グラン・パレのプレスリリースによると、7年という期間は「フェアの積極的な発展を確かなものにするためには長期的な視野が必要」であるとして決定されたという。

アート・バーゼルのプレスリリースでは、「新しくフランスの現地法人を設立し、現地スタッフを雇用して専門チームを立ち上げる。フランスのアートギャラリーとも密接に連携し、フェアの選考委員会にも本格的に参加してもらう。さらに、パリのフェアに特化したブランディングに取り組む」としている。

また、アート・バーゼルのグローバルディレクター、マーク・シュピーグラーは声明の中で、「比類ない歴史と現代的なダイナミズムを兼ね備えているパリは、国際的な文化シーンの重要な中心として独自の地位を確立している。世界的な都市であり文化の都であるパリの国際的な影響力を最大限に引き出し、活気に満ちたフェアの実現に向けて準備したい」と抱負を語った。

今回の使用日程をめぐる入札は、グラン・パレのクリス・デルコン会長が2021年12月に公募を開始し、今年1月24日の理事会で決定された。グラン・パレのプレスリリースによると、21年11月にアート・バーゼルから22年10月の日程について打診があり、その時点でRXグローバルとの間にFIACとパリ・フォトに関する契約がなかったことから、競争入札を告知したという。

RXグローバルは、1月26日午後に報道機関に送付した声明の中で、伝統的にFIACが開催されてきた日程をアート・バーゼルに譲ることになったグラン・パレの決定について、「強い遺憾の意」を表明した。また、入札は「性急で不備がある」と批判し、フランスの現代アートに大きな影響を及ぼすものだとしている。

RXフランスのミシェル・フィルジ社長は、次のように述べている。「FIACは過去数十年にわたってグラン・パレでのフェアに投資し、開催を継続してきた。その成果によって、世界有数の現代アートフェアとしての地位を確立し、パリを世界で最も重要な文化・芸術の中心地とすることにも貢献している。今回の決定は、我々のスタッフのみならず、我々を支える顧客やパートナーにとっても非常に残念なことだ」

また同氏は、「FIACに関して競合他社を優遇する決定について、法廷で意義を申し立てる権利がある」とも述べている。

ル・モンド紙が以前報道したところによれば、グラン・パレは10月のイベント開催のために、7年契約で少なくとも2000万ユーロ(2270万ドル)を求めていたという。アート・バーゼルの広報担当者は、1月26日にARTnewsに宛てたメールの中で、グラン・パレの公募では、今後7年間(2028年まで)の契約で現代アートのフェアに1060万ユーロ(1200万ドル)、写真のフェアに750万ユーロ(850万ドル)が必要とされていたことを明らかにした(技術的費用を除く)。

MCHグループは1月24日の週初めに、シンガポールのアートフェア、ART SGに再び投資することを決定し、株式の15%を取得したと発表している。同グループは2016年から17年にかけて同フェアに出資していたが、経営難のために18年までに株式を売却していた。

2020年1月に英国のEU離脱が実現して以来、欧州のアートマーケットの中心であったロンドンがこれからどうなるか、アート界には様々な憶測が飛び交っている。その中では、パリが今後ロンドンに取って代わると見る向きも多い。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年1月26日に掲載されました。元記事はこちら

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