ピアニスト・現代美術家の向井山朋子が、時空と身体をめぐる映像詩『ここから』を限定配信
現代アーティスト向井山朋子による短編アート映画『ここから(kokokara)』が無料配信中。音と映像と火が現代の諸問題をえぐる。

現代美術家としても活動するピアニスト、向井山朋子が、短編アート映画『ここから(kokokara)』を自身のYouTubeチャンネルにて公開した。7月13日まで限定配信される。
本作は、東京の秘境・青ヶ島の手つかずの大自然、向井山の故郷・和歌山県新宮市に位置する神倉神社で毎年執り行われる1400年の歴史を持つ女人禁制の火祭り「お燈まつり」、そしてウクライナの作曲家、マキシム・シャリギンによるピアノ曲 《9つの前奏曲》 が交錯する、時空と身体をめぐる映像詩だ。
「空・海・火」をテーマに、儀式と芸術、自然と人間、ジェンダーと伝統といった現代的な問いを鑑賞者に投げかける。神秘的な風景と儚くも力強い音楽が重なり、映像はやがて「祈り」へと昇華する。ピアニストの身体の延長ともいえるピアノが炎の中で燃え尽きてゆくシーンは凄絶だが、1973年と2008年に燃えるピアノを弾いたジャズピアニスト、山下洋輔を思い出す人もいるかもしれない。
音楽には、昨年資生堂ホールで向井山が録音したシャリギンの《9つの前奏曲》(2005)を抜粋。美しい旋律と狂暴な不協和音が映像に抑揚を与える。また向井山自身が作曲した、自然音や電子音を組み合わせたサウンドスケープも用いられている。
映像監督には、ピーター・グリーナウェイ作品で知られるオランダの映像作家レニエ・ファン・ブルムレンを迎え、撮影監督は濱口竜介監督『悪は存在しない』などで知られる北川喜雄が担当。
約19分にわたる作品の美しい映像と静謐な時間の流れに引き込まれるが、そこには、「儀式とは何か」「今祈りは可能か」「ジェンダー規範と伝統の関係はどう更新されるべきか」といった、現代社会が抱える問いが巧みに織り込まれている。