無音の野外フェスで平和を考える──マリーナ・アブラモヴィッチがグラストンベリーの観客を魅了
1970年から開催されているイギリスの老舗音楽フェスティバルのグラストンベリー。デュア・リパやSEVENTEENなど、名だたるミュージシャンが名を連ねるなか、パフォーマンスアーティストのマリーナ・アブラモヴィッチが6月26日に登場し、平和と紛争に向き合うべく7分間の静寂に包み込むパフォーマンスを披露した。
イギリスの南西部で1970年から開催されている音楽フェスティバルのグラストンベリー・フェスティバル。6月26日〜30日にかけて行われたこの野外フェスでは、SZAやコールドプレイ、ポール・マッカートニー、アヴリル・ラヴィーンといったアーティストが出演したなか、パフォーマンスアーティストのマリーナ・アブラモヴィッチが26日のピラミッド・ステージに登場し、7分間の静寂を観客と共有するパフォーマンスを披露した。
シンガーソングライターのPJ・ハーヴェイが出演する前にアブラモヴィッチが行ったのは、《Seven Minutes of Collective Silence》と題されたパフォーマンス。彼女は、両腕を広げると平和のシンボルへと姿を変える白いドレスに身を包んでピラミッド・ステージに登場。このドレスは、ジバンシィやバーバリーのクリエイティブ・ディレクターを歴任したリカルド・ティッシによってデザインされた。
この作品についてアブラモヴィッチは、ガーディアンの取材に「紛争が絶えない世界に平和とはどういったものかを見直すための『公的介入』」であると語り、次のように続けている。
「LSDやマジックマッシュルームといった幻覚剤でハイになっている人々や、音楽を楽しんでいる観客の心に入り込んで、7分の間で彼らの魂に触れ、すべてを一時的に止めたいと考えています。老舗音楽フェスのメインステージが静寂に包まれるなんて、誰も想像したことがないでしょうね」
静寂を用いたパフォーマンスをアブラモヴィッチは過去にも実施しており、2010年にニューヨーク近代美術館で実施された《The Artist is Present》はその好例だ。とはいえ、グラストンベリーのメインステージに押し寄せる大勢の観客たちと静寂を7分もの間ともにすることは非常に野心的な取り組みだと言える。
本番当日の午前6時にストーンヘンジを訪れ、その中心に立って「エネルギーをもらった」というアブラモヴィッチは、このパフォーマンスを始めるにあたり、オーディエンスに戦争や暴力、飢餓によって世界がいかに荒廃しているかを訴えかけた。
「暴力は暴力を増長し、命が失われるとその報復として新たな命が奪われてしまう。怒りを示す人がいれば連鎖的に怒りが世に蔓延し、デモを行えばそれに対するデモが行われる。ピラミッド・ステージでは、今この瞬間を周りの人とともに生き、互いに無条件の愛を与えるという、普段とは異なる考え方に挑戦してみたいと思います」
そして彼女は、周囲と肩を組み合い、心を落ち着けるために目を閉じるよう観客に呼びかけ、グラストンベリーを主催するエミリー・イーヴィスのどらの合図とともにパフォーマンスを開始した。
《Seven Minutes of Silence》が実施されることが前日に発表されたこともあり、アブラモヴィッチは失敗を恐れ緊張していたという。だが、ピラミッド・ステージは他のステージから聞こえてくる音漏れを除いて静寂に包まれ、ガーディアンの取材に応じた一人の参加者は、「今年のグラストンベリーで最高のアクトだった」と語った。