富裕層流出のイギリスからメガギャラリーオーナーがスイスに移転。優遇税制廃止が理由ではない!?
世界4大メガギャラリーの1つ、ハウザー&ワースのオーナー夫妻が、20年にわたり居を構えていたイギリスから、ギャラリーの持株会社があるスイスに居住地を移したことが明らかになった。イギリスでは昨年の税制改革後、富裕層の海外流出が続いている。

イギリスの企業登記局(Companies House)に提出された書類によると、ハウザー&ワースのオーナーであるイワン・ワースとマヌエラ・ワース夫妻は、6月初旬に住居をスイスに移した。ハウザー&ワースは、ガゴシアン、Pace、デイヴィッド・ツヴィルナーと並び、世界4大メガギャラリーの一角を占める最大手だ。
その背景には、労働党政権が富裕層への税制を厳格化したことがあると見られるが、同ギャラリーはフィナンシャル・タイムズ紙の取材に対し、住居移転に税務上の理由があるかどうかはコメントしていない。その代わり、夫妻がスイスの市民・居住者であり、ギャラリー創業の地で本社のあるスイスでのプロジェクトのために同地で過ごす時間が長くなっていることを強調した。また、消息筋によると家庭の事情もあるという。
ハウザー&ワースはギャラリーの運営以外に、ブティックホテルやレストランなどのホスピタリティ事業を行う「アートファーム(Artfarm)」を擁している。イギリスにおける同事業は継続され、2026年にはロンドンで新店舗のオープンが予定されている。しかし、近年ロンドンでの売上は減少しており、監査資料によると2023年の売上高は1億4400万ポンド(最近の為替レートで約284億円、以下同)で、2022年の1億6600万ポンド(約327億円)から13%減となった。一方、税引き後利益は520万ポンド(約10億円)から600万ポンド(約12億円)に微増している。
イギリスでは、昨年労働党政権が実施した税制改革により、富裕層の国外流出が相次いでいる。大きな理由は、優遇税制、いわゆる「非居住(ノン・ドム)」ステータスの廃止にある。従来の非居住ステータスでは、イギリスに居住しているが海外に永住権を持つ場合、国外所得に対する税金が免除されていた(ただし代替定額税が課され、税金は時間の経過とともに増加する)。
しかし、税制の影響については金融の専門家の間でも異なる意見がある。たとえば、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)は2024年に発表した調査報告で、イギリスから多額の富が流出しているという見方に異議を唱えている。LSEの調査によると、税制のためにトップクラスのビジネスリーダー層や慈善家がイギリスを離れたという報道は誇張されたものであり、税金逃れのための移住は不名誉なことだと考える富裕層も少なくないという。(翻訳:石井佳子)
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