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ミニマルアートの第一人者、フランク・ステラが初のNFTアートを発表。3Dプリンターでの作品制作権利付き

アーティストの著作権やライセンス取得を支援する団体、アーティスト・ライツ・ソサイエティが、新たなWeb3プラットフォームの発足を発表した。「Arsnl」と名付けられた新サービスは2022年9月9日から開始される予定で、手始めにフランク・ステラのNFTシリーズを扱う。

フランク・ステラ《Geometry XXII(ジオメトリー22)》(2022)   Courtesy of Arsnl

ミニマリズムのパイオニア、フランク・ステラは、1950年代から60年代にかけて制作されたシンプルな幾何学的絵画で広く知られる。今年86歳になるが、コンピュータや3Dプリンターを活用した大型彫刻作品の制作も意欲的に行ってきた。Arsnlの創設者でアーティスト・ライツ・ソサイエティ(以下、ARS)の副社長でもあるカタリナ・フェダーは、そんなステラにとって「NFTが次のステップになるのは、ごく自然なこと」だと述べている。

ステラは、カタリナ・フェダーの父であるセオドア・フェダーが1987年に設立したARSの長年のメンバーだ。現在、ARSは10万人以上のアーティストの知的財産権を代表し、著作権やライセンスに関する支援を行うとともに、アーティストの追求権(再販時に売買金額の一定の割合を著作権者が得られる権利)を求める活動をしている。

ステラもアーティストの追求権提唱に熱心で、セオドア・フェダーとともに追求権に関する法律(American Royalties Too Act)の制定運動を行い、その件についてロースクールの学生に講義したこともある。そのため、再販時にアーティストが自動的にロイヤルティを受け取れるNFTのメリットをすぐ理解したという。

「NFTはすごいね」。ステラはARTnews宛のメールでこう述べている。「NFTには追求権を組み込むことができる。何十年も追求権の問題に取り組んできたが、政府がまったく実現できなかったことが、テクノロジーによって解決されるのはすばらしいことだ」

フェダーがARSの所属作家にArsnlへの参加をメールで呼びかけた時、真っ先に返事をしたのがステラのチームだった。早速、ARSとステラは《Geometries(ジオメトリーズ)》シリーズでコラボレーションを開始。出来上がった22のNFTアートはグレーを基調としたなめらかな質感の3Dオブジェクトで、ステラの最新デザインも含まれる。


《Geometry XXI(ジオメトリー21)》(2022) 画像引用元:https://arsnl.art/

発表されたNFTアートの1つ、《Geometry XXI(ジオメトリー21)》(2022)は、ステラが2016年に制作した彫刻作品《Fat 12 Point Carbon Fiber Star(ファット・12ポイント・カーボンファイバー・スター)》をモデルに作られたもので、どちらも12個の尖端がある星のような形状だ。このNFTシリーズは、Arsnlのウェブサイトから1000ドルで販売される。

また、各NFT作品はエディション100で提供されるが、そこに購入者特典が付いてくる。それは、NFT所有者が作品を3Dプリンターで作成する権利と、説明書が付くというもの。ステラは、3Dプリンターを使えば無限に作ることができると述べている。

一方、フェダーはこうコメントした。「これはステラ作品を所有する、お手頃かつ柔軟な方法です。3Dプリンティングに100ドルかけてデスクトップサイズの小さなものを作ることもできるし、10万ドルかければ庭に置くような大きなサイズのものも作れますよ」

ステラがArsnlの利用を決めた理由は、ARSが作ったArsnlがアーティストの側に立つ唯一のプラットフォームになると信じているからだ。ステラいわく、「ARSは常に所属アーティストを擁護してきた。Arsnlも同じだ。実際、プラットフォーム優先ではなくアーティスト優先の仕組みになっている」

Arsnlの再販ロイヤルティは10%で他のNFTマーケットプレイスと変わらない一方、販売手数料はかなり高く、NFT作品の一次販売には25%の手数料がかかる。オープンシー(OpenSea)やスーパーレア(SuperRare)といった他のNFTマーケットプレイスの手数料が2.5~15%であるのと比べると、段違いなのが分かるだろう。

Arsnlのプレスリリースによれば、手数料の設定は、「ミンティング(NFTの生成・発行)、プロモーション、ブロックチェーンやデジタル空間におけるアーティストの知的財産ライセンスなどの複雑な手続きをサポートする技術・法律の専門知識や、美術館や企業に対するガイダンス」を提供することを考慮してのものだという。

「この1年、いくつかのNFTマーケットプレイスは私たちと同じようなサポートサービスを始めました。しかし、私たちには35年にわたるライセンシングやアーティスト支援の経験があります。そんな存在はほかにありません」とフェダーは強調している。(翻訳:鈴木篤史)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年8月17日に掲載されました。元記事はこちら

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