イェール大学美術館が「反DEI」にNO。連邦補助金を辞退し、独自予算でアフリカ美術展開催へ
DEI推進を制限するトランプ政権への抵抗として、イェール大学美術館は連邦補助金の申請を自ら取り下げた。企画していた展示は、大学基金を活用して予定通り開催する見通しだ。

トランプ政権が連邦予算に盛り込んだ反DEI(多様性、公正性、包摂性)条項に異議を唱えるべく、イェール大学美術館は、アフリカ美術展の開催に向けて申請していた2つの連邦補助金を取り下げた。
同館は展覧会開催に必要な20万ドル(約2970万円)を自力で調達する必要があり、予定通りの開催を目指して、大学の基金を活用する方針を明らかにした。広報担当者によれば、全米芸術基金(NEA)と全米人文科学基金(NEH)が求める補助金の遵守条件のひとつに、「申請者が、連邦反差別法に違反すると見なされるDEI推進プログラムを一切運営していないこと」が含まれており、同館はこれに異議を唱えるために申請を取り下げたという。
アートメディアのHyperallergicによれば、同館は資金調達のためにNEAとNEHにそれぞれ10万ドル(約1486万円)の補助金を申請していたという。2026年の開催を予定したこの展覧会は、南アフリカに住むングニ族が手がけるアートに焦点を当てている。
イェール大学美術館は過去にもNEAへの補助金申請を取り下げたことがあり、その際はイェール大学の基金や寄付金で資金を補った。なお、2024年時点で同大学の基金規模は460億ドル(約6兆8370万円)にのぼると報告されている。
2025年初頭、NEAは同館で9月に予定されていた「Nusantara: Six Centuries of Indonesian Textiles」と題するインドネシア織物展への3万ドル(約445万円)の補助金を取り消した。これを受け、イェール大学美術館は6月に、ロバート・レーマン基金の支援によって展示を実施する方針を発表した。関係者によれば、この決定は美術館の上層部が独自に下したものだという。
ドナルド・トランプ大統領は政権復帰後、アメリカの芸術・文化を自身のビジョンに沿って再構築するため、積極的な措置を講じている。地方および全国の芸術資金を連邦政府承認のプロジェクトに振り向けており、アメリカの英雄たちの国立庭園(National Garden of American Heroes)には4000万ドル(約60億円)が投じられている。
連邦政府のアートコレクション管理者から国立公園管理者に至るまで、連邦機関では大幅な人員削減が進められている。また、2026年の予算案では、政権がNEAの事実上の廃止を検討していることも明らかになった。
NEHは、予算配分には議会の承認が本来必要とされるなか、4月に今後の補助金に関する方針を新たに発表している。それによると、今後は「特定の政治的、宗教的、イデオロギー的観点を推進せず、それらを政治的・社会的に擁護する活動に関与していない」プロジェクトに限って支給されるという。(翻訳:編集部)
from ARTnews