アートテックの大手2社が合併。世界最大の「アート流通インフラ」誕生へ

アート・テックの2強であるアートロジックとアートクラウドが合併することを発表した。ギャラリーの多くがいずれかのサービスを使用しており、2社の統合によって、「成果を最大化するための世界最大のインフラ構築」が実現されることになる。

アートロジックのマイク・プロフィットCEO(写真左)、アートクラウドのアレックス・ウェストCEO(同右)。Photo: Benjamin Brooks

アート・テックの最大手、アートロジックとアートクラウドが合併することを発表した。

アートロジックは1989年、当時の共同創設者ピーター・チェーターが、まだ新しかったコンピューター技術を使ってギャラリーのワークフロー合理化と簡素化に取り組んだことから誕生した。一方のアートクラウドは2004年、アレックス・ウェストと友人たちがアトランタで非営利芸術団体を設立したことからスタート。双方ともギャラリー向けに、作品の在庫管理システムや、CRM(顧客管理システム)を使ったコレクターへのアプローチなどを提供しているが、この合併によって、アートロジックの36年を誇るノウハウと、アートクラウドのAI駆動機能や最先端の統合決済システムなどが組み合わさることになる。それにより、絶えず進化するアート界と市場のニーズに応えることが可能になり、より強固なデジタルインフラの構築が実現できる。

合併による「規模の拡大」も注目に値する。現在6000以上のギャラリー、アーティスト、コレクターがいずれかのサービスを利用しており、合計1500万点を超える作品を管理している。これについて、アートクラウドのアレックス・ウェストCEOはアートネットの取材にこうコメントしている。

「我々の使命は、ギャラリー、アーティスト、そしてより広範なアート界に力を与えること。合併は、実現にはるかに長い時間がかかると思われていた有意義な変化を加速させることができます」

また、アートロジックのマイク・プロフィットCEOは、「私たちは一時的な競争に勝つために合併するのではありません。将来にわたってギャラリー、コレクター、そしてアーティストに、持続的に力を与え続ける柔軟なインフラを構築するためです」と説明。アートクラウドのウェストCEOは、運営費上昇に直面するギャラリーのコスト削減策としてのテクノロジーの重要性を強調し、「私たちは彼らの家賃を下げることはできませんが、彼らの努力がより大きな成果を生むためのインフラを構築することは可能です」と語った。

近年、アート界では大きな合併や戦略的提携が相次いでいる。最近ではイギリスの投資会社ベオウルフ・キャピタル・マネジメントが美術販売プラットフォーム兼アートメディアであるアートネットの買収を計画しており、現在アートネットの親会社アートネットAGに対して、上場廃止提案を行っている。ベオウルフは2025年初めに美術販売プラットフォームのArtsyの株式を取得しており、これが実現すると2社は系列会社となる。

また7月初旬には、アート鑑定会社ウィンストン・アート・グループとアート・テック企業のArtoryが連携してウィンストン・アートニー・グループを設立。従来の鑑定サービスにブロックチェーン技術、5000万件を超えるアート市場取引のデータベースを組み合わせることで、より信頼性の高い鑑定システムを構築した。さらに、今年6月にフィリップス・オークションズの元CEO兼会長のエドワード・ドルマン、香港を拠点とするコンサルティング会社パティ・ウォン&アソシエイツ代表のパティ・ウォンらアート界の重鎮5人がアートコンサルティング会社、ニュー・パースペクティブス・アート・パートナーズ(NPAP)を設立した

アートロジックとアートクラウドは当面は個別に運営するため、どちらのプラットフォームのクライアントにも即座の仕様変更やサービス中断は発生しない。2社は舞台裏でチームとテクノロジーの統合を進めていく予定だ。(翻訳:編集部)

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