高額落札続くマグリットとラランヌ夫妻──両者による50点超を紹介、意欲展がNYで10月開催
低迷するアート市場で、オークションの高額落札を連発しているのがシュルレアリストのルネ・マグリット、そして動物などをモチーフにした独創的なデザイン作品で知られるフランソワ=グザヴィエ・ラランヌとクロード・ラランヌ夫妻だ。彼らの創造性を堪能できる意欲的な展覧会が、10月にニューヨークで開催される。主催者のギャラリストに企画の背景を取材した。

今秋、ニューヨークのディ・ドンナ・ギャラリーズは、ロンドンのベン・ブラウン・ファイン・アーツと共同で、ルネ・マグリットとラランヌ夫妻の作品を集めた大規模な展覧会を開催。油彩画や紙ベースの作品、彫刻など50点を超える作品が展示される。
10月8日にニューヨークで開幕する「Magritte and Les Lalanne: In the Mind’s Garden(マグリットとラランヌ夫妻:心の庭にて)」は、個人コレクターから借り受けたマグリットの絵画が、フランソワ=グザヴィエ・ラランヌとクロード・ラランヌの遺族から提供された作品と組み合わせて展示される貴重な機会となる。その企画のユニークさについて、ギャラリストのエマニュエル・ディ・ドンナはUS版ARTnewsの取材にこう答えている。
「このような展覧会はこれまで開かれたことがありません。斬新で、現代の人々の感性に訴えるプロジェクトですし、とてもポエティックな展覧会になるはずです。同じ場所に展示されることで、彼らの作品は新たなハーモニーを奏でてくれるでしょう」
長い間一般公開されていない個人蔵の作品も数多く出展予定
3人のアーティストは、シュールかつ詩的な形で自然界を表現する共通の感性を持っている。それに加え、1960年代には全員が伝説的なギャラリスト、アレクサンダー・イオラスのギャラリーに所属していたという背景もある。
ディ・ドンナによると、この展覧会の話が持ち上がった昨年末から、「かなり迅速に」企画が進んだという。ラランヌ夫妻の遺族による作品提供が決まったことや、ディ・ドンナが長年アート市場でマグリット作品を扱ってきたこと、そして主要な個人コレクターらが所蔵作品の貸し出しに同意したことがその理由だ。ディ・ドンナは交渉の経緯をこう説明する。
「私はほとんどのマグリット作品がどこにあるかを知っています。所有者に電話や手紙で連絡を取り、私たちが企画している展覧会の背景にある考えを伝え、すでに出品が決まっている作品を例に挙げながら、マグリットとラランヌ夫妻の作品の組み合わせがこの上なく調和することを具体的に見せました。人々は常に美しい展覧会を必要としています。感動できる展覧会を作れるなら、喜んで協力したいと思う人は多いはずです」
一方、ロンドンのベン・ブラウンがラランヌ夫妻の作品を扱い始めたのは数年前からだが、夫妻とはその存命中に交流があった。ブラウンはラランヌ作品に対する需要が拡大し、新たな買い手が増えていると感じている。

ディ・ドンナは、さらに多くの出品作を確保するため、今後数週間にわたりコレクターへの貸し出し依頼を続ける。その中には、長い間一般に公開されていない作品も入っているという。
「美術館などの展示施設で長らく公開されていない作品がたくさんあります。ラランヌ夫妻の素晴らしい作品と、めずらしいマグリット作品を一緒に見せられるのは本当に嬉しいことです」
既に出品が決まっている作品には、注目すべきものが複数ある。昨年3月にロンドンのクリスティーズで3366万ポンド(最近の為替レートで約66億2000万円、以下同)で落札されたマグリットの油彩画《L’ami intime(親しい友人)》(1958)がその1つ。そして、フランソワ=グザヴィエ・ラランヌの《Hippopotame I(カバI)》(1968/1998)と《Sauterelle(バッタ)》(1970)だ。
ポリエステル樹脂と真鍮でできた鮮やかな青のカバの彫刻は、全長が約2.7メートルあり、バスタブとして使用できる。陶器と磨かれた真鍮、鋼鉄でできたバッタ形の大型作品は2点限定で制作され、バーカウンターになる。ディ・ドンナは《Sauterelle》を「素晴らしく創造的な作品です」と称賛し、「意外性のあるそのスケール感は、まるでUFOのようです」と表現した。

不振のアート市場で高額落札が続くマグリットとラランヌ作品
「2011年にギャラリーを立ち上げた私が、最初に開いた展覧会がマグリット展でした」
当時のカタログの表紙に掲載されている「光の帝国」シリーズの作品(1954年作のもの)を指しながらディ・ドンナは言う。この作品は、昨年11月にクリスティーズの20世紀イブニングセールで1億2120万ドル(約180億円)で落札され、マグリットのオークション記録を更新した。
アート市場が低迷する中でも、マグリットとラランヌ夫妻の作品に対する関心は依然として高い。この5月にクリスティーズで行われたルイーズ&レナード・リッジオ夫妻によるコレクションのオークションでは、マグリットの「光の帝国」シリーズの別作品(1949)が、手数料込み3490万ドル(約52億円)で落札されている。ちなみにその金額は、同作品が前回オークションに登場した2023年11月の結果とぴったり同じだった。
6月には、サザビーズ・ニューヨークで開催されたデザインセールで、フランソワ=グザヴィエ・ラランヌが手がけた実物大のサイのブロンズ製デスク《Grand Rhinocéros II(大きなサイII)》(2003)が、予想最高額の500万ドル(約7億4000万円)を大幅に上回り、手数料込み1642万2000ドル(約24億3000万円)で落札された。フランソワ=グザヴィエにとって史上2番目の落札額となるこの作品は、同セールのトップロットとなっている。
ラランヌ夫妻の作品は独特なスタイルを持ち、買い手も増加していることから、その市場にはまだ成長の余地があるとディ・ドンナは見ている。
「作品の質と遊び心において、彼らに匹敵する作家はいません。巨大なカバやゴリラ、小さなキャベツなど、彼らの作品を一目見れば、それらが非常に詩的で美しく、生活空間に置きたくなる魅力にあふれていることが分かるでしょう。まるで魔法のように魅惑的です」
プレスリリースによると、「Magritte and Les Lalanne: In the Mind’s Garden」展の図録には、シュルレアリスムの著名な研究者たちによる、マグリットとラランヌ夫妻に関する寄稿も掲載されるという。(翻訳:野澤朋代)
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