KAWSのパブリックアート展示中止をめぐる争いが決着。シンガポールのアートNPOが主催者に謝罪
KAWS(カウズ)のパブリックアートをシンガポールのウォーターフロントで展示するプロジェクト中止を求めた同国のアートNPOライアン財団が、プロジェクト主催者に「困惑や不安」を感じさせたとして謝罪を行った。この問題の経緯をまとめた。
ライアン財団が中止を求めていたのは、ブルックリン在住の米国人作家ブライアン・ドネリー(通称KAWS)の有名なキャラクター、「コンパニオン」の巨大な像を展示するプロジェクトで、同財団のディレクターであるシンガポール人コレクター、ライアン・スーとエイドリアン・チャンが、このプロジェクトの企画に関わっていたと主張。ARRが財団の知的財産権を侵害し、「機密情報」を流用したと非難していた。
同財団の謝罪は、KAWSの展示を主催した香港のクリエイティブスタジオ、オール・ライツ・リザーブド(ARR)との和解の一部として行われたもの。これにより、10カ月に及ぶ両者の法廷闘争に終止符が打たれた。
2021年11月から続いていたこの争いは、シンガポールのNPOでアートプロジェクトの企画を手がけるライアン財団が、ARRが主催する「KAWS: HOLIDAY Singapore(カウズ:ホリデー・シンガポール)」の中止を求め、裁判所に仮差し止め命令の申請をしたことが発端だった。そのため、ザ・フロート@マリーナベイで開催予定だった展示の設営は、一時的に中断を余儀なくされていた。
それに加え、2018年のソウル開催を皮切りに、世界各地を巡回していたこのアートプロジェクトの中断によって、関連商品の販売や流通、広告も全て停止された。
しかし、シンガポールの裁判所は仮差し止め命令を出した2日後、ARRの弁護団からの申し立てを受けて命令を撤回した。11月18日に展示は再開され、ライアン財団はARRの訴訟費用を支払うよう命じられている。その後、両者の争いはさらにエスカレート。ライアン財団は裁判に持ち込むと脅しをかけ、ARRは名誉毀損でライアン財団のディレクターらを逆提訴した。
そして、シンガポールでの展示終了から10カ月後の22年9月21日に行われた調停により、ようやく和解が成立。ARRはその中で、ライアン財団に対する名誉毀損の訴えを取り下げることに合意している。同財団が訴訟費用を負担することになるかどうかは明らかにされていない。
ARRのクリエイティブディレクター兼キュレーターのS・K・ラムは9月26日、ARRに対する疑惑は「不正確」だったと記されたスーとチャンの手紙の写真をインスタグラムに投稿した。手紙にはまた、こう書かれている。「ARRは、シンガポールで同展示を企画し、実施する権利を持っていました。私たちの申し立てがARRとその役員に困惑または不安、あるいはその両方を感じさせたことを謝罪します」
ラムは手紙の写真の下に次のように書き込んでいる。「展示は一時中断されたものの、私たちは、愛情深いシンガポールの人々をはじめとするサポーターの皆さんからの、展示に対する大きな支援に感動しました。近いうちにこの街でまた、皆さんにお会いしたいと思っています」
ARRが出した声明にも、「私たちの長年の協力者であり、高い評価を得ている現代アーティストのKAWSや、私たちのパートナーたち、そしてずっと変わらずに支えてくれた友人たちに感謝します」と記され、ラムがインスタグラムに書き込んだコメントと同じ文章が続いている。(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月27日に掲載されました。元記事はこちら。