丸の内のメガバンクのエントランス、国内最大級のギャラリーに変身
東京・丸の内のメガバンクに、国内最大級の「大型ギャラリー」が、今月中旬までの期間限定で出現している。「お堅い」銀行のエントランスでの「先端的な」現代アートの展示は、一見ミスマッチな異色の取り合わせだ。しかし展示作品は、日本有数のコレクターが所有する名品ばかり。贅沢(ぜいたく)で特別なひとときを無料で味わえる貴重な機会、仕事のついでにふらりと立ち寄ってみてはいかが?
日本経済の中心地、東京・大手町。その一角にある三井住友銀行(SMBC)の東館に入ると、開放的な吹き抜けの空間が広がる。オフィスビルのこのエントランスで、いま、先端的な現代アート作品を紹介する「SMBC meets Contemporary Art〜Come take a look!」が開かれている。1月25日から2月18日までの期間限定「ギャラリー」で、入場は無料だ。
「アース・ガーデン」と呼ばれるこの場所は、天井高は9メートルを超え、床面積は約470平方メートル以上。「ギャラリー」としては国内最大級の空間だ。
2015年の完成以来、一般向けの様々なイベントを開いてきたが、本格的なアート展示は今回が初めて。オフィス街である地域のにぎわいを創出するとともに、芸術・文化や社会的な課題に貢献する役割を考えるなかで、顧客の間でも関心が高まっている現代アート展の構想が浮上。事業家でアートコレクターの田口弘氏(ミスミグループ本社創業者)と長女の田口美和氏(タグチアートコレクション共同代表)、アートディーラーの塩原将志氏(アート・オフィス・シオバラ代表)の協力で、異色の企画を実現させた。
平面、立体、吊り物……現代アートの多様性に出会える
今回、展示されているのは、田口氏のコレクション「タグチアートコレクション」から選んだ18点。作品の選定では、金融機関のイメージと重なる四つのキーワード、「国際性」「信頼」「継続性」「チャレンジ精神」を意識したという。
永代通り側から会場に入ると、まず出会うのが、簡潔な線と点で人物を描くジュリアン・オピーの《シャヌーザ、ポール・ダンサー》(2006年)。その隣には、田口氏がコレクションを始めるきっかけとなったキース・ヘリングの《無題 5月31日》(1989年)が並ぶ。ともにポップでユーモラス、そしてどこかメランコリーが漂う。
もうひとつの入り口(日比谷通り側)には、十数体の黒い人物像がうずくまる。ハルーン・グン=サリの《センゼニナ(われわれが何をしたのか)》(2018年)で、南アフリカで鉱山労働者34人が警察によって射殺された事件に着想したという。傍らには宮島達男の《Counter Falls》(2018年)がある。縦長のLEDディスプレー上で1から9までの数字が生成しては落下し、消滅していく。その様は東洋的な無常観を感じさせる。
これらは、いわば現代アート表現の「両極」を示す作品として、会場の両端に配置されている。その間の空間に、三角柱型の壁面にかけられた平面作品や天井から吊(つ)るされた大型絵画、床置きされた立体作品などが並ぶ。鑑賞者は歩みを進めるたびに、現代アートの様々な傾向と表現に出会い、それによって現代世界の諸相を感知することにもなる。
窓越しに街に開かれた展示も
建築家・吉野弘氏による会場構成は、ビルの外の街路を行き交う人々をも意識しているようだ。それを感じさせるのが、アーティストユニット「スーパーフレックス」による《It is Not the End of The World》(2019年)の展示。白い大型ボードに青色LEDの文字を載せた作品を、街路側からも鑑賞できるようにガラス窓に向けて設置している。「世界はまだ終わるわけではない、まだ望みはある」という意味のテキストは、地球環境の問題へのメッセージとされる。街路上の「偶然の鑑賞者」たちは何を想起するだろう。行き詰まった恋愛や仕事への激励と受け止めるかもしれない。そうした開かれた多義性こそが現代アートの魅力であることを、窓越しの展示はさりげなく告げている。 (文・写真:西岡一正)
展覧会情報
展覧会名:「SMBC meets Contemporary Art〜Come take a look!」
会場:三井住友銀行東館1階「アース・ガーデン」(東京都千代田区丸の内1-3-2)
会期:2月18日まで。月〜金は9〜18時、土日祝は13〜18時。無料。