ニューヨークで注目の左派ジャーナリズム誌「ザ・ドリフト」に、メガギャラリーのデイヴィッド・ツヴィルナーが資金提供
草間彌生、ジョーダン・ウルフソン、ケリー・ジェームズ・マーシャルなどの著名な所属アーティストを抱える世界的メガギャラリー、デイヴィッド・ツヴィルナーが、ニューヨークで大きな注目を集める雑誌「The Drift(ザ・ドリフト)」への資金支援を発表。これは、ギャラリーとしては異例の試みだ。
9月28日、デイヴィッド・ツヴィルナーは雑誌「The Drift(ザ・ドリフト)」(以下、ドリフト誌)の主要資金提供者になることを発表。これにより、非営利で運営されている同誌は予算増が見込めることになる。また、デイヴィッド・ツヴィルナーは来年から、ドリフト誌の催事の主催を務めるという。
年3回発行されるドリフト誌は、2020年にキアラ・バロウとレベッカ・パノフカが、かつて存在したような雑誌への回帰を構想して創刊した。具体的には、知識人指向の左派ジャーナリズムで、長文の批評を掲載するような雑誌だ。バロウとパノフカは創刊号で、ほとんど全ての記事は「マスメディアの画一的な思考に染まっていない若いライター」によるものだと書いている。
デイヴィッド・ツヴィルナーの息子で、ギャラリーの出版物などコンテンツ全般の責任者であるルーカス・ツヴィルナーは、あるインタビューでこう述べている。「ドリフト誌は非営利で、支援に値するのは間違いないし、支援を必要としている。我われは、『ニュー・ヨーク・レビュー・オブ・ブックス(New York Review Of Books)』のような、文化形成に影響力のある出版物に関われると考えている」
創刊以来、ドリフト誌の内容や関係者は多方面から注目を集めてきた。たとえば、ニューヨーカー誌のエディター、デイヴィッド・レムニックはニューヨーク・タイムズ紙に、「ドリフトのような雑誌を読まないなんてバカとしか言いようがない」と語り、ニューヨーク・タイムズ紙はドリフト誌を「今を時めく雑誌」と表現している。
ドリフト誌の読者が高く評価するのは、同誌の考察的で、時には物議を醸すような長文記事だ。最近では、アンソニー・ファウチ博士(米国のコロナ対策を主導してきた専門家)に対する「リベラルな弁明」、「ブラック」という言葉を大文字で書くことの問題点、美術史家のマイケル・フリードが提唱する用語を使ってミニマリズムについて語ることの落とし穴といった記事を掲載している。
そのミニマリズムに関する記事を書き、編集部に売り込んだのは他でもないルーカス・ツヴィルナーだ。彼いわく、ドリフト誌の編集作業があまりにもすばらしかったので、ギャラリーと同誌の長期的なパートナーシップを築きたいと考えるようになったという。
キアラ・バロウはARTnewsの電話取材にこう答えた。「デイヴィッド・ツヴィルナーの資金提供でドリフト誌の感性が損なわれることはありません。重要なのは、我われがギャラリーの編集部門に取り込まれることなく、独立していることです。一方、編集者たち(多くはボランティア)が、これまでよりさらに野心的な記事や報道プロジェクトを発注し、相応の執筆料を出せるようになるという利点があります」
デイヴィッド・ツヴィルナーは、競合ギャラリーのペース、ガゴシアン、ハウザー&ワースと同じく、カタログや伝記、評論集などを扱う出版部門を持っている。出版物の多くはギャラリーの所属アーティストに関連したものだが、それが全てではない。
ドリフト誌はデイヴィッド・ツヴィルナー・ブックスと関係を結ぶことはないが、今回の資金提供は、ギャラリーの編集部門を拡大しようというルーカス・ツヴィルナーの試みの一環であることは間違いない。
ルーカス・ツヴィルナーは、「ドリフト誌の記事の大半がアートと関係ないものでも構わない。ギャラリーの支援は主に、新しい世代のライターへの資金提供だ。こうしたサポートから数多くの良い結果が生まれることを期待しているし、それが文筆の世界にも波及していくだろう」と抱負を語った。(翻訳:鈴木篤史)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月28日に掲載されました。元記事はこちら。