今週末に見たいアートイベントTOP5:髙田姉妹が描く生命の歴史の層、約30点でシュヴァンクマイエルと妻の創作に迫る

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

髙田安規子・政子 Perspectives この世界の捉え方(資生堂ギャラリー)より、《Spectrum》、(Electromagnetic wave部分) 2025 サイズ可変 フィードサック(ヴィンテージ・ファブリック)、ベッド、ベッドカバー 撮影:加藤 健

1. 「エヴァ&ヤン・シュヴァンクマイエル博物誌」展(Galerie LIBRAIRIE6)

夫婦の創作を「博物誌」というテーマで眺める

チェコの映像作家ヤン・シュヴァンクマイエルとその妻エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーによる展覧会。ヤンは1940年チェコ生まれのシュルレアリスムの芸術家でありアニメーション作家。プラハの名門ラテルナ・マギカ劇場の舞台監督を務めた後、初短編『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』(1964)を発表し、『J.S.バッハ G線上の幻想』(1965)でカンヌ国際映画祭の短編部門審査員賞を受賞した。以降、ストップモーションの手法を使った短編アニメを多数製作してきた。同年生まれのエヴァ(-2005)はチェコ国立芸術アカデミー演劇学部人形劇科でヤンと出会った。夫の映画の美術を担当した一方で、チェコの後期シュルレアリスムを代表する画家・詩人・小説家として活動した。

本展は、「博物誌」というテーマのもと集めた、2人によるドローイング、コラージュ、立体作品約30点を展示する。およそ50年という長きに渡って人生と創作を共にした2人の作品世界を楽しんでもらいたい。

「エヴァ&ヤン・シュヴァンクマイエル博物誌」展
会期:8月23日(土)~10月19日(日)
場所:Galerie LIBRAIRIE6(東京都渋谷区恵比寿南1-12-2)
時間:12:00~18:00(トークイベント開催日は16:00、10月19日は17:00まで)
休館日:月火祝


2. 髙田安規子・政子 Perspectives この世界の捉え方(資生堂ギャラリー)

《Relation of the parts to the whole》 2025 サイズ可変 鏡(217枚)、金具 撮影:加藤 健
《Strata》 2025 サイズ可変(本棚:H2,400×W1,400×D1,400mm) 化石、古本、鉱石、岩石、生物の骨 撮影:加藤 健
《Spectrum》、(Electromagnetic wave部分) 2025 サイズ可変 フィードサック(ヴィンテージ・ファブリック)、ベッド、ベッドカバー 撮影:加藤 健
《Magnetic field (Jupiter/Saturn)》 2020 251×163mm 図版、磁石、砂鉄 《Magnetic field (Earth)》 2020 250×178mm 図版、磁石、砂鉄 撮影:加藤 健

生命が紡ぐ壮大な時と知の連なりを表現

身近な素材を用いて空間や時間の「スケール(尺度)」をテーマに制作を行う一卵性双子のアーティストユニット、髙田安規子・政子による待望の個展。新作とこれまでの作品を再構成したものを中心に約20点展示する。

本展では、資生堂の社名の由来である易経の一節「至哉坤元 万物資生」の考えを起点に、生命やその成り立ち、進化の歴史を時間の層として描き出しながら、自然の法則で宇宙までつながる時空間を、スケールとともに巨視的・微視的に捉え可視化することを試みる。展示の中心となる新作《Strata》では、約500冊の本と鉱石や化石を本棚に配置し、生物の誕生から人新世までの時と知の連なりを表現する。また、細かな模様のパッチワークキルトが掛けられた9つの大きさのベッドを全ての生命の源となる光の粒子になぞらえた《Spectrum》(2024)など、数学や物理学的なアイデアを繊細な手仕事や緻密な構成で制作された2人の真骨頂とも言える作品も並ぶ。

髙田安規子・政子 Perspectives この世界の捉え方
会期:8月26日(火)~12月7日(日)
場所:資生堂ギャラリー(東京都中央区銀座8-8-3)
時間:11:00~19:00(日祝は18:00まで)
休館日:月曜


3. 『白樺』 日本における西洋美術の導入と広がり(茅ヶ崎市美術館)

岸田劉生『白樺』第10年3月号表紙、1919年、個人蔵
武者小路実篤《エジプト従者像のある静物》油彩・キャンバス、1973年、調布市武者小路実篤記念館蔵
レンブラント・ファン・レイン《アルミニウス派説教師 ヤン・アイテンボハールト》エッチング、エングレーヴィング、1635年、町田市立国際版画美術館蔵

雑誌『白樺』が日本美術に与えた影響を探る

武者小路実篤や志賀直哉ら学習院同窓を中心に1910年から1923年まで刊行された雑誌『白樺』に焦点を当てる。同誌は彼らの小説や批評を発表する場であると同時に、西洋美術を紹介する新たなメディアとしての役割も担っていた。レンブラント・ファン・レインジョルジュ・ルオーといった西洋の画家やその作品を図版や評論を通して紹介するだけでなく、彼らの芸術表現の背景にある精神性にも焦点を当てた点が大きな特徴だ。

本展では、小説家でありながら美術へも強い関心を抱き自身も絵筆を取っていた実篤と、『白樺』の表紙を多く手掛けた岸田劉生に注目し、近代日本における西洋美術受容の一側面を探る。また、白樺派が主催した西洋美術の展覧会のほか、同時期に生まれた美術雑誌や文芸雑誌なども併せて紹介することで、雑誌というメディアによって共有された理念や価値観の広がりを、当時の空気とともに伝える。

『白樺』 日本における西洋美術の導入と広がり
会期:9月2日(火)~11月9日(日)
場所:茅ヶ崎市美術館(神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45)
時間:10:00~17:00(入場は30分前まで)
休館日:月曜(10月13日、11月3日を除く)10月14日、11月4日


4. 田部井美奈 光と図形と、その周辺(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)

Design: Mina Tabei, Photo: Masaki Ogawa
『極北へ/石川直樹』毎日新聞出版(2018)/ ©Mina Tabei
「TADANORI YOKOO ISSEY MIYAKE 4」ISSEY MIYAKE INC.(2023)©Mina Tabei
「(NO)RAISIN SANDWICH」(2021)/ © Mina Tabei

気鋭のアートディレクター田部井美奈の創作に迫る

アートディレクター・グラフィックデザイナーとして活動する田部井美奈の個展。田部井は2003年より服部一成に師事し、2014年に独立。彼女の手掛ける本やパッケージには、凛とした品位のなかに明るいやさしさがあり、華美ではないにもかかわらず、人の目を惹きつける魅力がある。最近ではNHK 大河ドラマ「光る君へ」のアートディレクションで注目を集めた。

本展では、田部井が2018年より追究してきた実験作「光と図形」の最新作を、空間ごと体感できるかたちでお披露目する。同時にこれまで手掛けてきたブックデザインやパッケージ、ポスターなどのグラフィックワークの代表作を紹介することで、彼女の創作の真髄に迫る。

田部井美奈 光と図形と、その周辺
会期:9月5日(金)~10月22日(水)
場所:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(東京都中央区銀座7-7-2)
時間:11:00~19:00
休館日:日祝


5. 名もなき実昌 × 梅沢和木 企画展「MAD IMAGE」(ミヅマアートギャラリー)

展示風景 Installation View
名もなき実昌《MAD→image》2025、182×270cm、パネルに綿布、アクリル、ジェッソ、インク、©︎名もなき実昌、Courtesy of the artist and Mizuma Art Gallery
梅沢和木《更に闘う者達》2025、126×194×3.4cm、パネルに画像を出力した光沢紙、アクリル、©︎梅沢和木、Courtesy of the artist and CASHI

16人の創作から考える「現在」の姿

インターネット上のイメージや情報、コミュニティを作品のメインテーマとする、名もなき実昌と梅沢和木の共同キュレーションによるグループ展。本展は、主にインターネット上で、既存のアニメやゲームなどの映像・音声を編集して作られた二次創作作品を指す「MAD文化」を起点に、16人の作家たちの表現から分断や断絶が繰り返される現在を考える。

出品作家の年代は10代から50代までと幅広く、ジャンルも絵画、映像、アニメーション、グラフィック、音楽など多様だ。名もなき実昌は、「彼らの実践には、分断された時代の欠片をつなぎ直しながら、『現在』をほんの一瞬でも立ち上げようとするような、切実な身振りがある。そんな営みこそが、今の時代を映し出すのではないだろうか」と語る。

名もなき実昌 × 梅沢和木 企画展「MAD IMAGE」
会期:9月12日(金)~10月18日(土)
場所:ミヅマアートギャラリー(東京都新宿区市谷田町3-13)
時間:10:00~19:00
休館日:日月祝

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