MoMAが岐路に? トランプ政権の文化施設への圧力に元館長が警鐘──「自らの価値観を守るべき」
1995年の就任以来、30年にわたってニューヨーク近代美術館 (MoMA)を率いてきたグレン・ローリー元館長が、近い将来、同館が岐路に立たされる可能性があるとの懸念を示した。その背景には、トランプ大統領が文化施設への批判を強めている状況がある。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)の館長退任を前にしたこの夏、グレン・ローリーは、トランプ政権による文化施設への攻撃が続いていることへの懸念を遠回しに示し、MoMAは従来の方針で展覧会を継続するために戦わねばならないと発言した。ニューヨーク・タイムズ紙がローリーの長年の業績を評価した記事によれば、6月に行われたMoMAのガーデン・パーティで彼はこう語っている。
「もし、博物館や美術館が多元主義的な価値を重視し、表現の自由を尊重し、少数派の権利と異議申し立てを保護するべきと信じるならば、私たちは自らの価値観を積極的に守っていかねばなりません。もし、現代における最も大胆かつ果敢なアーティストたちの作品を収集・展示する美術館を望むなら、そのために戦わねばなりません。もし、世界中の作家や研究者、キュレーター、そして来館者の居場所となる美術館にしたいなら、そのために声を大にして訴えねばならないのです」
ローリーはさらにこう続けている。
「今後数カ月、あるいは数年のうちに、私たちは重大な選択を迫られることになるでしょう。第2次世界大戦以来のどの時期よりも難しいものになるかもしれません」
トランプ政権はまだMoMAを標的にはしていないが、ワシントンD.C.を中心に博物館群を運営するスミソニアン協会に対しては激しい非難を連発。「RESTORING TRUTH AND SANITY TO AMERICAN HISTORY(アメリカの歴史に真実と健全さを取り戻す)」と題された3月の大統領令(行政命令)では、同協会が「分断を招きかねない、人種のテーマに偏ったイデオロギーの影響下にある」とし、展示排除への警告を発している。
このスミソニアン協会をめぐる混乱の中、検閲への抗議を申し立てたのがミシェル・オバマの公式肖像画を手がけたことで知られるエイミー・シェラルドだ。彼女は、同協会の国立肖像画美術館が、自由の女神に扮した黒人のトランスジェンダー女性の絵画を撤去するよう求めたとし、同館での回顧展を中止した。
また、ローリーの在任時、MoMAはトランプ政権を間接的に批判する展示を行ったことがある。2017年初めにトランプ大統領(第1次政権)は、中東やアフリカなどイスラム教の信者が多数を占める7カ国の国民の入国を一時的に禁止する大統領令に署名。これに対し、MoMAは即座に対象国出身のアーティストたちによる作品を常設展示室に展示した。この措置はニューヨークの評論家から広く称賛を集めたが、現大統領の政策を明示的に扱うことのなかったMoMAのプログラムの中では異例の対応だった。
しかし、ニューヨーク・タイムズ紙でローリー評を執筆した評論家のジェイソン・ファラーゴは、MoMAがアメリカの他の文化施設と同じ圧力に直面する可能性が高いことを示唆。彼は、「今後数年間にMoMAが成し遂げることによって、私たちの本質が定義されるだろう」というローリーの言葉を、不吉な文脈の中で引用している。
こうした課題は、ローリーの後任であるクリストフ・シェリックスに引き継がれた。版画・ドローイング部門のチーフキュレーターだったシェリックスが館長として最初に手がける主要なプロジェクトは、11月10日に開幕するキューバ生まれのシュルレアリスム画家、ヴィフレド・ラムの回顧展だ。(翻訳:石井佳子)
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