インベーダーが窃盗でオークションハウスを提訴。ストリートアート15点の無断出品めぐり争いに
フランスや東京の街頭に設置した作品がオークションに無断出品されたとして、フランス人アーティストのインベーダーがオークションハウスのジュリアンズを提訴した。インベーダーによれば作品の権利を売却・譲渡したことはなく、「盗まれ損傷を受けた」と主張している。

セラミックのタイルを使ったピクセル風のモザイク作品で知られるフランス人アーティスト、インベーダー(本名フランク・スラマ)が、エンターテインメント関連を主に扱うオークションハウス、ジュリアンズの親会社を著作権侵害、窃盗、そして視覚芸術家権利法(Visual Artists Rights Act)違反で訴えた。
提出された訴状では、インベーダーが世界各地に設置した15点の作品について「同意なしに盗まれ、切断や損傷、歪曲がみられる」と記されている。そのうち2点は2014年に東京に、5点は2024年11月にフランス各地に設置されたものだった。
これらのモザイク作品は、インベーダーが世界各地の都市部に設置しているシリーズ作品「Space Invader」に含まれる。1998年から制作されているこのシリーズは、国際宇宙ステーションに設置されているものを含め、87の国と地域に4000点以上の作品が発表されている。
こうしたなか、インベーダーは「Street Art: Paint & Pavement」と題されたオークションに同意なしに出品された15の作品について、弁護士を通じて出品取り下げと返還を求める書簡をオークションハウスに送った。ジュリアンズ側は書簡に応じなかったことから訴訟へと発展し、9月24日にカリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所に提出された文書には次のように記されている。
「インベーダーはモザイク作品を誰にも売却したこともなければ、譲渡を許可したこともない。インベーダーがすべての作品の権利者なのだ」
US版ARTnewsが当該オークションのウェブサイトを9月25日に確認したところ、争点となっている15点の作品はすべて削除されていた。裁判所は同日に、インベーダーが提出した差し止め命令の請求も承認している。インベーダーの弁護士を務めるスコット・アラン・バロウズはUS版ARTnewsの取材に対してこう語る。
「差し止め命令が承認され、著作権侵害や窃盗の疑いがかけられている作品のオークションを止められたことを嬉しく思います。ジュリアンズには事前に連絡し、裁判前の話し合いを求めましたが、私たちの要請が無視されたため、法廷で争うことになってしまいました。アーティストとしてのインベーダーの権利が認められ、適切に保護されることを期待しています」
一方で、ジュリアンズの共同創業者兼エグゼクティブ・ディレクターのマーティン・ノーランは、次のような声明を発表した。
「当社は20年以上にわたり、現代アートとストリートアート市場を切り拓いてきた革新的存在であることに誇りをもっています。また、アーティストやコレクター、遺産管理団体と提携し、透明性と誠実さをもって真正作品を取り扱ってきました。ストリートアートは公共空間で制作されるという性質上、合法的な手段で取得した人がその所有権を得ることになります。ストリートアーティストの制作プロセスやビジョンを当社は最大限に尊重しており、必ず適切な同意を得て、来歴を確認し、提携関係を築いた上で作品を出品しています。すべてのオークションと同様に、アーティストの功績の保護、そして世界的なコレクターコミュニティの信頼維持を当社は最優先事項に掲げています」
今回の訴訟とは別に、インベーダーは公共空間での活動を続けている。2024年パリオリンピック・パラリンピック競技大会の期間中には「オリンピックを祝う」作品を発表した。フランス法ではその作品は器物損壊にあたるが、当局は事実上これを容認している。『ニューヨーカー』誌は2023年、パリ市長アンヌ・イダルゴの執務室にもインベーダーの作品が飾られていると報じている。(翻訳:編集部)
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