ピカソ作品に来歴問題? 前所有者の犯罪歴未開示を理由に、コレクターがオークションハウスを提訴

US版ARTnews「TOP 200 COLLECTORS」に名を連ねるコレクターが、クリスティーズを提訴した。訴状によれば、購入したピカソ絵画の前所有者に薬物犯罪歴があったことが事前に知らされていなかったという。原告は、契約取り消しと約9億5000万円の手付金返還を求めている。

訴訟の争点となっているパブロ・ピカソの《Femme dans un rocking-chair》 (1956)。Photo: Wiktor Szymanowicz/Future Publishing via Getty Images
訴訟の争点となっているパブロ・ピカソの《Femme dans un rocking-chair》(1956)。Photo: Wiktor Szymanowicz/Future Publishing via Getty Images

コレクターのササン・ガンデハリは、クリスティーズから購入したパブロ・ピカソの絵画の来歴をめぐり、同社を提訴した。彼の主張によれば、この絵画の前所有者が薬物関連の罪で有罪判決を受けていたことを購入前に知らされていなかったという。ガンデハリは妻のヤスミンとともに、US版ARTnewsが発表している「TOP 200 COLLECTORS」に名を連ねている。

フィナンシャル・タイムズによれば、懸案の絵画はピカソの《Femme dans un rocking-chair》(1956)で、2023年2月にロンドンで行われたクリスティーズのイブニングセールに出品された。本作は、不落札の場合にロンドンを拠点とするガンデハリが代表を務める企業、ブルワー・マネジメント・コーポレーション(BMC)が1450万ポンド(約28億7300万円)で購入するという第三者保証が付けられていた

イングランド・ウェールズ高等法院の大法官部に提出された訴状によれば、《Femme dans un rocking-chair》はかつて、ホセ・メストレ・シニア(別名ホセ・メストレ・フェルナンデス)が所有していたという。メストレは2010年、貨物船に隠していた202キログラムのコカインが警察によって発見され、捜査の結果、懲役9年の実刑判決と1400万ユーロ(現在の為替で約24億円)の罰金刑が言い渡されている。

また訴状には、本作がオークションに出品された際、クリスティーズはガンデハリに対して絵画の所有者はメストレの息子ホセ・メストレ・ジュニアであると説明していたと記されている。原告側は、受刑者が過去に所有していたことが事前に明かされていれば、第三者保証の契約に署名することは決してなかったと主張。ガンデハリはクリスティーズに対し、第三者保証契約を取り消し、すでに支払われた手付金480万ポンド(約9億5000万円)を返還するよう求めている。

第三者保証は、不落札を防ぐ目的でコロナ禍頃から一般的になったシステムで、買い手がつかなかった場合、オークションハウス以外の人物(保証人)が設定された最低価格で作品を購入することをあらかじめ保証するもの。保証人は、入札がなかった場合には購入価格を低く抑えられるメリットがあり、仮に作品が設定した価格を超えて誰かに落札された場合には、設定価格と落札額の差額から一定の割合を受け取ることが出来る。こうした手法は、高額で出品されている作品でますます一般的になっている

裁判所に提出された訴状には、《Femme dans un rocking-chair》の所有者と来歴について「誤解を招く説明をし、犯罪に由来する資産である可能性」を開示しなかったと記されている。原告側はさらに、オークションハウスの上層部がガンデハリに対し、メストレ・シニアはすでに死去しており、絵画の所有歴には「何も問題がない」と伝えていたとも主張している。一方でクリスティーズの広報担当者は、US版ARTnewsに対して次のように語っている。

「これは原告側による明白な支払い請求であり、当社はこの訴えに断固として異議を唱え、契約に基づく支払いの回収を続けます。顧客や入札者、購入者の機密情報に関する守秘義務があるため詳しくはお話しできませんが、作品と委託者に関する来歴については法的・規制上の義務を遵守していると確信しています」

US版ARTnewsはBMCとガンデハリの代理人にコメントを求めたが、返答は得られなかった。(翻訳:編集部)

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