エジプトにロゼッタストーンの返還を求める嘆願書に、2500人以上の考古学者が署名
ロンドンの大英博物館にロゼッタストーンをエジプトに返還するよう求める嘆願書が、2500人以上の考古学者の署名を集めている。嘆願書に記された主張と英国側の対応をまとめた。
9月に開始されたこの署名活動の目的は、エジプトのムスタファ・マドブーリー首相に、違法かつ倫理に反して持ち出されたロゼッタストーンと古代エジプトの遺物16点の返還を、改めて公式要請するよう促すことにある。
ロゼッタストーンの返還を求める署名活動を呼びかけたのは、エジプトの著名な考古学者ザヒ・ハワスだ。ハワスとともに今回の運動を始めた考古学者のモニカ・ハンナはCBSニュースに、「これまでは政府がエジプトの遺物返還を求めていたが、今回はこれだけの人々が自分たちの文化を取り戻そうと立ち上がっている。国民からの要請だ」と語った。
ロゼッタストーンは約2200年前に作られたとされる花崗閃緑岩の石碑で、神聖文字(ヒエログリフ)、民用文字(デモティック)、ギリシャ文字が刻まれている。1799年にフランスのナポレオン軍がエジプト遠征を行った際、ラシード(ロゼッタ)という都市の近くに砦を作っていた兵士によって偶然発見された。
その後、ナポレオン戦争における協定により英国がフランスからロゼッタストーンを獲得し、大英博物館に1802年から保管されている。考古学者たちが初めて古代のヒエログリフを解読するきっかけとなったこの石碑は、大英博物館の所蔵品の中でも最も有名な古代遺物の1つだ。
嘆願書にはこう書かれている。「ロゼッタストーンなどの遺物を持ち去った行為は、エジプトの文化財とアイデンティティを侵害するもので、エジプトの文化遺産に対する文化的かつ植民地的暴力の結果でもある。今日まで大英博物館がこうした遺物を保有しているのは、過去、植民地で文化的暴力が行われたことを裏付けている」
さらに嘆願書の主張は続く。「歴史を変えることはできないが、過ちを正すことはできる。大英帝国によるエジプトの政治的、軍事的支配は何十年も前に終わっているが、文化的な植民地支配はまだ終わっていない」
これに対し大英博物館側は、これまでエジプト政府からの正式な返還要請はなかったと述べている。
その一方で、今年に入り、大英博物館が所蔵する植民地時代の略奪品返還に向けた取り組みが再開された。たとえば、エルギン卿がギリシャから持ち出したパルテノン神殿の大理石彫刻に関する書簡が最近見つかっている。それによれば、この大理石彫刻がイギリスに到着した際、関税が支払われていなかったという。
しかし、英国のリズ・トラス新首相は10月初旬に、この大理石彫刻のギリシャへの返還を支持しないと述べている。(翻訳:石井佳子)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年10月7日に掲載されました。元記事はこちら。