テイラー・スウィフトの新アルバムをもっと楽しむための豆知識! 有名美術館も認める名画との共通点
テイラー・スウィフトの最新アルバム『The Life of a Showgirl』のリードシングル「The Fate of Ophelia」は、有名なシェイクスピアの悲劇を新たに書き換える試みだ。この悲劇が数々の創作に与えた多大な影響の代表例と言えるあの名作を例に、テーマを掘り下げていく。

10月3日にリリースされたテイラー・スウィフトの新アルバム『The Life of a Showgirl(ショーガールの人生)』は、リリース初日にSpotify、Apple Music、Amazon Musicでストリーミング最高記録を樹立し、そのリードシングル「The Fate of Ophelia(オフィーリアの運命)」もまた、Spotifyで初日の新記録を打ち立てた。アルバムリリースに合わせて限定公開された映画『Taylor Swift: The Official Release Party of The Life of Showgirl』も大ヒット。そこには、この代表曲のミュージックビデオ撮影秘話も含まれていた。
「The Fate of Ophelia」は、そのタイトルが示唆する通り、時代を超えて数えきれないほど多くの芸術家を刺激してきた、親しみがありつつも悲劇的な物語を題材にしている。オフィーリアとは、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ハムレット』に登場する悲劇のヒロインだ。劇中でハムレットは誤って恋人オフィーリアの父を殺めてしまい、これをきっかけに2人の関係は破綻する。深い悲しみに沈んだオフィーリアはやがて川に身を投げ、命を落とす。
1623年の初出以来、この物語が様々な創作に与えた影響の中でも歴史的に最も重要な作品の一つと言えるのが、ラファエル前派の中心的存在であったジョン・エヴァレット・ミレーによる絵画《オフィーリア》(1851–52)だ。田園の小川で死を目前に歌うオフィーリアを描いたこの傑作は、女性の苦悩を多層的かつロマンティックに表現しており、画中の花々にはヴィクトリア朝時代の徳や意味がそれぞれ込められている。
テート・ブリテンで定期的に展示されているこの作品を所蔵するテートは今週、アルバム発売に合わせて《オフィーリア》をInstagramに投稿。「オフィーリアの真の運命」と題して、そのモデルとなった画家エリザベス・シダルが1862年に薬の過剰摂取により亡くなったことを紹介した(当時は自殺が違法であり、死因はいまも議論が残る)。
水面に頭を浮かべたスウィフトの姿を捉えた『The Life of a Showgirl』のジャケットにも、ミレー作品との共通点が指摘されている。もっともスウィフト自身は、現在婚約中のアメリカンフットボール選手、トラヴィス・ケルシーとの順調な関係を背景に、オフィーリアの物語の再構築に成功していると言える。
軽快なポップナンバーである本曲の冒頭で、彼女はこう歌う。
あなたが私を見つけてくれなかったら 悲しみの中で溺れていたかもしれない」——まるでシェイクスピアの登場人物のように。
続くサビでは、
ある夜遅く あなたは私の墓を掘り返し オフィーリアの運命から私の心を救った
と歌い上げ、原作では決して与えられなかった「幸せな結末」を実現させている。
これからあなたが夢見てきた眠れぬ夜が始まるの オフィーリアの運命よ」と続ける一節は、その物語を新たな光の下に置く。
さらに2番では、愛に恵まれなかったオフィーリアの背景を補いながら、ケルシーと出会う以前の波乱に満ちた自身の恋愛遍歴をも重ね合わせる。そして最後にスウィフトは、彼と愛を見つけたことで自らの結末が変わったことを宣言する。
オフィーリアの運命は 私の記憶の奥に閉じ込められた
鍵を持っているのはあなただけ
もう二度と溺れも 欺かれもしない
あなたが私を迎えに来てくれたから
「The Fate of Ophelia」の「逆転の結末」は、2008年の代表曲「Love Story」を想起させる。あの曲でもスウィフトは、シェイクスピアの悲劇『ロミオとジュリエット』の物語を、ハッピーエンドへと書き換えてみせたのだ。
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