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アートバーゼルがパリに上陸! 「Paris+」の全貌を解き明かす

今年1月、アートバーゼルがフランスの首都パリで新たなフェアを立ち上げると発表すると、アート界に衝撃が走った。しかも、長年フランスの最高峰フェアとして君臨してきたFIACと同じ会場、同じ会期での開催だという。10月19日に始まった「Paris+, par Art Basel(以下、Paris+)」を紐解く。

COURTESY ART BASEL

Paris+は、10月19日(水)のVIPデーを皮切りに23日(日)まで開催される。前週のFrieze Londonに参加したギャラリーを含め、世界各国から数百のギャラリーが参加している。しかし、Paris+,parArt Baselとは一体何なのか。そして、FIACとの関係は……? ここでは、世界で話題の最新フェアに関するすべての疑問に答えていく。

「Paris+,par Art Basel」とは?

Paris+,par Art Baselは、世界最大のアートフェアであるアートバーゼルの傘下で開催される4度目のイベント。アートバーゼルは、香港、マイアミビーチ、スイスのバーゼルで定期的に開催されてきた。今回のParis+もそれらと同様、大規模な売上と多数の来場者が期待される。

なぜパリを選んだのか?

アートバーゼルの最新フェアがフランスの首都で開催されるのは、多くの市場関係者がパリへと目を向けるようになったからである。

その理由の一つが2020年初頭に完了したイギリスのEU離脱(Brexit)であることは言わずもがな。加えて、新型コロナウイルスによるパンデミックもこの傾向を後押しした。25年以上にわたってパリを含む多数のアートスペースを運営してきたディーラー、マリアン・グッドマンも、同年、ロンドンのギャラリーを閉鎖した際にそう語っている。

さらに、パリのアートシーンに対する国際的な認識が変化していることも要因の一つだ。20世紀半ばにニューヨークがパリから「世界の芸術の都」の座を奪って以後、パリのギャラリーのインフラとアートのエコシステムは衰退の一途をたどり、その後も挽回することはなかったというのが、多くの人々の共通認識だった。しかし近年、再びパリが元気を取り戻しつつあるというのだ。著名アートディーラーのタデウス・ロパックは、「この状況を疑問視する声があっても、あるいはこの活況が人為的に操作されたものだったとしても、パリが今、再びルネサンスを迎えていることは確か」と話す。

パリで開催される他のフェアは?

答えはYES。毎年秋に開催されるFIACは、大規模なギャラリーが集まる一流のフェアで、50年近い歴史がある。アートバーゼルに比肩する規模のアートフェアはほかにはないが、「パリ・インターナショナル(The Paris Internationale)」のような、若い小規模ギャラリーが集まる面白いフェアもある。しかも今回、パリ・インターナショナルはアートバーゼルと同時開催されている。また、来春にはアート・パリ(Art Paris)が、さらに11月にはグラン・パレ・エフェメール(Grand Palais Éphémère)でパリ・フォト(Paris Photo)が開催される予定だ。

FIACは今後どうなる?

事実上、Paris+に会場と開催タイミングを奪われたため、今年のFIACの状況は不明確なままだ。FIACは通常グランパレで開催されてきたが、現在は改修工事のためグランパレ・エフェメールの仮設スペースで開催されるはずだった。しかし、グランパレのディレクターであるクリス・デルコンらが、10月に別の大きなフェアを開催する可能性を探っているという噂が流れ、2021年末頃には次のFIAC開催は見送られたとする見方が強まった。これを受けてグランパレは、FIACやParis Photoを運営するRX Globalとの契約を解除したと発表。RX Globalは10月をアートバーゼルに譲った代わりに、Paris Photoの11月開催を継続する7年契約を獲得した。その数ヵ月後にデルコンは、グランパレからカルティエ現代美術財団に移籍することが発表された。

FIACの対応は?

Paris+が発表されると、FIACはこの決定に対する不服を申し立て、法廷に持ち込む構えでいた。しかし裁判所は、グランパレは2022年と2023年のFIAC開催を契約上約束していないことを理由に、アートバーゼルによるParis+の開催は問題がないとして、FIACの異議申し立てを却下した。

Paris+は誰がリードしている?

Art BaselがParis+の発表の際に公表した上級役員は以下の通り。
ディレクターにClément Delépine、ゼネラルマネジャーにVirginie Aubert、副ディレクターにMaxime Hourdequinが就任。また、3人のフランス人ディーラーと4人のインターナショナルディーラーが選考委員を務める。フランス人ディーラーは、Air de ParisのFlorence Bonnefous、Galerie Chantal CrouselのNiklas Svennung 、Galerie Georges-Philippe & Nathalie ValloisのGeorges-Philippe Vallois。また、インターナショナルディーラーには、アムステルダムのEllen de Bruijne 、ニューヨークのAnton Kern 、Christophe Van de Weghe、そしてケルン、ベルリン、ニューヨークにスペースを持つGalerie BuchholzのDaniel Buchholzの4人が名を連ねている。

Paris+の魅力は?

Art Baselのイベントは、世界中からコレクター、ディーラー、キュレーター、評論家、アドバイザー、アーティストが集まることで知られ、Paris+も例外ではない。また、アートバーゼルは世界のアートフェアの中でも最大規模の売上を記録している(ただし、多くの作品が先行販売され、ギャラリーが自己申告する販売データを独自に検証することは難しい)。今回のParis+で100万ドル単位の取引がどれほど実現するかは分からないが、フランス・アートシーンの市場価値と、高額な買い物をするコレクターを惹きつける力があるかどうかを試すには、良い材料になるだろう。

チケットの値段は?

1日券は40ユーロ(約5600円)で、アートバーゼル・マイアミの1日券(70ドル=約10,000円)よりも低い設定となっている。

Paris+の名前の由来は?

アートバーゼルの他のエディションの単純明快さに比べ、このタイトルはやや意味深だ。Art Baselがこの名称を選んだ理由についての公式見解はないが、フェアのグローバル・ディレクターはこの名称が発表されたときの声明で、パリ版は「文化の都としてのパリの比類なきヘリテージを尊重した」と述べている。

さらにアートバーゼルは、以前、Paris+が「ファッション、デザイン、映画、音楽といった文化産業間のダイナミックな交流」と「現代アートがそれらと切っても切れない関係にあること」を強調する試みであると発表していた。フェアのブースにそれが現れるとは思えないが、キュレーターのピエール=アレクサンドル・マテオスとシャルル・テイシューが企画する「Conversations」シリーズでは、「セーヌ川沿いのセックスとアート」「21世紀のダンディズム」といったトークが予定されており、後者では劇作家のジェレミー・O・ハリスが参加するという。

このフェアは、フランスの文化価値向上、あるいはそれ以上の価値に貢献するのだろうか。今後を見守りたい。

※米国版ARTnewsの元記事はこちら

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