モアイ像が「歩いた」という伝承は本当だった──最新研究が明かす、巨像運搬の真相

イースター島に立ち並ぶモアイ像は、どのようにして運ばれたのか。長年の謎に挑んだ最新の考古学研究が、島の伝承と科学的実験の双方から「モアイが自ら歩くようにして」運搬された可能性を裏づけた。研究者たちは、像の傾きや台座の形状に隠された「歩行の仕組み」を解き明かしている。

Moai sculptures on Easter Island. Universal Images Group via Getty Images
チリ領イースター島のモアイ像。Photo: Universal Images Group via Getty Images

チリ領イースター島に点在するモアイ像には、その文化的意義から製作・運搬方法に至るまで、長らく考古学者たちを悩ませてきた多くの謎がある。

そんな中、学術誌『Journal of Archaeological Science』に掲載されたアメリカ・ビンガムトン大学のカール・リポと同アリゾナ大学のテリー・ハントによる最新研究が、新説を唱えている。当時の人々が、92トンもの重さを誇るモアイ像を縄を使って像を左右に揺らしながら、まるで歩かせるようにして、直立したまま採石場から島各地のアフ(祭壇)へと運んでいたというのだ。

実はこの仮説は、ラパ・ヌイ(Rapa Nui)と呼ばれる島の先住民の口承伝承にも裏づけられており、この伝承の中でモアイは、まさに「歩いて」いたと語られている。

リポは過去にも、現地で行った簡易的な実験によりこの手法の可能性を示していたが、その説は一部から批判も受けていた。しかし、今回発表された新たな論文では、モアイ像の物理的特性を三次元モデリングで再現し、「歩行」動作を再現する野外実験を加えることで、より確かな実証を試みている。

島内では、測量調査や写真測量によって962体のモアイ像が確認されているが、リポとハントはそのうち、かつて運搬途中で放棄されたと見られる62体に注目した。そして、これらの像はアフに安置された完成形のモアイと比べ、胴体に対して台座部分が広く設計されていることが判明したという。広い台座は重心を低く保ち、左右に揺らす「歩行」動作の安定性を高める構造になっていた。

さらにモアイは、垂直軸から6〜15度ほど前方に傾いており、重心が台座の前縁付近、もしくはわずかに外側に位置するよう作られていることも明らかになった。これにより、像を左右に傾けると前方に倒れる力が働き、丸みを帯びた台座の前縁が支点となって「前に踏み出す」ように動く。適切な位置に配置された少人数の引き手が縄を引くことで、この「歩行運搬」が可能になる仕組みだ。

研究チームはまた、像がアフに到着した後、彫刻師たちが台座前部の岩を削り取って前傾を解消し、重心を中央に戻すことで、安定した姿勢で直立するように仕上げていたと推定している。

三次元モデリングによって作られた縮尺モデル(約4.3トン)は、実際のモアイと同じ比率と質量分布を持つ。この模型を用いた実験では、両側に4人ずつ、背後に10人の計18人が縄を操作すれば、わずか40分で100メートル余り(約328フィート)を移動できることが確認されたという。運搬に慣れた集団であれば、より少人数でも時間をかけて同様の動作を再現できた可能性がある。

これらのことからリポとハントは、当時の人々が非常に洗練された「共鳴の原理」を理解しており、それに基づき、振幅を徐々に増幅させることで巨大な石像を効率的に動かす技術を持っていたと考えている。

今回の研究は、1980年代にイースター島で同様の実験を行ったチェコの実験考古学者パヴェル・パヴェルの先行研究にも着想を得ている。パヴェルもモアイの「歩行」実験に成功したが、すでにアフに据え付けられた像を使っていたため、リポとハントが分析したような運搬前の形状的特徴までは考慮していなかった。

またリポとハントが行った当時の運搬路の構造調査から、道路がわずかに凹型をしていることで、像が運搬中に過度に揺れるのを防いでいたとみられることもわかった。傾斜は平均して2〜3%と緩やかで、まれに急勾配となる箇所でも、実験では慎重な「歩行」動作によって対応可能だったという。

さらに研究対象となった放棄されたモアイ像については、運搬中に損傷などが起きたため途中で置き去りにされた可能性が高いと結論づけている。

from ARTnews

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