「暗号資産冬の時代」にNFTが即完売!? ランダム・インターナショナルの社会実験
暗号資産(仮想通貨)が2022年6月に暴落して以来、NFTの世界から景気のいい話は聞こえてこない。そんな中、今年10月27日に思いもかけない明るいニュースが飛び込んできた。仕掛けたのは、ペースギャラリーのWeb3部門、Pace Verso(ペース・ヴァーソ)だ。
ペースギャラリーのWeb3部門であるPace Verso(ペース・ヴァーソ)が手がけたランダム・インターナショナル(Random International)のコレクションで、990点のNFTが即日完売した。
このNFTはダニル・クリヴォルチコ(Danil Krivoruchko)とのコラボレーションで制作された、《Life in Our Minds(私たちの精神の生態)》という名のコレクション。発売から24時間以内に完売した。今回のプライマリーセールでは、1点あたり0.25イーサリアムの値がつけられ、総額38万ドル(約5,600万円)を売り上げた。驚愕するほどの高額ではないが、昨今の市場環境を考えると立派な成果と言っていいだろう。
ランダム・インターナショナルは、2013年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で初披露された《レイン・ルーム》を代表作に持つクリエイティブ・スタジオだ。同スタジオを立ち上げたハンネス・コッホ(Hannes Koch)とフロリアン・オルトクラス(Florian Ortkrass)は、かねてから鳥や人間の群れをなす行動に着目した実験的な試みを続けており、こうした行動に関する自身の知見をNFTに生かせないかと考えた。デジタル・アーティストのクリヴォルチコの助力を得て、2人は「ソーシャル彫刻」として、このNFTプロジェクトを構想した。コッホはARTnewsの取材に対し、こう語る。
「群れやグループを作る行動やその意味について研究を始めて、もう15年になります。NFTというメディアを得て、さらなる実験が可能な、本当に素晴らしいチャンスが現れたのです」
このコラボレーションで生まれたNFTは、「ボイド《Boid》」と呼ばれる(英語の発音としては“bird”という単語を、アニメ『ルーニー・テューンズ』のキャラクター、トゥイーティーの口調で言った感じをイメージしてほしい)。ボイドを手に入れたコレクターがこのNFTをより長い間保有するほど、さらに多くの特性が発現し、いっそうレアで価値ある作品になる。また、現れる特性のバリエーションは、コレクターが自身のウォレットに保有する他のNFTによっても変わるという。
さらにこれらのNFTと同時に《マザー・フロック(母群)》が公開されており、こちらはサイト「OG.art」で誰でも鑑賞することができる。これは、990点あるボイドすべてを、進化し続ける3Dのバーチャル彫刻というかたちで継続的に表示するものだ。さらに11月1日にコレクションのマーケットがリリースされ、今後はその状況がリアルタイムで反映される。
「まさに今活発に動いている市場の動きを反映した彫刻なのです」とコッホは解説する。
ただし、現在の市場は売り買いが活発とは言えない状況。コッホは、このような時期に《マザー・フロック》がどのような姿になるのか、見るのが楽しみだと話す。
「コレクションのうち半分しか売れなかった場合など、あらゆるシチュエーションでこの公開彫刻がどういった姿を取るのか、すべてのシナリオを開発済みです。グラフィックがどうなるのか、私たちも非常に興味を持っています」
NFTだからこそ、より自由に、より大きく
難しい市場状況についても、「そう言われますが、それほど難しいとは思いません」と、コッホは続ける。いわゆるクリプトウインター(暗号資産冬の時代)が訪れていることは否定しないものの、「ソーシャル彫刻を創り出すには、(この市場は)格好の素材だと思います」と語るように、この作品に限って言えば、こうした市場環境も可能性の宝庫だというのが、コッホの考えだ。
コッホが率いるチームにとって、NFTは集団が見せる行動を探求し、作品とする手段のひとつだ。美術館などのリアルな施設で、巨大で技術的に複雑な作品を展示するにはかなりの制約が伴うが、NFTであればそうした制約から自由でいられる。
「例えば、《レイン・ルーム》のようなプログラムの構築や、多数の風船をAIのアルゴリズムに従って飛ぶようにトレーニングするには、多大な労力を伴います。たくさんのリソースが必要となるのです。それに比べて、このデジタル・スペースであれば、より自由に実験ができますし、(リアル展示とは)異なる、より大きなオーディエンスと作品を共有できます」
こう自信を見せるコッホ自身、ランダム・インターナショナルの作品をデジタルネイティブだと考えているものの、NFTの世界に参入することで面白い気づきがあったという。それは、自分たちが古株だと思われることだ。
「アートとテクノロジーの交差点から、いわゆる主流の現代美術の世界にやってきた自分たちは、アート界では常に異端児的な存在でした。アバンギャルドとみなされることを、とてもうれしく思っていたんです。そんな我々も、いざNFTの世界に足を踏み入れると、超保守的なアーティストだと受け止められるのです(笑)」
*from ARTnews