「金が溶かされる前に取り戻す」──大英博物館、失踪文化財追跡の専門チーム設立を発表
2023年に1000点以上の所蔵品の盗難や紛失が発覚した大英博物館。これまでに654点を回収しているが捜索は難航していることから、同館は専門人材を新たに雇用し、世界中のディーラーやコレクターとの連携を強化する方針を明らかにした。
2023年、大英博物館のギリシャ・ローマ部門で、およそ1500点にのぼる所蔵品の窃盗、紛失、破損が判明した。すでに回収された654点以外は現在も捜索が続いており、完全に行方が分からなくなる事態を防ぐため、同館は回収作業を専門とする人材を新たに雇用する方針を明らかにした。
ギリシャ・ローマ部門の責任者を務めるトム・ハリソンは、紀元前15世紀にさかのぼる金の装身具や半貴石、ガラス製品をはじめとする宝物の回収作業を率いている。タイムズ・オブ・ロンドン紙の取材に応じた彼は、金製品が溶かされる前に宝物を取り戻したいと語り、捜索は「私が退任するか、墓に入るまで」続く可能性が高いと述べている。
回収作業は現在、他の通常業務と兼任する5人からなる小規模なチームが担っている。ハリソンは、「世界中のディーラーやオークションハウス、コレクターとの連絡に専念できる人材を、予算が確保され次第採用したい」と述べ、「一刻も早く成果を出したい」と強調。一方、大英博物館の広報担当者は、新設される役職について現時点では募集が行われていないとしつつ、着任後は膨大な所蔵記録の精査が求められる見通しだと説明している。
この事件は、元学芸員のピーター・ヒッグスに対する疑惑が浮上したことで明るみに出た。彼は30年以上にわたり所蔵品を盗み、売却し、貴金属を溶かしていたとされている。大英博物館は2024年3月にヒッグスを提訴しているが、彼は容疑を否認している。
一般からの情報提供に加え、個人間売買や出品カタログ、歴史の記録を基に調査を進めているというが、捜索・回収作業は困難を極めている。ハリソンは、情報の質には「一貫性がまったくない」と指摘し、所蔵品の発見数が減少していると説明。また、多くの場合、1度に1〜2点ほどしか見つからないが、アメリカから送られた268個の宝石のように、ときには大きな成果もあるという。
こうした困難な状況のなかで、捜査におけるテクノロジーの活用・貢献も進んでいる。オープンソースの情報を駆使した調査やAIを活用した画像照合が、長く失われていた所蔵品の追跡に役立っている一方で、博物館はこれ以上の紛失を防ぐため、ギリシャ・ローマ部門のコレクションの全面的な監査を命じた。
困難な捜索作業を経た後も、煩雑な行政手続きや輸出許可を待つ長い時間が必要となるが、所蔵品が返還されるたびに大きな喜びがあるとハリソンは語る。紛失後に何度も売買され、オークションサイトのeBayにまで出品されていた品物が戻ってきたときの高揚感を振り返り、「本当に満足感があります」と述べた。こうした成功体験が、捜索チームの希望を支える原動力となっており、特に金製品の回収については今後も望みを捨てていないという。
「盗まれた金が溶かされてしまうという懸念は常にあります。それは非常に悲しいことです。それでも、今後さらに多くの金製品が戻ってくるかもしれないという希望は捨てていません」
(翻訳:編集部)
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