「地球の記憶装置」に捧ぐ、作家初の常設作品──YOSHIROTTEN《大谷石景》【EDITOR’S NOTES】

ARTnews JAPANエディターが毎週お送りする展覧会レビューシリーズ「EDITOR’S NOTES」がスタート。第1回となる今回は、大谷石の産地にオープンしたアートと食の複合施設「大谷グランド・センター」のためにYOSHIROTTENが手がけた常設作品を紹介する。

YOSHIROTTON《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center

フランク・ロイド・ライトが設計した旧帝国ホテル本館(1923)をはじめ、近代化以降の日本各地で用いられてきた大谷石は、「日本の近代建築の記憶」を宿す素材だといえる。多孔質で軽く、加工しやすい性質と、緑がかった灰色の地に「ミソ」と呼ばれる斑点状の模様をもつ独特の風合いは、ライトのような世界的建築家をも魅了した。

そんな大谷石の産地・栃木県宇都宮市大谷町で、1967年に市民の憩いの場として開業した旧・山本園大谷グランドセンターが、アートと食を軸とする複合施設「大谷グランド・センター」としてリニューアルオープンした。旧・山本園の設計者は不詳だが、切り立った岩山に抱きつくように建てられた建築は、それ自体が現代アートのようだ。地上から望むだけでもそのアバンギャルドな発想が伝わってくるが、80年代に廃業後は、廃墟マニアに「西の摩耶」と並び称される存在となった。

大谷グランド・センター外観。Photo: Courtesy Oya Grand Center
大谷グランド・センター外観。Photo: Courtesy Oya Grand Center

そんな過去も丸ごと包摂しつつ新たに生まれ変わった大谷グランド・センターで鑑賞できるのが、YOSHIROTTEN初の常設作品群だ。

YOSHIROTTENはこれまでも、代表作「SUN」シリーズや霧島アートの森での個展で発表した《霧島百景》など、デジタルテクノロジーを用いながら(しかしテクノロジーはあくまでツールであり、それ自体は彼にとって大きな意味を持たないことを補足しておく)、自然の神秘そのものを可視化させるような、あるいはその再現を試みるかのような作品制作を行なってきた。今回のプロジェクトでもフィールドワークに重点を置き、ハンドスキャナー片手に大谷という土地とそこで生まれる大谷石との対話を重ね、集めたデータや素材をもとに30点のデジタル・ドローイングを制作。それらがエンドレスにループする映像作品《大谷石景》が、ほぼ当時のままの姿を留める同館浴場跡に投影されている。

YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《Transtone》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《大谷石景》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center

この作品を体験することは、大谷の地が途方もない時間をかけて育んできた大谷石そのものに潜り込んでいくような没入体験であり、鑑賞というより瞑想に近い(それはYOSHIROTTENの他の作品にも通底するものだ)。さらに浴場手前には、もともとここに存在していた巨石を支持体にしたネオン作品《Transtone》も設置。その姿は、作家本人が「地球の記憶装置」と表現する石が自らの意志を得て、今を生きる私たちに何かを語りかけてくるようだ。

YOSHIROTTON《Transtone》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center
YOSHIROTTEN《Transtone》の展示風景。Photo: Courtesy Oya Grand Center

ちなみに《Transtone》という名の由来は、1970年代の大谷で構想された「大谷テクノパーク」に着想を得ているという。これは、地下採石跡に大谷石の歴史を未来の文化へとつなぐ「とらんすとーんエリア」や、「21世紀地底の国・UNGETT」などからなる「アートとテクノロジーの実験場」を築こうという壮大な計画で、その一部は現在の大谷資料館として実現している。資料館を訪れたあと、大谷グランド・センターでYOSHIROTTENの作品に十分に“浸かり”、その余韻とともに上階のレストラン(東京・代々木八幡の「LIFE」を手がけた相場正一郎プロデュース)で腹ごなしするのがおすすめだ。

YOSHIROTTEN常設展示
場所:大谷グランド・センター(栃木県宇都宮市大谷町1396-29)
時間:10:00〜17:00(最終入館時間16:30)
休館日:火・水休(その他不定休は公式インスタグラムにて告知)
料金:グランドパス 1500円(入館+アート鑑賞+ワンドリンク付き/当日販売は1800円)
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