急逝した芸術監督の構想を継承──第61回ヴェネチア・ビエンナーレ、111人の参加作家を発表

参加作家111人で構成される第61回ヴェネチア・ビエンナーレが、5月に開幕する。急逝した総合キュレーター、コヨ・クオが構想した、静かな感覚や内省的な響きに焦点を当てる「In Minor Keys」をテーマに、規模を絞り存命作家を中心に構成される。

2024年の第60回ヴェネチア・ビエンナーレの様子。Photo: Stefano Mazzola/Getty Images
2024年の第60回ヴェネチア・ビエンナーレの様子。Photo: Stefano Mazzola/Getty Images

世界で最も重要な国際美術展とされるヴェネチア・ビエンナーレは、2026年展に参加するアーティスト111人を正式に発表した。

5月9日に一般公開され11月22日まで開催される第61回は、異例の状況のもとで準備が進められてきた。芸術監督のコヨ・クオ(Koyo Kouoh)が、展覧会の制作途中だった昨年、急逝したのだ。131年の歴史を持つ同展において、準備期間中にキュレーターが亡くなるのは初めてのことだ。

コヨ・クオ。Photo: Dave Southwood for ARTnews
コヨ・クオ。Photo: Dave Southwood for ARTnews

彼女の構想を引き継ぐため、クオは生前、アドバイザリーチームを任命していた。メンバーは、キュレーターのゲイブ・ベックハースト・フェイフー(Gabe Beckhurst Feijoo)、マリー=エレーヌ・ペレイラ(Marie Helene Pereira)、ラシャ・サルティ(Rasha Salti)のほか、テキスト編集を担当する批評家のシッダールタ・ミッター(Siddartha Mitter)、チームのアシスタントを務めるロリー・ツァパイ(Rory Tsapayi)。

控えめな響きが示す、同時代の感受性

クオが構想した今回のテーマは「In Minor Keys」。暴力や緊張が世界を覆う現在において、控えめで内省的な感覚を持つ表現に焦点を当てる内容となるようだ。

「マイナーキーは、壮大なオーケストラ的誇張や軍事的行進を拒み、静かな音色や低い周波、響き、詩のもたらす慰めの中で息づく。それらは『別の場所』や『別のあり方』へと開かれる、即興の入口なのです」

クオがこう記したテキストには、マルティニーク出身の詩人・思想家であるエドゥアール・グリッサン(Édouard Glissant)、ノーベル文学賞作家のトニ・モリスン(Toni Morrison)、マルティニーク出身のゴンクール賞受賞作家、パトリック・シャモワゾー(Patrick Chamoiseau)らの思想が引用されている。

「マイナーキーは、感情に呼びかけ、それを持続させるような聴き方を求めるのです」

参加作家のひとり、ジャマイカ出身のエボニー・G・パターソン(Ebony G. Patterson)による《…fester…》(2023)。Photo: Courtesy the artist, Monique Meloche Gallery, and New York Botanical Garden

ヴェネチア・ビエンナーレは、しばしば現代美術の動向を示す「風見鶏」として捉えられてきた。展覧会は、キュレーターが構成する国際展と、独立して運営される各国のパビリオンによって構成される。

通常、両者の参加作家が重複することはほとんどないが、今年は例外がある。オーストラリア代表のハーレド・サブサビ(Khaled Sabsabi)が、国際展とパビリオンの両方に参加するのだ。彼の過去作品をめぐる論争により、一度はパビリオン出展が取り消されたものの、数カ月後に再承認されるという経緯を経た

また、通常は功労賞として金獅子賞(生涯功労賞)が授与されるが、今回はクオ自身が受賞者を選出していなかったため、授与は行われないとビエンナーレ側は発表している。

ビエンナーレの会長ピエトランジェロ・ブッタフオーコ(Pietrangelo Buttafuoco)は声明で、今回の展覧会について次のように述べた。

「この展覧会には、精神性と神聖さが宿っています。人間という存在を再び中心に据え、地上のあらゆる要素との関係において適切な尺度を取り戻し、もう一度空を見上げることで、世界に存在することの意味を再発見させるものです。コヨ・クオの歩みは、人々の身近な場所から出発し、人間関係をあらためて見直す試みです。小さなものとは、同時に、大きなものでもあるのです」

規模を絞り、存命作家を中心に

参加作家のひとり、アメリカ出身のタミー・グエン(Tammy Nguyen)による《Love Justice, You Rulers of the Earth》(2025)。Photo: Studio Kukla/Courtesy the artist and Lehmann Maupin, New York, Seoul, and London

1895年に創設されたビエンナーレは、同時代の国際美術の状況を映し出す場として機能してきた。しかし、セシリア・アレマーニ(Cecilia Alemani)が芸術監督を務めた2022年(前々回)と、アドリアーノ・ペドロサ(Adriano Pedrosa)が手がけた2024年(前回)の展覧会では、これまで十分に評価されてこなかった物故作家を多数紹介するなど、過去への視点も強く打ち出されていた。

両回とも参加作家は200人を超えていたが、クオの展覧会はそれに比べて規模を大幅に絞り、参加作家は111人にとどまる。また、ペドロサ展では参加者の55%が故人だったのに対し、今回は存命作家が中心だ。

そんな中でも、展覧会の精神的な指標として重要な位置を占めるのは、2人の物故作家だ。中央パビリオンには、アドバイザーチームのラシャ・サルティが「聖域」と呼ぶ空間が設けられ、セネガルのイッサ・サンブ(Issa Samb)とアメリカのビバリー・ブキャナン(Beverly Buchanan)の大規模展示が行われる。

サルティによれば、サンブはクオにとって「生涯のメンター」であり、サンブの活動はクオがダカールにアートスペース「ロー・マテリアル・カンパニー(Raw Material Company)」を設立するきっかけにもなった。これはセネガルの国立文化機関への応答として、彼女が構想したものだった。

即興と対話から生まれた展覧会

参加作家のひとり、カメルーン出身のウェレウェレ・リキング(Werewere Liking)による《Les pendues aux temps I》(1978)。Photo: Courtesy Galerie Cécile Fakhoury

2月24日に行われた記者会見では、アドバイザーチームが、クオが亡くなる直前の2025年4月にロー・マテリアル・カンパニーで行ったミーティングについて語った。ペレイラによると、クオは各キュレーターに日々の「ミッション」を課し、中庭で作家選定について議論していたという。議論の最中、木から落ちたマンゴーを食べることが、やがて彼らの習慣になった。ペレイラはこう振り返る。

「彼女は指揮者のような存在でした。私たちはそれぞれ完成された楽器を持って集まりましたが、互いの音を調和させるには少し時間が必要でした。彼女が作曲し、私たちは即興で応えたのです」

ベックハースト・フェイフーは今回の展覧会について、「セクションではなく、優先順位によって構成されている」と説明。また、トニ・モリスンの『ビラヴド』とガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が重要な参照点となっているとして、「両作品において、マジックリアリズムは感情の深度を高める役割を果たしています」と述べた。

展覧会でも同様に、可能な限り仕切りを設けない構成が採用される予定だ。

プログラムには、詩人による行進などのライブイベントも含まれる。ミッターは、これがかつてクオ自身がダカールからトンブクトゥまで率いた「ポエトリー・キャラバン」へのオマージュだと説明する。

巨大な規模で知られるビエンナーレは、すべてを見て回るのに数日を要することも多い。ツァパイによれば、今回の国際展では、展示の理念に沿って「瞑想的な休息」のためのスペースが各所に設けられるという。それは、「私たちの内外で起こる微細な変化に注意を向けることを促し、作曲家ポーリン・オリヴェロスの言葉を借りれば、『聴くことに身体を馴染ませる』ためのもの」だという。(翻訳:編集部)

※ 2026年ヴェネチア・ビエンナーレの参加アーティスト一覧

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