不穏なVR作品を手がけるアーティスト、ジョーダン・ウルフソンによるプラダの新キャンペーンが公開
プラダが2026年春夏コレクションの広告キャンペーンを公開した。ジョーダン・ウルフソンによる本作は、不穏さと魅惑が同居する独特のイメージを展開し、俳優やモデルの傍らに不気味な生き物が佇んでいる。
プラダが展開している2026年春夏コレクションの広告キャンペーンを見ると、どこか落ち着きを奪われるような感覚を覚える。しかし、この動画が不穏な空気をまとったビデオ・アートや彫刻作品を制作するジョーダン・ウルフソンが手がけたと知れば、納得がいく方もいるだろう。これまで彼は、激しく体を揺らすサイボーグや、鎖につながれた人形など、薄気味悪いモチーフを盛り込んできた。
ウルフソンは、肉体や精神を暴力的に描いた作品で知られており、物議をかもすこともしばしばあった。例えば、2017年のホイットニー・ビエンナーレで発表したVR作品では、野球のバットを手にしたウルフソンの分身によって男性が殴打される場面に、観客は強制的に立ち会わされることになる。また、2025年にバイエラー財団で発表したVR作品《Little Room》では、参加者同士が互いの体に乗り移るという体験が、事前説明がほとんどないまま参加者を待ち受けていた。
幸いにも、プラダの広告キャンペーンにそういった場面はない。だが、今回もウルフソンの作風を象徴するアバターが登場する。スチール写真には、俳優のキャリー・マリガンやニコラス・ホルト、ダムソン・イドリスを含む複数のモデルが登場し、不気味な鳥のような生き物の傍らに立っている。
ウルフソンが注目を集めるきっかけとなったのは、ビデオ・アートだった。今回のキャンペーンにも短編映像が含まれており、これは2017〜2018年の《Riverboat Song》以来となる新たな映像作品となる。映像のなかで出演者たちは、虚ろな表情のまま「I」と繰り返し、最後に「I am」と口にする。このフレーズは、キャンペーンのタイトル「I, I, I, I AM… PRADA」にも引き継がれている。
モデルたちがその言葉を口にするあいだ、傍らの鳥たちはゆっくりと動き回る。そその光沢や不自然な大きさからして、CGによる生成、もしくは強い加工が施されているように見える。なかでもハンター・シェーファーが登場する場面は印象的だ。黒いレザーブーツを履いた鳥人間めいた存在が、深く息を吸い込みながら画面のこちら側を見つめ、彼女の背後でゆっくりと両手を持ち上げる。シェーファーは満面の笑みを浮かべ、その気配にまったく気づいていないかのように振る舞う。
広告キャンペーンの発表に際してプラダは、ウルフソンの作品について次のように述べている。
「絶えず問い直される広告キャンペーンの慣習を通じて、プラダとは何か、どのように受け取られ、また受け取り直されるかについて、アイデンティティと存在の無限の可能性と多様性を切り開くものだ」
もっとも、このキャンペーンは不気味さと魅惑を同時に狙ったものだが、その点を踏まえると、こうした読みはやや甘いようにも思える。むしろウルフソンの最新作は、コラボレーションにおいてアートの牙を抜いてきたファッション側の通念が、今回は通用していないことを示しているように見える。
こうした違和感は、プラダの今回のキャンペーンだけに限らない。近年、ディオールやルイ・ヴィトンをはじめ、多くのブランドがキャリー・メイ・ウィームス、コジマ・フォン・ボニン、タイラー・ミッチェル、シンディ・シャーマン、ナン・ゴールディンら、数多くのアーティストと協業してきた。そこではランウェイ・ショーのための新作制作から、今回のプラダのような広告キャンペーンまで、関わり方もさまざまだ。そうした流れを踏まえると、US版ARTnewsの姉妹メディアであるArt in America誌が投げかけた、「ファッションはアートを支援しているのか、それとも取り込もうとしているのかを問い直すべき時が来ている」という問いは、いっそう重みを帯びて見えてくる。(翻訳:編集部)
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