ビエンナーレ選出は追い風か逆風か──米代表作家アルマ・アレンの市場評価を読む
ヴェネチア・ビエンナーレのアメリカ館代表作家選考における不透明なプロセスが物議を呼んでいる中、当事者であるアルマ・アレンにも注目が集まっている。ビエンナーレ選出後の市場価値と今後の成長余地を読み解く。
昨年11月、第61回ヴェネチア・ビエンナーレのアメリカ館代表作家に彫刻家アルマ・アレンが選ばれたことが物議を呼んでいる。ドナルド・トランプ政権下で進められた手続きに加え、従来は美術館館長やキュレーターが担ってきた作家選定が、新興NPO「アメリカン・アーツ・コンサーバンシー」に委ねられた点にも批判が向けられている。同団体を率いるジェニ・パリドは、2024年までフロリダ州タンパで高級ペットフードやライフスタイル雑貨を扱う事業を営んでいた人物で、その起用経緯にも疑問の声が上がる。さらに選出後、アレンは所属ギャラリーとの契約を失う一方、ペロタンが新たに受け入れるなど、周辺環境も大きく揺れている。
選考をめぐる批判が続くなか、市場関係者の関心は、今回のビエンナーレ参加がアレン作品の市場価値にどのような影響を及ぼすかにも向かっている。US版ARTnewsが毎年発表する「TOP 200 COLLECTORS」の常連で、長年アレンを支援してきたコレクターのベス・ルーディン・デウッディは、次のように語る。
「アルマの作品をコレクションしていますし、彼のことが大好きです。アートは世俗的なノイズを超越するべきだと考えているので、彼の代表作家選出をめぐる議論は、あまりうれしく思えません。ヴェネチアで作品を発表できるのは素晴らしい機会なのに、(当時の所属)ギャラリーが彼のことを見捨てたのは残念でなりません」
ビヨンセや前澤友作なども所蔵
今回の騒動の陰で見落とされがちだが、アレンには長年支えてきた熱心なコレクターが存在する。初期に作品を購入したのは、1990年代初頭の活動を支援したデザイナーや宝石商、アーティストたちだった。交通事故に遭い経済的に困窮していた時期、彼はダウンタウン・ニューヨークの街角で小さな彫刻を販売して生計を立てていたという。その後、支持は徐々に広がり、2014年にはハードロックカフェの共同創業者、ピーター・モートンや、アートアドバイザーのマーク・フレッチャーらも作品を収集するようになった。デウッディもそうしたコレクターの一人で、将来有望な作家を早期に見出す人物として知られている。
こうしたコレクターたちはギャラリーではなく、アレン自身のアトリエなどで作品に出会い、直接購入することが多かった。2015年に彼がブラム・アンド・ポーに所属して以降、そのコレクター基盤はさらに深まり、広がりを見せた。アレンのキャリアに詳しい2人の関係者によると、アーティストのリンダ・ベングリスやデザイナーのウォルフガング・ジョープ、前澤友作といった人物が作品を所蔵しているという。また本人も、ビヨンセやケイティ・ペリー、三宅一生などが自身のコレクターであると語っている。
オークションでの評価と成長余地
これまでオークションに出品された作品は小型のものが中心で、落札価格は4000〜1万2000ドル(約64万〜190万円)の範囲内に収まっている。一方、家具デザイナーとしての側面を持つアレンは、テーブルやスツールとして使用できる彫刻も制作しており、こうした作品は3万5000〜6万5000ドル(約560万〜1040万円)で取引されている。
ビエンナーレ代表への選出後も価格の急騰は見られないが、出品数は増加している。その一例として、2016年に採取した黒大理石による渦状の彫刻がある。この作品は今年3月にオンライン開催されたフィリップスの現代美術オークションで、1万2900ドル(現在の為替で約206万円)で落札された。事前予想は7000〜1万ドル(同約112万〜160万円)で、結果は予想最高落札価格をわずかに上回る程度にとどまった。

プライマリー市場での価格は現在、2万5000ドルから30万ドル(約400万〜4810万円)の幅で設定されている。台座に置けるサイズの作品は3万5000〜5万ドル(約525万〜750万円)、等身大の屋内用作品は6万5000〜10万ドル(約975万〜1500万円)、大規模な屋外用彫刻は約15万ドル(約2250万円)が目安となる。さらに、ビエンナーレ会期の終盤にあたる10月には、ペロタンでの初個展がパリで開催される予定だ。ギャラリー関係者は、この個展をきっかけに、美術館による収蔵やコレクターによる取得の動きが広がることを期待している。
アレン作品の市場価値には、まだ成長の余地が十分にあるといい、彼のコレクター基盤を長年知る関係者はこう指摘する。「アルマの作品をよく知らない人が大勢いるようですが、そうした見方は現代アートへの理解不足から来ているのだと思います」
すべての作品は「タイトル未定」

アレンによれば、彼は作品に説明的なタイトルを与えることを意図的に避けており、すべての作品を《Not Yet Titled(タイトル未定)》として発表している。あらかじめ定められた意味に影響されることなく、鑑賞者自身に独自の意見をもってもらいたいという思いから、このタイトルを付けているという。それでもアレンは、作品を取り巻く曖昧さや、文脈を補うタイトルの欠如、さらに自身の実践について語ったりインタビューに応じたりすることをこれまで避けてきたことが、結果的に自分にとって不利に働いたのではないかと自問していた。彼は自身の後悔について、こう語る。
「作品の意図や背景を自分の言葉で語ってこなかったのは、おそらく間違いだったのではないかと思いはじめています。そのため、作品が簡単にできてしまうものとして片付けられる余地を与えてしまいました。結果として、私の作品が何であるかを、他人に決めさせてしまったのだと思います」
(翻訳:編集部)
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