消された抵抗の記憶を可視化する──ナターシャ・トンテイ、ヴェネチアで新作を発表

第61回ヴェネチア・ビエンナーレ(5月9日に開幕)にあわせ、インドネシアのアーティスト、ナターシャ・トンテイが大規模な没入型インスタレーションを発表する。CIA支援下の反政府運動「ペルメスタ」を題材に、歴史の周縁に追いやられた声を再構築する試みだ。

ナターシャ・トンテイ《The Phantom Combatants and the Metabolism of Disobedient Organs》(スチル画像)、2026年。LAS Art FoundationおよびAmos Rexによるコミッション作品。Photo: ©2026 Natasha Tontey/Courtesy the artist

インドネシア出身のアーティスト、ナターシャ・トンテイ(Natasha Tontey)が、第61回ヴェネチア・ビエンナーレにあわせて新作インスタレーション《The Phantom Combatants and the Metabolism of Disobedient Organs》を発表する。会場は、サン・マルコ地区に位置する16世紀建築、アテネオ・ヴェネト・ディ・シエンツェ・レッテレ・エド・アルティ。ベルリンのLASアート・ファンデーションと、フィンランド・ヘルシンキの現代美術館アモス・レックスによる共同コミッションとして制作された。

本作は、映像、サウンド、光、彫刻を組み合わせた没入型インスタレーションで、1957年から1961年にかけて北スラウェシでインドネシア政府に対抗した政治運動「ペルメスタ」の戦闘員、レン・カラモイの物語を再解釈する。ペルメスタは当時、CIAの支援を受けていたことでも知られる。

37歳のトンテイは、先住民のアイデンティティや宇宙観、生態系、未来像、そして歴史と神話の境界を主題に、ユーモアと不穏さが交錯する映像やインスタレーションで注目を集めてきた。B級映画やホラー、低予算テレビ番組の美学を参照しながら、DIY的な特殊効果と先端技術を横断する表現を特徴としている。

《The Phantom Combatants and the Metabolism of Disobedient Organs》では、カラモイは単なる歴史上の人物ではなく、若い兵士たちの集団に増殖する神話的存在として描かれる。トンテイによるカラモイ像は、3つの胸と誇張された筋肉を持つ、文字通り「人間離れした」存在として現れる、「自己決定の欲望」を具現化した存在だ。トンテイ自身もカラモイと同じく、北スラウェシの先住民族ミナハサの出自を共有している。

映像の大部分には、LiDARによるリモートセンシングや量子ゴーストイメージング、3Dモデリング・フォトグラメトリー、サーマルカメラなどの技術が用いられている。これらは、現代における監視や統制の手法を再流用(reappropriation)するための手段でもある。 

ナターシャ・トンテイ《The Phantom Combatants and the Metabolism of Disobedient Organs》、2026年。映像スチル。 LASアート・ファンデーションおよびアモス・レックスによるコミッション作品。© 2026 Natasha Tontey. Courtesy the artist.

トンテイは声明で次のように述べている。

「このプロジェクトでは、歴史の中の静かな音色に耳を傾けようとしました。記憶や喪失、儀式の断片がなお響き続ける“マイナーキー”の領域です。大きな物語によってかき消されがちな、そうした抑えられた周波数の中にこそ、暴力に抗いながら生き延び、ケアし、想像し続ける身振りを見出しています」

またLAS Art FoundationのCEO、ベッティーナ・カメスと、アモス・レックス館長のキーラン・ロングは共同声明で、本作をトンテイにとって「これまでで最も野心的なプロジェクト」と位置づけ、「政治的・技術的環境が大きく揺れ動く不確実な時代を映し出す作品」だと評している。

今回の発表は、ジャカルタのヌサンタラ近現代美術館(Museum of Modern and Contemporary Art in Nusantara=MACAN)で2024年から2025年にかけて開催された、トンテイ初の大規模美術館個展「Primate Visions Macaque Macabre」に続くもの。同展はArtnet Newsで特集が組まれたほか、『Artforum』誌でも高い評価を受け、批評家のフン・ズオンは、「人間と霊長類の関係における既成のヒエラルキーを解体し、より平等な種間関係を想像させる」と評価した。トンテイは同展で、人間とマカクザルの関係をユーモアとホラーを交えて描き出し、没入型インスタレーションと映像作品を通して、人間中心主義への問いを投げかけていた。

現在はギャラリーに所属していないトンテイだが、ビエンナーレへの参加が相次いでいる。今週開幕する第59回カーネギー・インターナショナル(ピッツバーグ)のほか、今年後半にはチュニスで開催される「Biennale de l’Image en Mouvement(動く映像のビエンナーレ、通称BIM)」にも参加予定。これまでに2025年のイスタンブール・ビエンナーレ、2025年のメルコスール・ビエンナーレ、2022年のシンガポール・ビエンナーレなどに出展している。

ヴェネチアでの展示は5月5日に開幕し、一般公開に先立ちアーティストトークも開催される。会期は10月25日まで。その後、2027年にアモス・レックスへ巡回が予定されている。(翻訳:編集部)

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