プッシー・ライオットがヴェネチア・ビエンナーレで抗議──「ロシアが描くのは血の芸術」

ヴェネチア・ビエンナーレのロシア館前で、プッシー・ライオットとFEMENが抗議活動を行った。ロシア館は一般公開が見送られたものの、参加者たちはロシアの参加そのものを「プロパガンダ」と批判し、ウクライナ支持の声を上げた。

プッシー・ライオットとFEMENのメンバーがロシア館前で抗議する様子。Photo: Brian Boucher
プッシー・ライオットとFEMENのメンバーがロシア館前で抗議する様子。Photo: Brian Boucher

「ロシアは人殺しだ! ビエンナーレは加担している!」「反発しろ!」「アートは上辺、その下には墓場がある!」「ロシアが描くのは、血の芸術だ!」「ウクライナに栄光あれ!」

2026年ヴェネチア・ビエンナーレロシア館前に集まった数十人の抗議者たちは、そんなシュプレヒコールを繰り返した。

ナショナル・パビリオンが集まるジャルディーニに小雨が降るなか、抗議者たちは午前11時ちょうどにロシア館へ向かった。なかにはギターを抱える者もおり、大型スピーカーから流れるパンクロックやヒップホップに合わせてパフォーマンスを繰り広げた。なかには、ピンクの目出し帽を被った人や、花冠を身につけ、体にメッセージを書き、胸を露わにした抗議者もいた。喝采を送る見物人や、動画を撮ろうと集まった報道陣に囲まれ、緑色に塗られたパビリオン前の木々に囲まれた一角は、たちまちコンサート会場のモッシュピットのような熱気に包まれた。

抗議を行うFEMENとプッシー・ライオットのメンバー。Photo: Courtesy Pussy Riot, Taisiya Krugovykh & Vasily Bogatov
抗議を行うFEMENとプッシー・ライオットのメンバー。Photo: Courtesy Pussy Riot, Taisiya Krugovykh & Vasily Bogatov

抗議を主導したのは、フェミニスト・パンクロック・アート集団プッシー・ライオットナージャ・トロコンニコワと、そのメンバーたちだった。彼女たちは、ウクライナ発の活動団体FEMEN(フェメン)とともに行動した。FEMENは2008年にウクライナで設立され、花冠を被り、体にスローガンを書いたトップレスの女性活動家による抗議で知られる団体だ。家父長制がもたらす「女性の性的搾取、独裁、そして宗教」という3つの弊害と戦っているという。抗議者たちは、目出し帽と同じピンク色の煙を上げたあと、ウクライナ国旗を想起させる黄色と青の煙を交互に放った。抗議に先立ち、トロコンニコワは集まった報道陣にこう語った。

「ロシアはいわゆる集団的西側諸国に対して戦争を仕掛けています。では、なぜヨーロッパはいまだにロシアのプロパガンダに門戸を開いているのでしょうか。これは表現の自由や検閲といった言葉だけでは片付けられない問題です。もしヴェネチア・ビエンナーレが検閲を問題にするのであれば、ロシアの公式アーティストではなく、ウクライナを支持し、体制に立ち向かい、徴兵事務所に火を放ったことで今も服役しているアーティストたちと協力すべきです。そうした人々の多くは、馬鹿げた容疑で、合計すれば数千年にもおよぶ懲役刑を科され、投獄されているのです」

トロコンニコワたちは、ロシア館の展示に代えて、ロシアがいかに「再びグラーグ(強制収容所)へと変貌しつつあるか」を示す展示を設置すべきだと訴えた。トロコンニコワが構想した展覧会「Resistance Imprisoned(抵抗、投獄されて)」は、フランス・ストラスブールにあるリッチュ=フィッシュ・ギャラリーで5月31日まで開催されており、投獄中のアーティストや元政治犯たちの作品を紹介している。トロコンニコワは抗議活動前に発表した声明で、こう記している。

「アート界のオリンピックとも言えるヴェネチア・ビエンナーレで国家を代表する作品が示されるのなら、今のロシアをもっともよく象徴しているのは、反戦やウクライナ支持の姿勢によって投獄されたアーティストたちでしょう」

FEMENを率いるインナ・シェフチェンコも同じ声明にこう記している。

「今年展示されるすべてのロシアの芸術作品は、ウクライナ人が流した血という目に見えない台座の上に立っています。そんなことはカタログに書かれていません。しかし、それこそがこのパビリオンを実質的につなぎ止めている唯一の素材なのです」

抗議を行うFEMENとプッシー・ライオットのメンバー。Photo: Courtesy Pussy Riot, Taisiya Krugovykh & Vasily Bogatov
抗議を行うFEMENとプッシー・ライオットのメンバー。Photo: Courtesy Pussy Riot, Taisiya Krugovykh & Vasily Bogatov

プッシー・ライオットのメンバーは、これまでも抗議活動を理由に投獄されてきた。2012年にはモスクワの教会で、ウラジーミル・プーチン大統領からロシアを救ってほしいと願う「Punk Prayer(パンクの祈り)」と称したミュージックビデオを撮影した。この一件により、参加した女性たちは「宗教的憎悪に基づくフーリガン行為」の罪に問われ、2年間の禁錮刑を言い渡された。

ロシアは過去2回のビエンナーレで展示を見送っていたが、今年3月に参加を発表した。しかし、ウクライナでの戦争が続くなか、ロシアの復帰には強い反発の声が上がっている。欧州諸国を代表する約22人の高官は、ロシアの参加を「深く憂慮すべき事態」とする公開書簡に署名した。さらに4月には、ウクライナ政府がロシア館の展示準備に関与した5人の文化人に制裁を科している

抗議を行うFEMENとプッシー・ライオットのメンバー。Photo: Courtesy Pussy Riot, Taisiya Krugovykh & Vasily Bogatov

5月5日に予定されていたプレス・VIP向け内覧会の数日前、イタリアの文化相はロシア館の提出書類に「不備」がないか調査を始めた。調査には、アーティストや代表団の入国ビザをめぐる疑念も含まれていた。この動きが、ロシア館の一般公開差し止めにつながった。

20分ほど経つと、抗議者たちはその場を後にした。すぐ近くのアメリカ館の外では、記者会見の登壇者が、「アメリカ館の代表作家であるアルマ・アレンは『曖昧さ』の意義を重んじている」という声明を読み上げていた。しかし、ロシア館の前に「曖昧さ」が入り込む余地など、微塵もなかった。(翻訳:編集部)

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