ARTnewsJAPAN

伝説的グラフィティを消去したニューヨーク市に住民が猛抗議。「街の歴史を消し去ってしまった」

マンハッタン北西部にあるワシントンハイツ地区の住民が、ニューヨーク市運輸局に抗議の声を上げている。運輸局が、地下鉄191丁目駅の地下通路整備のため、壁に描かれていたグラフィティをペンキで塗り込め、消してしまったからだ。

地下鉄191丁目駅の地下通路で、2015年に美化プロジェクトの一環で制作されたグラフィティ。写真は、フェルナンド・カルロ・ジュニア(通称Cope2)の作品《Art Is Life》の一部。Photo courtesy of the New York City Department of Transportation, Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs 2.0 Generic license.

この地下通路は薄暗く、薬物中毒者や路上生活者の居場所になっていたことから、利用者や市の担当者から問題視されていた。しかし、近隣のワシントンハイツ地区の住民にとって、その壁に描かれたグラフィティは街の誇りだったのだ。

ワシントンハイツの住民の1人は、ニューヨークのローカルメディアGothamistの取材に、「まるで、地域住民を突然平手打ちするような行為だ。街の歴史を消し去ってしまった」と憤懣をぶつけている。

約300メートルに及ぶトンネルの壁を彩っていたグラフィティは、2015年に運輸局が行った美化プロジェクトの一環として、5人の地元アーティストが手がけたものだ。そこには、幾何学的な模様や植物が生い茂ったジャングルの風景などが、いくつものポジティブなメッセージとともに描かれていた。中にはニューヨークのグラフィティ界の伝説的存在、フェルナンド・カルロ・ジュニア(通称Cope2)の作品《Art Is Life》もあり、「Follow Your Dreams(夢を追いかけよう)」という文字が踊っていた。

このとき制作された作品は、やがてほかのグラフィティが上書きされてしまったが、それも含めて、地下通路を飾るアートは文化的ランドマークとして知られるようになり、リン=マニュエル・ミランダのミュージカルを映画化した『イン・ザ・ハイツ』(2021年)にも登場している。

グラフィティが消された件に関し、2015年の美化プロジェクトを運輸局と共同で主催したノーザン・マンハッタン・アーツ・アライアンスのエグゼクティブ・ディレクター、ニラ・E・レイバ=グティエレスは、ニューヨーク市議会議員のカルメン・デ・ラ・ローザと共同で声明を発表。地下通路改修における運輸局の対応が透明性を欠いたこと、市民を関与させずに進めたことを強く批判した。

運輸局はすぐに回答の声明を出し、「パブリックアートの重要性を高く評価している」と表明。そのうえで、「地元のアーティストに参加してもらい、191丁目駅地下通路の新たな改修プロセスをスタートする」ための提案依頼書を近日中に出すとしている。

運輸局のイダニス・ロドリゲス局長は、ニューヨークの放送局NBC4の取材に対し、運輸局の地下通路改修計画に加え、ニューヨーク市からの「2500万ドルの予算を、今後2年間で行う地下通路のインフラ整備に充てる」と説明している。(翻訳:清水玲奈)

from ARTnews

あわせて読みたい