「AIスロップ」と酷評された画像、実は本物のモネだった──SNSで起きた逆転劇
- TEXT BY ARTNEWS JAPAN
SNSに投稿された「モネ風のAI生成画像」を酷評した多く声に対し、AIへの「過剰反応」との批判が集まっている。
「AIを使ってモネの絵画のような画像を生成しました。この画像が本物のモネの絵画と比べて劣っている点を、なるべく詳しくリプライに書いてください」
i just generated an image in the style of a Monet painting using AI
— 𒐪 (@SHL0MS) May 12, 2026
please describe, in as much detail as possible, what makes this inferior to a real Monet painting pic.twitter.com/VDJovKOqlz
そんな呼びかけが、Xのアカウント「@SHL0MS」に投稿された。画像をAI生成物だと受け取ったユーザーからは、すぐに多くの反応が寄せられた。あるユーザーは、モネの色使いには本来「メリハリがある」と指摘し、この画像では睡蓮が水彩画のように見える箇所もあるとコメントした。別のユーザーは、「奥行きがないせいで、水草が水中に沈んでいるのではなく、別のレイヤーの上に配置されただけのように感じられる」と述べ、さらに次のように分析している。
「本物のモネであれば、光の屈折と水面への映り込みが作品をひとつに束ねているはずだが、この画像には統一感が欠けている。パースも崩れており、睡蓮の葉の消失点が水面の表面張力と一致していない。絵画的な筆致も、単なる表面的なフィルターにすぎず、光を構造として捉えてはいない」
こうした詳細な分析を投稿するユーザーがいた一方で、コメント欄には「クソみたいな作品」や「単なるAIスロップ」といった暴言も相次いだ。
ところが、この「深みのない」モネ風の作品は、《睡蓮》シリーズに含まれる本物のモネの作品で、近代美術を主に扱っているドイツ・ミュンヘンの美術館、ノイエ・ピナコテークに収蔵されている。このことが明らかになると、今度は違いを分析していたユーザーが叩かれる対象となり、こうした分析のリプライ欄には、過剰にAIに反応しすぎているといった批判が多数寄せられている。
ただし、すべてのユーザーが画像をAI生成物だと決めつけていたわけではない。投稿直後から、これは本物のモネではないかと指摘するユーザーも、ごく少数ながら存在していた。あるユーザーは「奥行きがないというコメントには賛成できない」と記した上で、次のように述べている。
「絵の具の盛り上がりや質感も、本物の油絵として通用するレベルだが、私がこれまで観てきた多くのモネ作品よりは薄塗りだ(もし本物なら、これは最晩年の作品ということになる)。最高傑作とまでは言えないが、モネの作品と言っても遜色ないだろう」
美術史家からも、画像にはモネ晩年の作品に共通する質感が見られるという指摘があった。加えて、晩年のモネは色彩感覚が変化していたため、ライラックや紫を多く用いる傾向があったという。
その後、この画像は「inferior image」と名づけられ、NFTやデジタルアートを販売するプラットフォーム「manifold.xyz」に出品された(モネの作品はパブリックドメインのため、原則、NFT化して販売しても著作権侵害にはあたらない)。入札には複数のユーザーが参加し、最終的にAIアートコレクターのJediwoldが、約640万円相当のイーサリアムで落札している。


12. 《プティット=ダルにて》(1884):768万ドル(現在の為替で約12億2000万円、以下同)
モネがノルマンディー滞在中に描いた《プティット=ダルにて》(1884)には、フェカンとヴレット=シュル=メールを結ぶ小道が、陽光に照らされた丘の中腹に延びている様子が描かれている。この場所はモネが少年時代を過ごした土地の近郊にあたり、彼にとっては特に愛着のある風景だった。
2025年6月24日、本作はロンドンのサザビーズで予想を超える768万ドル(約12億2000万円)で落札された。これは、2000年にサザビーズ・ニューヨークで記録した225万ドル(約3億6000万円)を大きく上回り、キャリア初期の海岸風景画の最高額を更新した。他の有名シリーズと比べれば金額は控えめだが、モネの作品全体に対する評価の高まりを強く印象付けると同時に、ジヴェルニーや睡蓮を描いた人気シリーズ以外への関心の広がりを後押しするような結果だ。
Photo: Sotheby’s

11. 《レ・プティット=ダルの干潮》(1884):990万ドル(約15億7000万円)
モネが1884年にノルマンディー沿岸をめぐる旅の途中に描いた《レ・プティット=ダルの干潮》には、この地の雄大な断崖が鮮やかな光と繊細な空気感の中で捉えられている。戸外制作された本作は、そそり立つ岩壁と広い砂浜が織りなす劇的な景観を描いた連作の1点で、最初の所有者だったチャールズ・T・ヤーキスは、作品の完成直後に画商のポール・デュラン=リュエルからこれを入手した。
2016年5月9日、ニューヨークのサザビーズで開催された「印象派・近代美術イブニングセール」に熱気と興奮をもたらしたのは、この《レ・プティット=ダルの干潮》(1884)だった。ロット番号84として出品されたこの絵は、2分間にわたる白熱した入札合戦の末、500万ドル(約7億9000万円)の予想最高額の2倍となる990万ドル(約15億7000万円)で落札されている。モネが海岸を題材としたもので、確かな来歴と強い視覚的インパクトのある作品に対する関心が高まっていることを反映した落札結果だと言える。
Photo: Sotheby’s

10. 《ジヴェルニーの積みわら》(1893):3480万ドル(約55億1000万円)
《ジヴェルニーの積みわら》(1893)でモネは、木立に囲まれた野原に積み上げられた干し草の山を描いている。その特徴は、黄金色の陽光と幾重にも重ねられた筆致だ。アメリカの風景画家ドワイト・ブレイニーの個人コレクションに収められていた本作は、2024年5月15日にサザビーズ・ニューヨークのオークションに出品され、8分間の入札合戦の末、3480万ドル(約55億1000万円)で落札された。
「積みわら」シリーズの後期作品として高く評価される《ジヴェルニーの積みわら》のオークション結果は、光と形をいかに表現するかを弛まず試行し続けたモネに対するコレクターの敬意がさらに高まっていることを感じさせる。このシリーズへの根強い需要は、作品の奥深さと希少性、そしてシリーズの一貫性が大きな付加価値となることを示している。
Photo: Sotheby’s

9. 《アルジャントゥイユの鉄道橋》(1873-74):4140万ドル(約65億6000万円)
モネが産業の近代化を観察し始めた初期の試みを目にすることができる《アルジャントゥイユの鉄道橋》(1873-74)は、セーヌ川に架かる鉄道橋の印象的な風景を捉えた作品だ。通り過ぎる列車から立ち上る煙が上空の雲に溶け込み、橋の下では川面を静かに進む小さなヨットの白い帆が明るい陽光を浴びている。モネは鉄橋のがっしりした構造と水面の繊細な反射の間で巧みにバランスを取り、調和の取れた情景として産業と自然を絵の中で融合させた。
この作品は、2008年5月6日にクリスティーズ・ニューヨークで4140万ドル(約65億6000万円)で落札され、モネの「アルジャントゥイユ」シリーズの最高額を記録した。光きらめく印象派のスタイルを保ちつつ、当時の最先端の暮らしを伝えるモネの卓越した才能が示されている。
Photo : Christie’s

8. 《エプト川沿いのポプラ並木、夕暮れ》(1891):4296万ドル(約68億円)
モネの代表的な連作の1つ、「ポプラ」シリーズの《エプト川沿いのポプラ並木、夕暮れ》(1891)は、夕暮れの光の中、垂直に伸びたポプラの木が並ぶ味わい深い風景を描いた作品だ。2025年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで出品され、推定価格3000万~5000万ドル(約47億5000万〜79億2000万円)のところ、4296万ドル(約68億円)で落札された。この作品は、1892年から1955年までフランスの美術商ポール・デュラン=リュエルとその子孫が所有し、30年以上にわたりボストン美術館で展示されていた。こうした由緒正しい来歴に加え、抑制の効いた抽象性と深みのある雰囲気が評論家から高く評価されたことが活発な競り合いにつながっている。
クリスティーズ・ニューヨークの印象派・近代美術部門責任者のヴァネッサ・フスコは本作について、「暖色と落ち着いた寒色が印象的に織り交ぜられ、夕日の輝きが夕暮れへと移り変わる瞬間を捉えたこの作品は、モネの最高傑作と言えるでしょう」と評している。このオークションでの落札価格は、モネの「ポプラ」シリーズ作品の市場価値の高さを裏付けるもので、優れた来歴と芸術的希少性を兼ね備え、テーマを絞った連作が目覚ましい成果を上げ得ることを証明した。
Photo: Christie’s

7. 《睡蓮》(1906):5400万ドル(約85億6000万円)
2014年6月23日、1906年に制作されたモネの《睡蓮》がサザビーズ・ロンドンに出品され、5400万ドル(約85億6000万円)で落札された。印象派を育てた画商として知られるポール・デュラン=リュエルのコレクションに収められていた作品で、さざ波の立つ水面に睡蓮の葉が浮かぶジヴェルニーの池の穏やかな情景が描かれている。
柔らかな緑と紫が繊細な層となって溶け合う様子は移ろいゆく光と静かな時の流れを表し、空や木々が映る水面のきらめきが静謐で瞑想的な空間を感じさせる。「睡蓮」シリーズの中でも特に洗練された本作は、モネが抱く自然への深い思いと、その中の一瞬を捉える類い稀な才能を明確に示している。
Photo: Sotheby’s

6. 《大運河とサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂》(1908):5663万ドル(約89億7000万円)
2022年5月17日に、サザビーズ・ニューヨークで5663万ドル(約89億7000万円)で落札された《大運河とサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂》(1908)は、ヴェネチアの光り輝く水路を荘厳な美しさで表現している。モネによる数少ないヴェネチアの風景画は、変化していく光とそれが与える印象を描き出す卓越した技量を象徴するものだ。
生涯でただ一度のヴェネチア旅行でモネが描いたこの絵には、きらめく運河の向こうにそびえ立つ壮麗な聖堂、黄金色の光と淡い霧によって柔らかな印象を与えるドーム、水面の穏やかな波紋に揺れる建物の影や空などが見える。そして、流れるような筆致が、情景に夢のような趣を与えている。
Photo: Sotheby’s

5. 《睡蓮》(1914-17年頃):6550万ドル(約103億8000万円)
モネが晩年の円熟期に制作した《睡蓮》(1914-17年頃)は、2024年11月18日、サザビーズ・ニューヨークのオークションで世界中の入札者による17分間の激しい競り合いを引き起こし、6550万ドル(約103億8000万円)で落札された。印象派の作品でありながら、オークションで競り合ったのは、現代美術のトレンドを牽引するコレクターたちだった。
アメリカ美容業界の大物、シデル・ミラーの遺品から出品されたこの大型作品は、抽象に向かっていくモネの作風を体現し、流れるような筆づかいで描かれた画面では睡蓮と池の境界が溶けていくように見える。このオークション結果は、印象派と抽象美術の架け橋となる晩年の作品への需要を裏付けるものと言えるだろう。
Photo: Sotheby’s

4. 《睡蓮》(1919):8045万ドル(約127億5000万円)
睡蓮の池を描くモネの意欲的な構想は、《睡蓮》(1919)で壮大なスケールに達した。第1次世界大戦が終わって間もない時期に描かれたこの大作は、ジヴェルニーのモネの庭にある静かな池へと見る者を誘う。柔らかな青と緑にピンクや白のアクセントが溶け合った、100cm × 200cmを超える画面に捉えらえているのは、水面に浮かぶ花々の繊細さだ。そこには木々や空が水に映るきらめきが波紋のように優しく広がり、穏やかで夢のような雰囲気が漂っている。そして、何度も重ねられた筆致と微妙な色彩の変化が、安らかな瞑想の感覚を呼び起こす。
本作は2008年6月24日に、クリスティーズ・ロンドンで8045万ドル(約127億5000万円)で落札された。史上を驚かせた落札価格は、モネの晩年の作品に対する人気の高まりを反映するもので、名高い「睡蓮」シリーズの作品がさらに多くのコレクターにとって垂涎の的となるきっかけとなった。
Phot : Christie’s

3. 《積みわら》(1891):8145万ドル(約129億円)
2016年11月16日、クリスティーズ・ニューヨークのオークションにモネの《積みわら》(1891)が出品された。長く個人コレクションに所蔵され、数十年間にわたり一般公開されていなかったこともあって、入札競争は熾烈を極め、最終的に8145万ドル(約129億円)で落札されている。
当時、この作品がモネの史上最高額を樹立したことは、重要な転換点となった。それ以降、モネの中では比較的な地味な位置付けにあった田園の風景画が、他の壮麗な作品と肩を並べる評価をコレクターから受けるようになったからだ。冬に描かれたこの作品には、雪に覆われた周囲の風景の中で輝く干草の山の温かみが捉えられ、季節や空気感の変化を描写することへのモネのこだわりが感じられる。
Photo: Christie’s

2. 《Nymphéas en fleur(花ざかりの睡蓮)》(1914-17年頃):8470万ドル(約134億2000万円)
鮮やかなピンク、緑、青が特徴的な《Nymphéas en fleur(花ざかりの睡蓮)》(1914-17年頃)は、ペギー&デイヴィッド・ロックフェラー夫妻が所蔵していた色彩豊かな作品だ。2018年5月8日に行われたクリスティーズ・ニューヨークのオークションでは、激しい入札合戦の末に8470万ドル(約134億2000万円)で落札された。当時はモネの史上最高額を更新するものだったが、翌年、記録はさらに塗り替えられている。
緩やかな筆づかいと抽象的とも言える構図は近代の抽象絵画に先駆けるもので、モネが晩年に試みた形態と色彩の探求の奥深さが見て取れる。主要美術館での展示歴を含む本作品の来歴も市場における魅力をさらに高める要因で、高額落札は晩年のモネが残した革新的作品に対するコレクターの関心が高まっていることを裏付けた。
Photo: Christie’s

1. 《積みわら》(1890):1億1070万ドル(約175億4000万円)
2019年5月15日に、サザビーズ・ニューヨークで1億1070万ドル(約175億4000万円)もの高額を付け、印象派作品の最高額を樹立成した《積みわら》(1890)は、同シリーズの中でも特に有名な作品の1つだ。その画面は紫や燃えるようなオレンジ、柔らかなピンク色の重なりに包み込まれている。モネの流麗かつ精緻な筆致は、移ろいゆく光にきらめく大気を感じさせ、素朴な田園風景を豊かな色彩の雰囲気ある作品へと昇華させた。
夏の終わりの夕暮れ時、薄れゆく光の中で輝く干し草の山を描いたこの絵を1892年に購入した最初の所有者は、シカゴの著名コレクターで慈善家のバーサ・オノレ・パーマーだった。同じモチーフを、異なる時間帯やさまざまな天候の下で描いた25の連作の1点である本作は、1986年のオークションでは250万ドル(約4億円)で落札されていた。これは、33年後の記録的落札額につながる結果だったと言えるだろう。
Photo: Sotheby’s