モヘンジョダロはいかにして繁栄と格差縮小を実現したのか──最新研究が覆す都市の定説

インダス文明最大級の都市モヘンジョダロでは、都市が成熟するにつれて貧富の差が縮小していた。約4000年前の住居跡を分析した研究は、都市の発展が必ずしも格差拡大を意味しないことを示し、古代文明に対する見方に一石を投じている。

モヘンジョダロ遺跡の一部。Photo: Wikimediacommons
モヘンジョダロ遺跡の一部。Photo: Wikimedia Commons

経済成長は格差を広げ、都市が大きくなるほど富は少数の手に集中していく──私たちは、そんな構図を「社会の常識」として語りがちだ。過去を振り返っても、多くの古代都市では村が都市へと膨らむ過程で王や神官といった支配層が富を集め、巨大な施設を築き、社会の上下関係を強めていった。

ところが、ヨーク大学の研究チームがインダス文明最大級の都市モヘンジョダロを調べたところ、この常識とは異なる姿が浮かび上がった。約4000年前に繁栄したこの都市に残る住居の大きさを比較したところ、モヘンジョダロでは同時代のほかの古代都市に比べて貧富の差が小さかっただけでなく、都市として成熟するにつれて格差が縮んでいたという。論文の筆頭著者で、ヨーク大学で考古学を研究するアダム・グリーンはこう語る。

「過去の発掘記録を分析すると、都市が成熟するにつれて住居の広さの差が小さくなっていったことがわかります。後の時期には、モヘンジョダロの貧富の差は、農耕社会が始まったばかりの初期の村落と同じ程度まで縮まっていました。古代エジプトで神格化された王のためにピラミッドが築かれ、ギリシャのクノッソスで巨大な宮殿が建てられていた時代に、インダス文明の人々はまったく別のものを築いていたのです」

都市に注がれた富

金で満たされた墓や壮麗な神殿の代わりに、モヘンジョダロが力を注いだのは、レンガで精緻に組まれた排水溝や、整然と区画された街路だった。成長によって得られた富をひと握りのエリート層に集めるのではなく、都市に必要な設備や利便性を、普通の家々の暮らしに届く形で整えていたとグリーンは指摘する。

富や権限が一部に集中していなかった可能性は、インダス文明を代表する遺物として知られるインダス印章の出土状況からもうかがえる。牡牛やゾウ、一角獣などが彫られた滑石製の印章は、商標や行政印として用いられていたと考えられている。こうした商業や行政の道具は一般家庭から見つかる例が多く、印章を独占していたと見られる宮殿の存在も、今のところ確認されていない。少なくともモヘンジョダロでは、富や管理の仕組みがひとりの支配者や限られた宮廷に集中していたとは考えにくく、都市の住民たちが広く関わる形で社会が運営されていた可能性がある。

排水や街路の維持といった、地味だが生活に直結する分野への投資も、公共の利益を重視する姿勢を示している。さらに、インダス文明圏では度量衡が広い範囲で統一されており、地域を越えた交易を支える共通の基盤が整えられていた。こうした仕組みは、特定の支配層だけでなく、多くの人々が都市の恩恵を受ける社会のあり方と重なって見える。

公平さは繁栄の妨げではない

グリーンは、格差が最も小さくなった時期に生産性が上昇していた点にも注目する。繁栄には少数の支配者による強い意思決定が必要だという見方は、今回の調査結果によって揺さぶられるという。モヘンジョダロでは、王の宮殿や貴重品で満たされた墓、為政者の彫像も見つかっていない。彼はその点を踏まえ、こう続ける。

「インダス文明は、都市社会が大きな規模を保ちながら、高い生産性と創造性を発揮し、資源や権力を比較的公平に分かち合えることを示しています。むしろ、そうした公平さこそが、何世紀にもわたる繁栄を支えた鍵だったのかもしれません。現代社会にとっても、これは重要な教訓になるはずです」

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