セラミックアート旋風の実像──需要拡大と市場評価のねじれ
古代から長い歴史を持つ陶芸から生み出されるものは、実用的な器から抽象的な彫刻作品まで幅広い。それが今、現代アートの世界で急速に人気を高めている。それを示すアートシーンの動向と市場から見た陶芸作品の現状について取材した。

アートファンなら、最近アメリカの三大都市で(きっと他の地域でも)セラミックアートを目にする機会が増えていると感じているのではないだろうか。美術館でも、ギャラリーでも、そしてアートフェアでも、カップや花瓶といった古典的な形態から具象や抽象の彫刻に至るまで、セラミックという古代以来のメディウムを扱うアーティストたちによる幅広い作品が展示されている。
まずは、そうした展覧会の数々を順不同で紹介しよう。
ギャラリー、アートフェア、美術館でセラミック作品が目白押し
ニューヨークのギャラリーでは、ジェームズ・コーハンで1点4万5000ドル(最近の為替レートで約716万円、以下同)のキャシー・バターリーの小型作品が完売。フリードマン・ベンダでのニコール・チェルビニの展覧会でも、最高6万5000ドル(約1000万円)までの作品がほぼ完売し、ルビー・ネリの展覧会が開かれたアップタウンのサロン94での最高価格は7万5000ドル(約1200万円)だった。マシュー・マークスではロン・ネーグルの個展が開催されたが、同ギャラリーでは少し前にケン・プライスの展覧会も行われていた。
ガゴシアンのパークアベニューにあるスペースでは、シアスター・ゲイツの「Dave: All My Relations(デイブ:私との関係の全て)」が開かれた。これは、サウスカロライナ州出身で、奴隷でありながら陶芸作家として活動したデイヴィッド・ドレイクへのオマージュとしてゲイツが企画したもの。ドレイクに影響を受けたゲイツ自身も陶芸作品を制作している。また、ニュー・アート・ディーラーズ・アライアンス(NADA)は、トライベッカにあるザ・ロッカー・ルームで「NADA セラミックス」(3月6日~8日)を開催し、アーティスト、ギャラリー、スタジオなど40以上の出展者が参加した。
カリフォルニアでは、今年のフリーズ・ロサンゼルス(2月26日〜3月1日)で少なくとも3つのギャラリーが陶芸作品を展示していた。ニューヨークが拠点のオルニー・グリーソンは、ボスコ・ソディの粘土彫刻を7万2000ドル(約1140万円)前後で販売。ジェフリー・ダイチ(ニューヨークとロサンゼルスに拠点)は、カリフォルニア生まれのシャリフ・ファラグによるソロブースで、1万4000から3万5000ドル(約223万〜557円)の作品を出展した。そしてデイヴィッド・コルダンスキー(ニューヨークとロサンゼルスに拠点)は、ドイル・レーンによる釉薬を施した陶器を展示している。コルダンスキーはその後、エリザベス・マレーの絵画とベティ・ウッドマンの陶器による2人展をニューヨークで開催し、後者には最高19万ドル(約3000万円)の価格が付けられていた。

ロサンゼルスで行われた今年で2回目のポスト=フェア(Post-Fair)でも、出展者31組のうち3組が、印象的なセラミックアート作品を展示していた。ニューヨークのアントン・カーンは、フランシス・アップリッチャードの作品(陶芸作家ニコラス・ブランドンとの共同制作)を1万〜1万6000ドル(約159万〜254万円)の価格帯で販売。ロサンゼルスのマリポサはピーター・シュレジンジャーの作品数点を最高4万ドル(約636万円)で、同じくロサンゼルスのマルタはジョージ・シャーマンの作品を4000〜2万ドル(約64万〜318万円)で出品した。

ポスト=フェア期間中、ロサンゼルス地域のギャラリーでも、さまざまな陶器作品の展覧会が行われた。メーガン・マルルーニーのアルマ・ベロウ個展での価格は800〜1万2000ドル(約13万〜190万円)。同ギャラリーで5月に開幕したマディ・アイネズのロサンゼルス初個展の価格帯は1750〜1万5000ドル(約28万〜239万円)だ。ちなみに、アイネズはアーティストのベティ・サールの孫娘で、アリソン・サールの娘にあたる。デイヴィッド・ツヴィルナーでは、セラミックアーティストのシオ・クサカが企画したマグダレナ・スアレス・フリムケスの陶器と紙による作品の展覧会が開かれ、陶器の価格は最高8万ドル(約127万円)だった(ちなみにシオ・クサカは、2025年冬、パートナーのジョナス・ウッドとの二人展を京都・両足院で開催している)。

一方、4月のエキスポ・シカゴでは、ニューヨークのギャラリー、ビエンヴニュ・スタインバーグ&Cが韓国系アメリカ人アーティスト、ジェーン・ヤン=デヘインの作品を9000〜2万4000ドル(約143万〜382万円)で出展。マイアミのミンディ・ソロモンは、陶器と編みかごを組み合わせたディー・クレメンツの作品を1万2000〜1万6000ドル(約190万〜254万円)で、シカゴのザ・ミッション・プロジェクツはニコラ・コスタンティーノのセラミック作品を600〜1万5000ドル(約9万5000〜239万円)で販売した。
フェアやギャラリー以外にも、東海岸の複数の美術館で陶芸の展覧会が開催されている。大規模改築を終えた昨秋、一般公開を再開したニュージャージー州のプリンストン大学美術館の一室で行われているのは、日系アメリカ人の陶芸作家、トシコ・タカエズの展覧会だ(7月5日まで)。ロードアイランド州プロビデンスのRISD美術館では、「A Shared Journey: The Barkan Contemporary Ceramic Collection(共有された旅:バーカーン現代セラミックコレクション)」が開催中で(2028年3月5日まで)、ニューヨーク州サラトガ・スプリングスのタン・ティーチング・ミュージアムでは、キャシー・バターリーの作品が展示されている(7月26日まで)。
陶芸がハイアートと認められるまでの「長い道のり」
セラミックアートの歴史は旧石器時代にまでさかのぼる。20世紀にはルーチョ・フォンタナ、ジョアン・ミロ、イサム・ノグチ、パブロ・ピカソといった絵画や彫刻の巨匠が陶芸作品を残し、現代のセラミックアーティストへとその実践が継承されている。しかし、長い伝統があり、現代アートにも受け入れられているセラミックアートの価格が妥当な水準にあるかと言われれば、疑問が残る。

「セラミックアートはアート界にすっかり定着し、アーティストたちは広く受け入れられたメディウムとして自由にセラミックの彫刻を制作しています」
サロン94の創設者、ジャンヌ・グリーンバーグ・ロハティンは、US版アートニュースの電話取材でそう明言している。
一方、17歳のときにニュージャージー州のフリーマーケットでセラミックアートの取引を始めたデイヴィッド・ラゴは、受容には長い時間がかかったと語る。ラゴは1984年にラゴ・オークションズを設立し、現在はラゴ/ライト(Rago/Wright)のパートナーとなっている。
「それは骨の折れる道のりでした。陶芸作品は昔は工芸品とされていましたし、今でもそう見られている部分があります」

いったい、セラミックアートは1つのメディウムとして完全に定着したのか。依然として工芸品と見なされているのか。それともアートと工芸の要素が混在しているのだろうか? セラミックアートを販売したり購入したりする人にとって、陶芸と聞いて思い浮かぶのがカップや花瓶、あるいは「女性の仕事」といったイメージ(*1)であることが、絵画や他の彫刻ほどの価格にならない理由なのかどうかは、古くて新しい問題だ。
*1 欧米では近代以降、「ファインアート(絵画・彫刻)」と「クラフト(陶芸・織物など)」が明確に分けられ、後者は女性の労働(家内労働、手仕事)と長らく位置付けられてきた。一方、日本においては、茶道文化や民藝運動との結びつき、家制度・徒弟制度に象徴される男性中心の継承構造から、男性中心のジャンルと捉えられてきた。
とはいえ、まず押さえておくべきなのは、非常に多くのアーティストがセラミック作品を制作しているということだろう。セラミックに専念するアーティストもいれば、数ある表現形式の1つとして取り入れているアーティストもいる(グリーンバーグ・ロハティンは「セラミックがそれ以外の創作活動に吸収されていっている」と表現した)。また、複数の素材の1つとしてセラミックを取り入れたミクストメディア作品もある。
たとえば、シモーヌ・リーの《Las Meninas II(ラス・メニーナスII)》(2019)は、テラコッタ、鉄、天然の繊維とともにセラミックを取り入れた作品で、2023年にサザビーズ・ニューヨークで310万ドル(約4億9000万円)で落札され、オークションに出品されたリーの作品としては史上2番目に高い落札額を記録した。なお、セラミックのみを用いたリーの作品の最高落札額は、2025年にクリスティーズ・ニューヨークで《Lusaka(ルサカ)》(2020)が記録した73万800ドル(約1億1700万円)だ。

したがって、価格水準が妥当かどうかという疑問への答えは、アーティストがセラミックを取り入れて制作する手法の数だけあるというのが、デイヴィッド・コルダンスキーの見解だ。コルダンスキーはメールでの取材に次のように回答している。
「近年、セラミックアートへの関心が急激に高まっていますが、市場の動きは一様ではありません。最近のセラミック熱と、厳格に陶芸に取り組む作家たちへの長きにわたる評価との間には、依然として大きな隔たりがあります」
工芸品というイメージが残ることは確かだが、新しい世代の買い手によって状況が変化しつつあると考える関係者もいる。その1人が、ロサンゼルスのギャラリー、マルタのベンジャミン・クリットンだ。彼はメール取材にこう答えている。
「工芸品という見方は、今も価格を比較的低く抑える要因になっています。その一方、セラミックアートの展示の機会が増えるにつれ、若いコレクターの間では、時に笑いを誘うような、無知からくる素材についての間違った認識や混同、あるいは単純な無関心、そして最悪の場合には好奇心の欠如が浮き彫りになっています。作品を十把一絡げに『彫刻』として捉え、その素材が何を意味するのかにはあまり関心がないようです」
絵画や彫刻に遠く及ばないオークションの落札価格
アート市場の分析を行うARTDAIの統計によると、セカンダリーマーケットにおけるセラミックアートの存在感は、過去10年間で劇的に高まっている。2016年にオークションに出品されたセラミック作品は695ロットで、売上高は3000万ドル(約48億円)に届かなかった。しかし、2025年には出品点数が6200点を超え、売上高は2倍を超える6250万ドル(約99億円)だった。
フォンタナ、ミロ、ノグチ、ピカソのセラミック作品は、いずれも手堅いオークション実績を残している。しかしその最高落札価格は、絵画や他の素材による彫刻作品が記録した価格に遠く及ばない。
たとえば、ピカソのセラミック作品で100万ドル(約1億5900万円)の大台を突破したのは3点で、《La Chouette en Colère(怒れるフクロウ)》(1953)は2018年にサザビーズ・ニューヨークで250万ドル(約4億円)で落札された実績がある。それに対して、絵画における最高落札価格は、《アルジェの女たち(バージョン「O」)》(1955)が2025年にクリスティーズ・ニューヨークのオークションで落札された際の1億7940万ドル(約285億円)だ。
フォンタナの場合、落札額が100万ドルを超えたのは7点で、高さ242センチの大型セラミック作品《Figura Femminile Con Fiori(花を持つ女性像)》(1948)は、2018年にサザビーズ・ロンドンで180万ポンド(約3億8000万円)で落札された。フォンタナとしての最高落札額は、絵画《Concetto spaziale, La Fine di Dio(空間概念、神の終焉)》(1964)が2015年にクリスティーズ・ニューヨークで記録した2920万ドル(約46億4000万円)だ。
2013年にサザビーズ・パリで79万7500ドル(約1億2700万円)で落札されたミロの《Grand vase(大きな花瓶)》(1956)は、50万ドル(約8000万円)を超えた彼のセラミックアート作品3点の1つだが、ミロ作品全体での最高落札額は、2012年にサザビーズ・ロンドンで《Peinture (Etoile bleue)(絵画 [青い星])》(1927)が記録した3690万ドル(約58億7000万円)に上る。
イサム・ノグチのセラミック作品《The Elephant(象)》(1952)は、2013年にクリスティーズ・ニューヨークで33万9750ドル(約5400万円)で落札され、予想最高価格の4万ドル(約636万円)を大幅に上回った。それに対し、花崗岩を素材とする《The Family(家族)》(1956)は、2023年のサザビーズ・ニューヨークで1230万ドル(約19億6000万円)というノグチ作品のオークション最高記録を樹立している。
過去10年間でセラミックアートの市場はめざましい成長を遂げた。しかし、権威あるアーティストであっても、その地位や作品の質に比べて低い価格にとどまっていることが少なくない。

上記の巨匠たちより少し時代が下った1950年代、ロサンゼルス・カウンティ・アート・インスティテュート(現オーティス・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン)と、カリフォルニア大学バークレー校にセラミックアート科を設立したのがピーター・ヴォーコスだ。
抽象表現主義的な陶器で知られるヴォーコスが指導したロン・ネーグルやケン・プライスなどは、次世代のアーティストの中心的な存在となり、ネーグルは2013年のヴェネチア・ビエンナーレに出展。同じ年にプライスの回顧展がアメリカ各地の主要美術館を巡回した。ヴォーコスは、作品に100万ドル(約1億5900万円)を超える価格が付く数少ないセラミックアーティストの1人で、《Black Bulerias(ブラック・ブレリアス)》(1958)は、2020年にフィリップス・ニューヨークで130万ドル(約2億円)で落札された。
教え子のプライスも陶芸界の巨人だが、これまでに50万ドル(約8000万円)を超えた作品は2点のみで、最高額は2023年にクリスティーズ・ニューヨークで落札された《M. Green(M. グリーン)》(1961)の55万4000ドル(約8800万円)。また、ベティ・ウッドマンの最高落札価格は、2021年にラゴ・オークションズで《Untitled (Diptych)(無題 [二連画] )》(1990年頃)が記録した13万1250ドル(約2100万円)だ。
そのほかの著名なセラミックアーティストも、セカンダリーマーケットでの価格は10万ドル(約1590万円)に届かない。ネーグルの最高落札額は、《Criminal Negligee(刑事過失)》(2012)が2021年にクリスティーズ・パリで落札されたときの5万5000ドル弱(約870万円)。キャシー・バターリーの最高額は3万2250ドル(約513万円)で、2025年にフィリップス・ニューヨークで《Green Reach》(2018)で記録したものだ(バターリーの高額落札作品トップ10のうち8点は、2024年と2025年に出ている)。そして、ルビー・ネリが座った女性を表現した2014年の無題の作品は、彼女の最高落札額ではあるものの、2023年にボナムズ・ロサンゼルスで記録したその金額は1万2100ドル(約192万円)にとどまった。

市場の拡大でセラミックアート専門アートフェアも登場
今年第1回が開かれたセラミックアート専門のフェア、NADAセラミックスには、100ドル未満から1万ドル(約1万5900〜159万円)に達する作品までが並んだ。その雰囲気はアートフェアというより工芸フェアに近く、出展者たちが小さなテーブルでひしめき合うように展示していた。そこで目についたのは、ニューヨークのオール・アバウト・クレイ(All’Bout Clay)と共同で出展したキュレーターのラリー・オセイ=メンサが、ラリー・ポッター(ポッターは陶芸家の意)というダジャレのようなアーティスト名で出展していたことだった。
NADAのエグゼクティブ・ディレクター、ヘザー・ハブスはフェア設立について、「ある朝、目が覚めたとき、ニューヨークにセラミックアート専門のイベントが1つもないのはちょっとおかしいと思ったんです」と電話による取材に答えた。
NADAセラミックスでは、約40のブース枠に対し、出展希望者から130件以上の申し込みが寄せられ、抽選に通ったディーラーたちは、数々のギャラリーが集まるトライベッカにあるイベント会場、ロッカー・ルームの展示テーブルを1台わずか250ドル(約4万円)で確保することができた。ハブスによれば、週末を通して来場者が絶えなかったという。彼女は以前にも、NADAで同様のイベントを実施したことがあったが、NADAセラミックスという名称を用いて専用の会場で開催したのは今回が初めてだ。
「もっと格調高く、本格的なものにしていきたいと思います。実用的な作品と、彫刻に特化したブースが共存するフェアは実現可能だと信じたいです」
さらに、クリスティーズの戦後・現代アート部門のアソシエイト・スペシャリスト、シェリーン・アル=サワフはビデオ通話による取材で、一般的にサイズが小さい(ゆえに価格が低い)ことがセラミックアートの魅力の1つではないかと指摘した。その背景には、ほとんどの作品が窯の大きさの制約で、最大でも中程度のサイズにとどまるという事情がある。アル=サワフはこう続けている。
「空間全体を覆うような超大型の絵画や彫刻はもうめずらしくありません。それに、購入する作品のサイズに対する考え方が変わり始めていて、ミニチュアや小さなオブジェに心惹かれる人も増えています」
セラミックアートの支持者たちは、セカンダリーマーケットでの落札価格が上がっていくことを望んでいるかもしれないが、控えめな価格はコレクターには歓迎されるだろう。アル=サワフは、(前述のような高額落札の出る)クリスティーズでも、さまざまなアーティストによるセラミックアート作品を5000〜1万ドル(約80万〜159万円)程度で定期的にオークションに出品しており、その価格はプライマリーマーケットの相場とほぼ同水準だと説明した。
「どれも予想と比べて良い結果で売れています。この傾向は今後も続くでしょう」
(翻訳:清水玲奈)
from ARTnews