「あなたと、すべてとともに」──ヴェネチア・ビエンナーレのイタリア館が描く、共生のかたち

第61回ヴェネチア・ビエンナーレのイタリア館は、作者性を個人に帰属するものではなく、他者や環境との関係のなかで立ち上がるものとして捉え直す試みだ。作品、素材、人間以外の存在が織りなす空間について、関係者に聞いた。

第61回ヴェネチア・ビエンナーレでイタリア館を代表したキアラ・カモーニの作品。
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA

第61回ヴェネチア・ビエンナーレにおけるイタリア館を代表するのは、アーティストのキアラ・カモーニ(Chiara Camoni)と、キュレーターのチェチリア・カンツィアーニ(Cecilia Canziani)だ。1910年創業のイタリアの老舗ブランド、ゼニヤ(ZEGNA)がメインスポンサーが務める本展の会場となったテーゼ・デッレ・ヴェルジーニ(1872年のアルセナーレ拡張工事の際に建てられた、2棟の倉庫からなる建物)は、カモーニによる陶器の人物像、有機素材、リサイクル素材によって構成され、素材・記憶・関係性の相互作用を問いかけながら、鑑賞者が自由に行き来できる共有環境へと変容している。カモーニは、本展タイトル「Con te con tutto(with you, with everything=あなたと、すべてとともに)」は、「他者や世界に向けて開かれた姿勢を明確に示すもの」であり、作者性を固定された個人のものではなく、他者と共有され、外部に開かれたものとして捉え直す試みであると説明する。カンツィアーニもまたこの展覧会の複数的な性格を強調し、「集いへの呼びかけ」──作品、身体、無数の気配が共鳴し合う場──として位置づける。

事実、イタリア館は、多様な協働によって形づくられている。第1棟、第2棟の展示はいずれも密度があるが、決して息苦しくはない。

作品はどれも大きく存在感があるが、見る者を圧倒しようとする気配はなく、パフォーマンスと彫刻が自然に隣り合っている。空間に流れる時間もまた一様ではない──作品が内包する時間、制作者・鑑賞者ら人間が感じる時間、そして自然の営みの時間が、ひとつの場のなかで静かに重なり合っている。

第1棟:人間でも動物でも神でもない存在

第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Iris Gentili
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini

第1棟には、人間の身長をわずかに上回る24体の陶製彫刻が、薄暗い空間の中に静かに佇んでいる。紐状の粘土を積み上げる「コロンビーノ(colombino)」の技法、あるいは小さな素焼きのパーツを積み重ねる手法で成形された、《コロンネ(Colonne)》、《シスター(Sister)》、《ダイモン(Daimon)》などと名付けられたこれら人物像は、人間でも動物でも神でもない、その狭間に宙吊りにされたような存在として立ち現れる。顔立ちや姿かたちが明確なものもあれば、変容の途上にあるかのように形が定まらないものもある。アニミズム的な印象を受けるのは自然だが、作品が向かう先は宗教的な図像でも儀礼的な表現でもない。それよりも、素材そのものが関係を生み出す力を内側に宿しているかのような、静かな緊張感が漂っている。カモーニ自身が語るように、この実践の根底にあるのは反復と持続——時間をかけて積み重ねられる身振りの集積だ。

第2棟:パビリオンを「居住の場」として開く

第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini

第2棟に入ると、雰囲気は一変する。第1棟の緊張した静寂から解放され、来場者は明るく開かれた空間へと足を踏み入れる。横たわる大きな女性像がいくつか、二つの空間の境界に置かれ、その先に広がる座席・通路・部屋・庭園からなる空間へと自然に誘う。それが居住可能な彫刻なのか、日常的な環境を転用した展示空間なのかは判然としない。しかしこの曖昧さこそが、本展の核心のひとつといえる。カンツィアーニが目指したのは、カモーニのスタジオが持つ空気──作品・人・素材が有機的に関係し合い、何かが常に生成されつつあるあの感覚──を会場に呼び込み、パビリオンをひとつの一時的な共住の場として開くことだ。本人の言葉を借りれば、「スタジオのイメージと、生きられたスタジオとを重ね合わせる」試みだ。

この方向性は、第2棟に設けられたサブセクション「ダイアローグ(Dialoghi)」にも体現されている。カンツィアーニとは別に、カモーニと長年協働関係にあるルチア・アスペシ(Lucia Aspesi)とフィアンメッタ・グリッチョーリ(Fiammetta Griccioli)がキュレーションを担ったこのセクションは、家具を組み合わせて作られた家屋型の彫刻群《カゼッテ(Casette)》の内部に展示されている。ファウスト・メロッティ(Fausto Melotti)やマリサ・メルツ(Marisa Merz)の作品、紀元前7世紀のエトルリアのアンフォラ、写真・化石・オブジェ、そしてアリーチェ・ロールヴァッケル(Alice Rohrwacher)とアンナマリア・アイモーネ(Annamaria Ajmone)への新作委嘱まで、時代も素材も異なる多様な参照軸が持ち込まれ、カモーニの実践をより広い歴史的・批評的文脈に位置づけている。なかでもアイモーネの《カンティ・フォッシリ(Canti fossili)》は、声・身体・記憶の関係を軸とした持続的なパフォーマンスとして空間に織り込まれており、来場者はその只中を歩き、自らもその一部となることができる。

イタリア版ARTnewsは、この展示の諸相をより深く理解するために、制作プロセス、素材の生命力、エコロジーやポストヒューマンの思想、そして作品が生み出す関係性──プロジェクトを貫く思考の核心について、キアラ・カモーニのアシスタントであるルカ・パリーゼ(Luca Parise)とアシスタント・キュレーターのジュリア・ガイビッソ(Giulia Gaibisso)に話を聞いた。

作品を方向づけるのは作品そのもの

ARTnews Italia(以下、ANI) イタリア館に展示された人物像は、人間的・動物的・抽象的な形態の間を絶えず行き来しているように見えます。スタジオでは最初の身振りから焼成に至るまで、このプロセスはどのように展開されるのでしょうか。

ルカ・パリーゼ(以下、LP) プロセスは非常に有機的であり、彫刻のかたちはさまざまな状況・要因で決まっていきます。最終的にどのような姿になるか、あらかじめ決まったプランがあるわけではないんです。最初の成形から焼成、そして焼成後に素材(プラスチックや有機素材など)を加えるか否かの判断に至るまで、その方向性を決めているのは、ある意味で彫刻そのものとも言えます。キアラは素材の応答に非常に敏感で、彫刻が向かいたい方向を繊細に汲み取っています。全工程を通じて、作品が求めるものにいかに耳を傾けられるかが重要なのです。そうした作品との対話は、ビエンナーレでの展示からもわかるように、作品の完成後にも続きます。

第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Courtesy of ZEGNA

ANI キュレーターのチェチリア・カンツィアーニはこの展示を、作品・身体・素材・環境のあいだに明確な優劣や序列を設けず、鑑賞者が空間を自由に行き来できるよう、意図的に構成しているように感じました。今回、ドナ・ハラウェイ(Donna Haraway)やジェーン・ベネット(Jane Bennett)の思想も参照されたとのことですが、人間と非人間との関係というテーマにおいて、彼女たちの思想はどのように作用しているとお考えですか。

ジュリア・ガイビッソ(以下、JG) 今回の展示は、キュレーターがカモーニの制作方法論を空間として具現化したものです。なので、カモーニの過去の展覧会から飛躍があるわけではありません。作品がどのような環境や文脈から生まれたかを可視化することで、カモーニのこれまでの実践をより広く開いてみせるものです。

それぞれの作品は、特定の場所や環境と結びついています。土、砂、植生など自然由来の素材を基盤としたこれらの作品には、同時に、人間活動の痕跡も刻まれています。例えば、第1棟に展示されている彫刻のなかには、ヴェルシリアのビーチで拾い集められたプラスチックごみを、まるで宝物のように手の中に収めたものもあります。あるいは、カモーニのスタジオ周辺の大理石採石場から出た断片や端材は、第2棟の《カゼッテ(Casette)》──家具の解体部材を組み合わせた台座状の構造体──の傍らに配された《モザイク(Mosaici)》の素材として生まれ変わっています。

こうした素材の選択は、美学的な効果だけを目的としたものではありません。人間の行為を環境の構成要素として正面から捉え、自然と文化を対立させてきた従来の図式を問い直そうとする意志がそこには込められています。

その意味で、本展はジェーン・ベネットやドナ・ハラウェイの思想と通底しています。立場は異なりますが、両者はともに人間と非人間、そして物質との関係を改めて見つめ直すよう促します。人間の営為によって取り返しのつかないほど変容した自然環境のなかで、それはハラウェイの言う「問題とともに留まる(staying with the trouble)」ことであり、現状を直視した上で、他の生命や物質との新たな関係を模索する試みといえます。

スタジオ内のあらゆる要素が作品になる

ANI 彫刻には、手作業の痕跡や積層のプロセスがそのまま残されています。こうした「開かれた」、いわば、「有機的な未完性」を保つことは、カモーニにとってどのような意味を持つのでしょうか。

LP こうした制作の有機的なあり方は、カモーニの実践の核心をなしています。構造の溶接から輸送用の木箱、彫刻そのものに至るまで、すべてがスタジオ内で作られるのはそのためです。あらゆる要素が作品の一部であり、作品に影響を与える。スケッチをもとに外部へ委託したり、他者に委ねて発展させたりできるような実践ではありません。制作に携わる誰かが手を加えるたびに作品は変化していく──その積み重ねこそが作品を「作る」のです。手作業の痕跡、素材の振る舞い、制作に関わるすべての要素が、そのまま作品を構成するものとなっています。

第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Iris Gentili

ANI 第2棟では、アーカイブ・考古学的遺物・パフォーマンス・歴史的作品・新作委嘱が共存しています。これだけ多様な参照軸を、単なる羅列に終わらせることなくひとつの展示として成立させるために、キュレーションはどのような原則のもとに構成されているのでしょうか。また、素材や物が持つ生命力という観点は、この構成においてどのような役割を果たしているのでしょうか。

JG 第2棟「ダイアローグ」セクションが目指すのは、カモーニを取り巻く親密な関係の系譜を可視化することです。《カゼッテ》の内部には、工芸品・作品・文書から日常的な使用物まで、アートと生活の境界を問い続けてきたカモーニの実践を証言するものが並びます。カモーニの友人でもあるベッティーナ・ブック(Bettina Buck/*1)やアレッサンドラ・スプランツィ(Alessandra Spranzi/*2)の作品は、紀元前7世紀のアッティカのアンフォラや、メダルド・ロッソ(Medardo Rosso/*3)による《Grande Rieuse》——笑う女性の顔を捉えた代表作——の写真複製、そしてファウスト・メロッティ(Fausto Melotti/*4)の釉薬掛けの小鉢二点とともに置かれています。

*1 ベッティーナ・ブック(1974〜2018年)は、ドイツ生まれの彫刻家(〜2018年)。廃材や工業素材を用いた「パフォーマティブな彫刻」で知られる。

*2 アレッサンドラ・スプランツィ(1962年〜)は、日常的な場面や事物を写真・コラージュで探求しているイタリア人アーティスト

*3 メダルド・ロッソ(1858〜1928年)は、印象主義的な手法で人物の一瞬の表情を捉えたイタリア近代彫刻の先駆者。

*4 ファウスト・メロッティ(1901〜1986年)は、音楽的なリズムと繊細な素材感で知られるイタリアの彫刻家。

こうした並置が生み出すのは、単なる文脈的な近接性ではありません。「作品同士が触れ合ったり見つめ合ったりするとき、何が起きるのか」とカモーニはよく問いかけますが、この問いは、作品は鑑賞される以前からすでに存在し、互いに関係し合っているという認識に根ざしています。鑑賞者の存在を前提としない、いわばアニミズム的ともいえるこの視点は、芸術に自律的な生命力を認めるものであり、同時にカモーニの実践を形成してきた視覚的・物語的・情感的な文脈に、具体的な形と名前を与える試みでもあります。

プログラムはパビリオンを超えて

第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini
第61回ヴェネチア・ビエンナーレイタリア館のキアラ・カモーニ「Con te con tutto」展示風景。Photo: Camilla Maria Santini

こうしてイタリア館は、身体・身振り・気配が互いを変容させ合う一時的なコミュニティとして立ち現れる。彫刻は身体の尺度となり、共住の可能性を具体的な形として示す。しかしその理念は、テーゼ・デッレ・ヴェルジーニの内部で完結するものではない。

会期を通じて、イタリア館はアンジェリカ・ブルトシャー(Angelika Burtscher)とダニエレ・ルーポ(Daniele Lupo)が率いるデザイン・リサーチ集団、ルンゴマーレ(Lungomare)のキュレーションによるパブリック・プログラムを通じて、ヴェネチアの都市空間へと広がっていく。6月・9月・10月に設けられた三つのテーマ別週末──「Il selvatico, l'onirico e il disastroso(野生的なもの、夢幻的なもの、破滅的なもの)」「Le diverse forme di intelligenza(知性の多様な形態)」「Pratiche vocali e narrazioni collettive(声の実践と集合的な語り)」──では、アーティスト・思想家・研究者たちを招き、パフォーマンス・ワークショップ・対話・散策といった多様な形式で展覧会の問いを開いていく。理論的考察と身体的実践を組み合わせたこのプログラムは、展示空間を超えてプロジェクトの集団的な次元を強化するものだ。こうした重層的な関係の網の目を通じて、イタリア館は最終的に、協働・傾聴・相互構築としての友情という、本展が根底に置く価値を浮かび上がらせる。(翻訳:編集部)

from ARTnews Italia

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