NYに渡った略奪美術品、トルコ返還は認められず。紀元前4000年超の偶像彫刻をめぐる6年の裁判の末
ニューヨークの古美術品収集家、マイケル・スタインハートが2017年、トルコ由来の大理石の偶像彫刻をクリスティーズで購入した。その彫刻が略奪品であったとして、トルコ政府が所有権を主張する裁判を起こしていたが、アメリカ合衆国第2巡回区控訴裁判所は、トルコ側の主張を認めなかった。
論争の中心となっている「グエンノル・スターゲイザー」と呼ばれる彫刻は、紀元前4800年から4100年の間に、トルコ西部の現在のマニサ州で制作されたと考えられている。
スターゲイザーは2017年のクリスティーズ・ニューヨークのオークションに出品され、スタインハートが1450万ドル(約16億円)で購入。トルコ政府は、輸出された文化財の管轄権を国に与える1906年の法律から、クリスティーズを訴えた。訴訟が起きたため、この彫刻はクリスティーズにとどまったままだ。
3月8日、マンハッタンにあるアメリカ合衆国第2巡回区控訴裁判所は、クリスティーズに出品される前の1990年代からこの彫刻は一般市場に流通していたのにもかかわらず、トルコが「その権利を行使していなかった」として以前の判決を覆さなかった。
ローズマリー・プーラー巡回裁判官は、トルコ政府が、彫刻が市場に出て何十年も経ってから請求するのは「不合理」だとした。さらにプーラーは、トルコ文化省から彫刻がニューヨークにあるという報告があったにもかかわらず、政府は「手をこまねいていた」とも述べている。
スタインハートは2022年、ヘッジファンドで失脚しており、ニューヨーク当局の捜査を受けて彼の古美術品コレクションは差し押さえられている。
今回の訴訟が最初に行われた2017年、裁判所は、スタインハートが彫刻を購入した後、その出自をさらに調べる義務はなかったと判断した。彼の代理人は、この判断が古美術品取引の大きな問題点を示唆していると主張し、弁護の鍵となることを強調した。
トルコ政府側の弁護士ヤエル・ワイツは、この結果について、「こうした略奪品を回収するのは非常に困難なことです」と述べ、トルコが略奪された物品を回収するために、ほかの法的措置を取ることを抑止するものではないとしている。
裁判資料によると、プーラー巡回裁判官は、前回の判決で、彫刻を不法に持ち出されたことをトルコ政府が証明するにあたり、選抜した正当な証拠から判断する「負担軽減のプロセス」が誤っていたことを指摘している。ワイツは、「下級審が間違いを犯したと裁判所が認めてくれたことに感謝しています。これは役に立つ判例でした。トルコは次のステップ を検討しています」と話す。(翻訳:編集部)
from ARTnews