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アート業界はおかしな仕事だらけ!? キュレーターより給料の高い美術館の「コーヒー部門長」から「会話係」etc.

2月26日付のニューヨーク・タイムズ紙で、あるアート・カップルによる求人広告が「史上最悪の仕事」として取り上げられ、話題となっている。しかし、これは氷山の一角だ。アート業界にはそもそも呆気にとられるような仕事が少なくないのだ。

あるアート・カップルが「エグゼクティブ・アシスタント」を募集する求人広告のスクリーンショット(2023年、ニューヨーク芸術財団のウェブサイトより)。

「アート界で脚光を浴びるカップル」のために働くフルタイムの「エグゼクティブ/パーソナル・アシスタント」という求人がニューヨーク芸術財団のウェブサイトに掲載されると、アート業界がざわついた。

募集要項では、子どもや犬、シェフ、乳母、庭師、家政婦、来客の世話や管理という、幅広い任務をこなすための「高度な能力」が必要とされていた。ここで羅列されている任務の数々は、普通なら1人ではなく、少人数のグループで分担すべきものだと思うかもしれない。しかし、アート業界で働いたことがある人なら、きっと驚かないだろう。

ちなみに、筆者はアート業界で8年ほど働いているが、さまざまなアシスタント業務で似たような状況を経験している。

細かな雑用が発生することは、ほとんどの求人広告では明記されていないが、アート業界では暗黙の了解だ。多くの場合、いつかは「出世する」ことを願い、どんな業務を振られても引き受ける働き者が期待されている。しかし、本当にその価値はあるのだろうか?

以下、ありえないものからユニークなものまで、過去数年間にアート業界で実際に求人広告が出された「普通ではない仕事」を紹介しよう。

テートのコーヒー部門長

Photo: Mostafameraji/Wikimedia Commons

コロナ禍が始まる直前の2020年初頭、ロンドンの人気美術館テートは、フード部門にコーヒーのスペシャリストを採用しようとした。しかし、同美術館のキュレーター職よりも5000ポンド(現在の為替レートで80万円強)ほど上乗せした年間給与額が提示されていたことから、強い反発の声が上がった。世界有数の美術館で展覧会を企画する人たちに対する敬意が欠けている、と批判されたのだ。

とはいえ、コーヒー部門長の任務には、エスプレッソの品質評価、それぞれ別の場所にあるテートの4つの美術館での運営に加え、事業開発や売上管理も含まれていた。アート業界でなければ、年収が1000万円を超えてもおかしくないだろう。

人種差別主義の美術館長

インディアナポリス美術館 Photo: Mike Steele/Wikimedia Commons

2021年にインディアナポリス美術館は、新館長の募集広告で「これまで中心的だった白人の来館者」を維持できる人材を求めると記載したことで物議を醸した。その結果、同美術館のチャールズ・ベナブル総裁は辞任し、同美術館は運営方針や労働文化の改革を約束する事態となった。

買い物リストの収集係

リヴァーネ・ノイエンシュワンダー《I Wish Your Wish》 (2003)

ブラジル生まれのアーティスト、リヴァーネ・ノイエンシュワンダーが2015年にニューヨークで行ったプロジェクトで、チェルシーにあるターニャ・ボナクダー・ギャラリーは、「ファーマーズ・マーケットで買い物客から買い物リストを集めるのを手伝う」パートタイムの有償ボランティアを募集する求人広告を出した

2004年にヒューゴ・ボス賞の最終選考に残ったノイエンシュワンダーは、買い物リストを用いた作品を、それ以前にも制作している。2003年の作品《Gastronomic Translations》は、フランクフルトのスーパーマーケットで見つけた買い物リストをもとに、サンパウロのシェフ2人に料理を依頼するというものだった。

展覧会での会話係

Photo: Getty Images for illycaffè

ニューヨークのローワーイーストサイドでギャラリーを経営するアートディーラー、リサ・クーリーは、2013年のグループ展「Air de Pied-à-terre」の参加アーティスト、ダレン・ベイダーによる没入型のマルチメディア作品に協力するボランティアを募集した。英オブザーバー紙によると、このときクーリーが募集したのは、ギャラリーの営業時間(水曜日〜日曜日、10時〜18時)に会話を担当する係だったという。

募集要項では、会話をする限り、「勤務時間中にさまざまな活動(歩く、座る、立つ、横になる、寝る、食べる、etc.)」をしても許されるとされていた。この仕事は、金銭的報酬がなくても時間つぶしをしたいという人にとっては、アート作品に参加できるまたとない機会だったかもしれない。

その他

Photo: Thomaseagle/Wikimedia Commons

US版ARTnewsの元編集長、アンドリュー・ラセスは、数年間にわたり個人のツイッターアカウントで、アート業界の仕事の実態を暴露していた。そこでツイートされた求人には次のようなものがある。

・ドローイングのアシスタント
・「ある家族」のための「アメリカ議会名誉勲章受勲用の全書類提出」
・食べられるインスタレーション作品のための有償ボランティア(時給3.75ドルで5日間)
・ニューヨークのニューミュージアムで行われるジェフリー・ギブソンのドラムパフォーマンスへの参加
ニューヨーク近代美術館(MoMA)で「数千個のベル」で覆われたヘグ・ヤンの彫刻を操作する「パフォーマンス・ファシリテーター」

インスタでアート界の差別・搾取・虐待を告発!

次の仕事を探している人も、アート業界で働くことで個人的にひどい目にあったという人も(2004年の人気映画『ミーン・ガールズ』の主人公、レジーナ・ジョージのような強者もいるかもしれないが)、就労環境の悪いアートギャラリーを暴露するインスタグラムアカウント「cancel the damn art galleries」を覗いてみよう。このアカウントは2年近く投稿がないが、しばらくの間、商業美術の世界における差別、搾取、虐待について匿名で告発された内容を投稿していた。(翻訳:清水玲奈)

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