挑発か祝福か──PJハーパーが描く、黒人が主役のミソロジー
「白い黒人」(白人として生きる選択をした黒人)としてスコットランドはグラスゴーで育ったアーティスト、PJハーパー。パワフルでときに挑発的なその作品世界の背景にあるものとは?
PJハーパーは、黒人と白人のミックスとしてスコットランドで生まれ、「白い黒人」(白人として生きる選択をした黒人)として育った。しかし、そんな出自の彼に向けられるどこか冷ややかな視線と社会に蔓延る人種差別によって、次第に彼は「黒人らしさ」を祝福したいと考えるようになった。
「神話や歴史上の人物、あるいは現代に生きる人に着想を得ることが多いです。そして想像するんです、自分の世界でその人やその存在がどんなふうに表現されるべきかって」
そう語る彼の彫刻やドローイングにおいて、黒人女性たちは完璧にグラマーな存在として描かれる。しかしその華やかさは虚構である。つまりそれらの彫刻は、ネット上の美意識という覆しようのない力を反映した「オブジェ」であり、その意味で非常に挑発的な存在──まるでギリシャ神話に登場する、男たちを誘惑する半人半鳥の海の妖精セイレーンような──と言える。
幼い頃から人形に魅せられていたハーパーは、大きくなると自分でも制作するようになり、その趣味は複雑な実践へと発展していった。グラスゴー美術学校で学びながらオンラインで人形を販売していたところ、R&Bスターのエラ・ヘイルや映画監督のリー・ダニエルズなどの目に留まり、美術学校を辞めて作品制作に専念するようになった。彼はポリマークレイでつくった胸像や全身像を神話の再解釈やセックスシーンといった文脈に置いて表現し、黒人の強さと美しさをまるで神のように扱うことで、人種と権力というテーマを掘り下げている。
「私の作品は、女性たちに捧げる讃歌です。私は作品を作ることで人々とコミュニケーションをとっているのであり、それが私ならではの、自分の理解の表現の方法なんです」
ハーパーを制作に向かわせる原動力の一つに、黒人を脇役から主役に押し上げたいという願いがある。彼は、自身の祖父で2度もミスター・ユニバースに輝いたポール・ウィンターが、古代を舞台にした低予算の冒険映画に出演するのを見て育った。祖父の成功に憧れる一方で、ハーパーは、祖父が脇役ではなく主役として活躍する姿を見たかったという。そんな背景もあって、ハーパーの芸術世界においてはすべてのキャラクターが主役であり、古代ギリシャ神話、あるいは1970年代に生まれた映画ジャンル、ブラックスプロイテーション映画(Blaxploitation=スタッフもキャストも全てアフリカ系アメリカ人を起用した、アフリカ系アメリカ人のための映画)の両方を想起させる超人として描かれている。
ハーパーのインスタグラム(そのハンドルネームは、ギリシャ神話に登場するピュグマリオーンにちなみ「pig.malion」だ)のフォロワーは10万人に届く勢いだが、その成功はソーシャルメディアを超えて現実のものとなりつつある。昨年12月にはニューヨークのGood Black Artで個展を開催した。
彼の作品に宿るパワーは一体どこから来るんだろう? そんな問いを投げかけると、ハーパーは、「最初はある特定の何かに影響されて発生したパワーが、制作に取り組むうちに作品そのもののパワーとなっていくんです」と答えた。
from ARTnews