王妃の美意識に捧げる3つの香り──「マリー・アントワネット・スタイル」【Scent for Art Vol.2】

香りの空間演出やブランディングを多数手掛けるセントデザイナーの箕輪三香が、展覧会に纏っていきたい香水をペアリングする連載「Scent for Art」。第2回目は、横浜美術館で開催中の「マリー・アントワネット・スタイル」展のための3つの香りを紹介する。

コートドレスのマリー・アントワネット フランソワ=ユベール・ドルーエ 1773年 ヴィクトリア&アルバート博物館蔵

横浜美術館では現在、ロンドンヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)が企画した展覧会「マリー・アントワネット・スタイル」が開催中だ。フランス革命の渦にのまれ、37歳で生涯を閉じた悲劇の王妃、マリー・アントワネット(1755–1793)。その波乱に満ちた生涯とともに、彼女が死後もファッションやデザイン、カルチャーに与え続けてきた影響を約250年にわたって辿る。

「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)
ローブ・ア・ラ・フランセーズ フランス製 1760年代(1770年代に加工) ヴィクトリア&アルバート博物館蔵
「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)
「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)
「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)

本展は、暗がりの中、スポットライトに照らされた白亜のマリー・アントワネットの胸像と、1770年、フランス王家へ嫁ぐ14歳の娘に母マリア・テレジアが送った以下の言葉から始まる。

「“All eyes will be on you.”(みなが貴女を見つめているのですよ)」

華やかで、周囲の目を常に引いた稀代の女性、マリー・アントワネットを回顧するのに纏いたくなる香りを3つ紹介する。

王妃の気品と、悲劇的な運命──サンタ・マリア・ノヴェッラ「ローザ ノヴェッラ」オーデコロン

サンタ・マリア・ノヴェッラ「ローザ ノヴェッラ」オーデコロン(100mL/24310円、50mL/17600円)

展示を進むと、フランソワ=ユベール・ドルーエによる宮廷服姿のマリー・アントワネットや、18世紀のジュエリーなど、王妃が愛した贅沢で煌びやかな宮廷の世界が広がる。その世界をより鮮やかに感じさせ、王妃の時代へと誘ってくれるのが、サンタ・マリア・ノヴェッラの「ローザ ノヴェッラ」だ。

名画《バラを持つマリー・アントワネット》(1783年)にも描かれている通り、マリー・アントワネットはバラを愛し、ヴェルサイユ宮殿では栽培もしていたという。中世の時代からサンタ・マリア・ノヴェッラのレシピに記録されてきたローズからインスピレーションを得て誕生したこの香りは、上質な白粉のようなパウダリー感にセンティフォリアローズの気品ある香りが重なる。センティフォリアローズは大輪の花を掲げるローズの一種。この香りを纏えば、煌めくジュエリーや華やかなドレスに身を包んだマリー・アントワネットの姿が浮かび上がる。そしてバラを手に生き生きとした表情を見せる名画をも思い起こさせる。

問い合わせ先:サンタ・マリア・ノヴェッラ・ジャパン 03-6384-5188

甘美な記憶の中のマリー・アントワネット──ペンハリガン「チェンジング コンスタンス オードパルファム」

ペンハリガン「チェンジング コンスタンス オードパルファム」(75mL/48950円)

さらに足を進めると、空気は一変する。赤い壁には、マリー・アントワネットの切断された頭部の蝋製胸像の写真とともに、1793年8月の彼女の言葉「もはや私を傷つけられるものなど何もない」が掲げられ、この言葉の2カ月後に凄惨な最期が待ち受けると思うと、一瞬息をのむ。一方、マリー・アントワネットは総じて華やかでファッショナブル、可憐なイメージが強いのではなかろうか。V&Aがあるイギリスでは、ソフィア・コッポラによる映画が公開されたあたりからマリー・アントワネットをポジティブなイメージで捉えているとプレス説明会で述べられていた。

そこで選んだのが、英国のブランド・ペンハリガンの10周年を迎えたポートレートシリーズの一つ「チェンジング コンスタンス オードパルファム」だ。塩バターキャラメルとバニラの濃厚な甘さから浮かび上がるのは、黄金の器に盛られたマカロンや、親しい人々と囲む優雅なティータイム。

だが、甘く幸福な香りの奥から顔を覗かせるカルダモンのスパイスが、単なる可憐さにとどまらない一面を告げる。宮廷の旧弊にとらわれず、自らのスタイルを追い求めた彼女の芯の強さを感じさせる香りだ。

問い合わせ先:ブルーベル・ジャパン0120-005-130

美によって、時代を変えた2人──シャネル「シャネル N°5 オードゥ パルファム」

シャネル「シャネル N°5 オードゥ パルファム」(100mL/28270円、50mL/20570円)©CHANEL

展示の終盤を飾るのは、視界を一気に華やぎで満たす「現代ファッション」の空間だ。シャネル、ランバン、ディオール、ヴィヴィアン・ウエストウッド、モスキーノといった錚々たるメゾンの名作が一堂に会すこの空間に纏いたい香りとして選んだのは、「シャネル N°5 オードゥ パルファム」。調香からボトルデザインまで、あらゆる意味で香水の既成概念を覆す香りと称された伝説の香りを、現代的に再解釈して生まれた名香だ。

しかし本作は、その華やかで凛とした存在感の一方、どこか近寄りがたくもある。それは、「国王の妻」という立場にとどまらず、独自の美意識を貫き、夫以上に時代のスタイルそのものとなったマリー・アントワネットの革新性とも重なる。

本展は、彼女のそんな側面を讃えて、「当時の芸術は、彼女の夫の名をとって『ルイ16世様式』と呼ばれているけれども、かわりに『マリー・アントワネット・スタイル』と呼ぶべきではないだろうか?」と問いかける。

最高峰のグラース産ジャスミンやローズ ドゥ メに合成香料アルデヒドを大胆に合わせることで、輪郭をあえてぼかし、多面的で実体のつかめない「抽象的な美」を生み出した名作を纏い、この空間に立って欲しい。

問い合わせ先:シャネル カスタマー ケア センター0120-525-519

マリー・アントワネット・スタイル
会期:8月1日(土)〜11月23日(月祝)
場所:横浜美術館(神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1)
時間:10:00〜18:00(11月21・22日は20:00まで、入場は30分前まで)
休館日:木曜(8月13日、9月24日、11月19日を除く)

箕輪三香(みのわ・みか)
セントデザイナー。香りの演出や空間デザイン、講師活動を行う。TEDxや大阪ステーションホテルをはじめ、ホテル、商業施設、ブランドイベントなど、さまざまなプロジェクトの香りを手がける。施設や音楽鑑賞など、さまざまな世界観にオリジナルの「香り」を重ね合わせ、五感で記憶に刻む新しい鑑賞体験を提案している。
https://www.instagram.com/mika.minowa/

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