遺族の訴訟で返還、ナチス略奪のカンディンスキー作品がオークションへ──予想落札額は48億円

ナチス略奪され、長年ドイツの美術館に展示されていたワシリー・カンディンスキーの作品が、フリーズ・ロンドンの開催週にクリスティーズオークションにかけられる。のちの抽象画につながるこの重要作品の予想落札価格は約48億円とされている。

ワシリー・カンディンスキー《Das bunte Leben》(1907) Phoro: courtesy Christie's

オランダの裕福な一家がナチスの占領から逃れる際、アムステルダムに残していったワシリー・カンディンスキーの絵画《Das bunte Leben(彩り豊かな生活)》(1907)が、10月14日にロンドンクリスティーズで行われるオークションに出品される。この作品はナチスに略奪され、その後何十年もの間、ドイツの美術館に展示されていた。

予想落札価格が3000万ドル(直近の為替レートで約48億円、以下同)を超える本作は、6年に及ぶ裁判の末、2023年にヘドヴィヒ・レーヴェンシュタイン=ヴァイヤーマンの相続人へ返還された。

1907年の制作当時、高さ約122cm、幅約153cmというサイズは、カンディンスキーにとって最大のものだった。同年、パリのサロン・ドートンヌへ出品したこの絵画で彼は、アンリ・マティスの《生きる喜び》(1905-06)やアンドレ・ドランの《ダンス》(1906)などと同様、生の豊かさを表現しようと試みている。

そこに描かれているのは巡礼者、農民、聖人、貴族、そして母や子などで、牧歌的な風景を埋め尽くす登場人物の多くは、カンディンスキーが生まれたロシアの伝説や民話、宗教的伝統に着想を得たものだ。クリスティーズの南北アメリカ担当チェアマン、マーク・ポーターは、プレスリリースでこの作品の位置付けを次のように説明している。

「《Das bunte Leben》は、単なる初期の傑作にとどまりません。本作は、画家の制作活動において多様な影響が融合しつつあった瞬間を捉えており、その後に起きる抽象絵画への根本的な転換を予感させるものです」

ミシン製造で財を成したエマヌエル・アルベルト・レーヴェンシュタインと妻のヘドヴィヒ・レーヴェンシュタイン=ヴァイヤーマンが、カンディンスキーの《Das bunte Leben》を購入したのは1927年。夫妻の子どもたちは、ナチスによる占領を前にオランダから逃れる際、この絵の保管をアムステルダム市立美術館に依頼した。

1940年にナチスに没収された同家の所有物は散逸してしまったが、その後、本作は競売にかけられ、コレクターのサロモン・B・スライパーの手に渡った。1972年にはバイエルン州立銀行がこれを取得。翌年ミュンヘンのレンバッハハウス美術館へ長期貸与され、同館が50年以上にわたり保管していた。

エマヌエルとヘドヴィヒの子どもであるロベルトとヴィルヘルミーネ・レーヴェンシュタインは、両親のコレクションの所在を突き止めるために何十年も費やしたという。2人は、第2次世界大戦中に略奪された美術品や文化財の追跡と回収を専門とするモンデックス社(ニューヨークでも事業を展開)の助けを借り、2017年にマンハッタンの裁判所へ返還を求める訴訟を起こした。

この提訴に先立つ2016年、モンデックス社はバイエルン州立銀行に接触した。そのときは「門前払いされた」と、モンデックス創設者のジェームズ・パーマーはドイツのデア・シュピーゲル誌に語っている。しかし、2023年にはドイツの第三者委員会によって絵画の返還が勧告された。

クリスティーズのプレスリリースで、20世紀および21世紀美術部門の副責任者であるキース・ギルは《Das bunte Leben》についてこう述べている。

「カンディンスキーはもはや単に周囲の世界を描写するのではなく、目に見えるものを超えた何かを絵画がいかにして伝え得るか、その可能性を模索し始めています。色彩はそれまでにないほどの表現力を帯び、人間の経験という、より大きなヴィジョンの一部として人物や風景が描かれているのです」

なお、カンディンスキーのオークション記録は、2023年にサザビーズ・ロンドンで落札された《Murnau mit Kirche II(教会のあるムルナウの眺め II)》(1910)の3720万ポンド(約80億円)。この絵画もかつてナチスに略奪され、長らく美術館に展示されていたが、近年になって正当な所有者へ返還された。(翻訳:石井佳子)

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