「人々は文化を求めている」──フリーズ・ソウル開幕、売買は慎重でも韓国市場への期待は健在

フリーズ・ソウルキアフ韓国ソウルで開幕した。市場の調整局面を背景に初日の売買は慎重なペースとなったが、次世代コレクターの台頭や充実したアート・エコシステムを追い風に、韓国市場への長期的な期待は依然として強い。

MAAT Gallery's booth at Frieze Seoul. Photo WeCap Studio/Courtesy Frieze
フリーズ・ソウルでのMAATギャラリーのブース。Photo: WeCap Studio/Courtesy Frieze

アート界の一部がまだ夏休み気分にあるなか、アジアではすでに秋のシーズンが本格的に幕を開けている。韓国では今週、数々のアートイベントが集中。今日、ソウル・江南地区のCOEXコンベンションセンターでは、フリーズ・ソウルが、韓国を代表するアートフェア、キアフ・ソウルとのパートナーシップのもと5回目の開催を迎えた。さらに光州と釜山でもビエンナーレが開幕する。

こうした相乗効果によって、アジア各地や北米からコレクターやアート関係者が韓国に集結し、両フェアのVIPデーは通路が来場者で埋め尽くされる盛況ぶりを見せた。一方、市場が調整局面にあるなか、売買の動きは慎重なペースとなった。

しかし、初日の売れ行きが鈍かったからといって、アジアを代表する文化大国となった韓国市場に対する業界の信頼が揺らいでいるわけではない。パーティー目当ての来場者や見物客、投機家の姿はすでに消えた。代わって、次世代のアート愛好家が台頭し、活気あるローカルなアート・エコシステムが形成されつつある。こうした変化を背景に、一部の業界ベテランは韓国市場の将来性を見据え、より包括的かつ長期的なアプローチを取るようになっている。

「地盤が確立されればされるほど、ネットワークのなかに深く入り込み、オーディエンスを築いていくことができます」

そう語るのは、過去5年間にわたってソウルで確固たる存在感を築いてきたディーラーのタデウス・ロパックだ。自身の名を冠したギャラリーのソウル拠点は、韓国人チームが運営する。同ギャラリーではこのほど、ゲオルク・バゼリッツの個展が開幕した。4月に死去したドイツ人アーティスト、バゼリッツにとって死後初となる主要ギャラリーでの個展で、私立のセファ美術館(Sehwa Museum of Art)で開催されている大規模回顧展と時期を同じくしている。

「私にとって、韓国のオーディエンスはアジアでも最も洗練された層のひとつです。また、これほど多くの私立美術館が存在する場所はソウル以外にありません」

ロパックはフリーズ・ソウルの会場でUS版ARTnewsの取材にそう語り、「2、3年前ほど作品を買わなくなった人もいますが、オーディエンス自体は今も増え続けています。ここでは、人々が文化を求めているのです」と続けた。

現在のアート市場では、価値が主として上から下へと付与される「評価の経済(validation economy)」が依然として機能している。しかし、台北とニューヨークを拠点に活動するアート・アドバイザーのグラディス・リン(Gladys Lin)は、いまソウルに流入している新たな参加者や声の増加によって、その評価構造そのものが揺さぶられる可能性があると指摘する。

「展覧会やフェアに足を運ぶ若い層が明らかに増えています。数年前には目に見えなかった動きです。ただし、こうした関心はまだ実際の購入には結びついていません。でも、まさにそこが私が注目している層なのです」

初日は慎重な滑り出し

フリーズの出展者らはUS版ARTnewsに対し、初日の売買はゆっくりとしたペースだったと語った。ただし、前回よりわずかな改善が見られたとの声もあった。韓国のディーラーのなかには、作品に購入保留が入っているものの、買い手が慎重になっているため、成約までにはさらに1、2日かかるだろうと話す者もいた。全体として作品価格は5桁から6桁ドルが中心で、なかには4桁ドルのものも見られた。

フェア・ディレクターのパトリック・リー(Patrick Lee)は、この1年間、地元のオーディエンスに対して「これまで以上に好奇心を持ち」、自ら対話を始め、ギャラリーとの関係を築くよう「働きかけてきた」と語る。「これはプロセスなのです」とリーはいう。

また、日本、香港、中国本土、台湾、シンガポール、マレーシアなど東アジア、東南アジア各地から訪れたコレクターやキュレーターに加え、北米の美術館関係者のグループなど、多様な来場者が集まったことに満足しているという。

初日のセールスで最高額となったのは、タデウス・ロパックが110万ユーロ(約2億200万円)で販売したエイドリアン・ゲニーの新作油彩《Figure with Funerary Stele》(2026)だった。同ギャラリーはさらに、アントニー・ゴームリーが2024年に制作した鋳鉄彫刻を75万ポンド(約1億300万円)で販売した。

韓国のギャラリー・ヒュンダイは、水滴を描いた作品で知られる韓国の故キム・チャンヨル(Kim Tschang-yeul)の作品を複数販売。そのうち1点は110万ドル(約1億7400万円)だった。

韓国作家から国際的な人気作家まで

こうした高額セールス以外にも、初日の販売実績からは、韓国のモダニズム作家、国際的なブルーチップ作家、若手現代アーティストまで、幅広い需要があることがうかがえた。

ギャラリー・ヒュンダイは、イ・スンテク(Seung-taek Lee)の作品も17万~70万ドル(約2700万~1億1000万円)で販売。クッジェギャラリーは、ハ・チョンヒョン(Ha Chong-Hyun)のミクストメディア作品を25万3000~30万3600ドル(約4000万~4700万円)で、さらに最近ソウルに自身の美術館が開館したパク・ソボの絵画を25万~30万ドル(約3950万~4740万円)で販売した。このほか、イ・キボン(Kibong Rhee)やカン・ソギョンの作品も売れた。ホワイトキューブも、パク・ソボの主要作品2点をそれぞれ30万ドル(約4740万円)と19万ドル(約3000万円)で販売した。

海外ギャラリーからも同様に幅広いセールスが報告され、そのうち複数の作品がアジアの美術機関のコレクションに収蔵されることとなった。

デイヴィッド・ツヴィルナーは、ルーカス・アルーダ(Lucas Arruda)の新作をアジアの美術館に販売するなど、国際的に評価の確立した作家の作品を複数販売。ガゴシアンは、アジアの美術館を含む複数のコレクションにダミアン・ハーストの作品を販売した。

シュプルース・マガース(Sprüth Magers)は、シプリアン・ガイヤール(Cyprien Gaillard)が2025年に制作した手刺繍作品を、アジアの美術機関のコレクションに20万ドル(3160万円)で販売。ハウザー&ワースは、ルイーズ・ブルジョワジェニー・ホルツァージェフリー・ギブソンら国際的な主要作家の作品を18万5000~60万ドル(約2920万円~9480万円)で販売した。

デイヴィッド・コルダンスキーは、アメリカ人アーティスト、チェイス・ホール(Chase Hall)を個展形式で紹介し、絵画9点を販売した。価格はそれぞれ2万5000~12万5000ドル(約400万~1980万円)だった。

会場を訪れていたホールは、とりわけ韓国人来場者から高い人気を集め、本人や作品と一緒に写真を撮ろうと列を作る人々の姿も見られた。同ギャラリーのパートナー兼シニア・ディレクター、マイク・ホーマー(Mike Homer)はARTnewsに対し、ホールはアジアのコレクター、とりわけ韓国人から好意的に受け止められていると語った。

「チェイスの作品は、彼自身のバックグラウンドや生い立ち、インスピレーションを非常に個人的な形で表現したものです。ここのオーディエンスは、彼の視点やスタイルをとてもオープンに受け入れています」

ジョヒョン・ギャラリー(Johyun Gallery)は、イ・ベ(Lee Bae)のブロンズ彫刻7点をそれぞれ4万~14万ドルで販売したほか、木炭作品1点を7万5000ポンド(約1030万円)で販売。BB&Mは、ブースに出品したイ・ブルの作品3点すべてを、それぞれ19万5000ドル(約3080万円)、27万5000ドル(約4350万円)、29万ドル(約4580万円)で販売した。リアン・ギャラリー(Leeahn Gallery)は、松山智一の作品を29万ドル(約4570万円)、イ・ガンソ(Lee Kang-So)の作品を3億2000万ウォン(約3840万円)で販売した。

若手ギャラリーを対象とする「フォーカス」部門に出展したロンドンのラム(Lamb)は、フェア開幕後の早い時間帯に、ブラジル人アーティストのアイラ・タヴァレス(Ayla Tavares)による陶作品を6500~1万5000ドル(約100万~230万円)でアメリカ人コレクターに販売した。1990年生まれのタヴァレスは、今週末に開幕する今年の光州ビエンナーレのブラジル館にも出展している。

グローバルか、ローカルか

今回、地域内に拠点を持つギャラリーの割合が高いことも話題となった。

フリーズ・ソウルには30カ国から125軒のギャラリーが参加しているが、その70%以上がアジア太平洋地域に拠点を構える。2022年の50%から大幅な増加だ。今年は出展者の入れ替わりも40%に達し、約50軒が初参加となった。一方、今年25周年を迎えるキアフには、18カ国から175軒のギャラリーが参加している。

フェア・ディレクターのリーはこれまで、フリーズ・ソウルが欧米で開催される他のフリーズとは明確に異なる独自性を持つことが重要だと述べてきた。しかし、地元を拠点とする一部のコレクターからは、この出展構成によってフェアが「国際性が薄れた」のではないかという疑問も上がっている。

「みんな、いつもトロフィー作品ばかりに注目して、どのギャラリーが戻ってこなかったかを話題にします。でも、海外から、これまでここでは一度も紹介されたことのない隠れた名品をたくさん持ってきているギャラリーもあります」

そう語るのは、医療業界で働く39歳のコレクター、ジェイ・パーク(Jay Park)だ。「必ずしも高価な作品ではありません。でも、もっとしっかり勉強すれば、そういう作品を見つけることができます」

今回フリーズ・ソウルへ初出展したロサンゼルスのマルタ(Marta)は、ニューヨークを拠点とするキム・ミンジェ(Minjae Kim)と、その母で韓国を拠点とするイ・ミョンエ(Myoung-Ae Lee)の作品を複数販売した。出展したのは、インディペンデント・キュレーターのチョ・ヘヨン(Hyeyoung Cho)がキュレーションを手がけ、人気を集めた新部門「マテリアル・プラクティス」だ。

同ギャラリーのパートナー兼ディレクター、ハイディ・コルサヴォン(Heidi Korsavong)は、韓国系を含むアジア系アメリカ人アーティストの存在感が高まるなか、ソウルで作品を展示することは、韓国の人々とディアスポラとのつながりを橋渡しすることにもなると指摘した。

韓国との長期的な関係をいかに築くか

フェア会場の外に機会を見出そうとするギャラリーもある。2022年のフリーズ・ソウル創設以来3年間にわたって出展してきたポーラ・クーパー・ギャラリー(Paula Cooper Gallery)は、今年、ソウルへの異なるアプローチを選択した。

ニューヨークを拠点とする同ギャラリーは、フェアのブースを確保する代わりに、フリーズ・ロンドンのNo.9 Cork Streetに相当するスペース、フリーズ・ハウス・ソウルで、「Woods Lands Meadows」と題した3週間のポップアップ・グループ展を開催。火曜日のオープニング・ナイトは、身動きが取れないほどの盛況となった。

「フェアは期間が非常に短いので、一般の人々とつながる別の方法を見つけたいと思っていました。フェアの開催期間中に関係を築くのは、とても難しいのです」と、同ギャラリーのパートナー、アンソニー・アレンは語った。

昨年、ソウルのアルムジギ財団(Arumjigi Foundation)とのプロジェクトが成功を収めたことを受け、ギャラリーは「ここのコレクターや美術館との関係を築く」ため、今回プレゼンテーションを拡大することを決めたという。アレンによれば、同ギャラリーは釜山をはじめとする各地の美術館で展覧会を開催する機会も開拓している。

キアフを主催する韓国画廊協会(Galleries Association of Korea)の会長、イ・ソンフン(Sunghoon Lee)は、韓国のアート市場全体が2022年のピーク時から2025年には約25%縮小し、6150億ウォン(約738億円)となったものの、次世代のコレクターには自信を持っていると語った。

「彼らは大きな投資よりも、小ぶりで手の届きやすい作品を好む、純粋なアート愛好家です。販売額は小さくなるかもしれませんが、コレクターのロイヤルティはより強くなっています」

フリーズ・ソウルは9月5日まで、キアフ・ソウルは9月6日まで開催される。(翻訳:編集部)

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