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テート・ブリテン、人種差別的壁画の「再解釈」をアーティストに依頼

テート・ブリテンとその姉妹館のテート・モダンを管理・運営するテートは、人種差別的だと問題になったテート・ブリテンのレストランにある壁画への対応策として、サイト・スペシフィック(展示される場所の特性を生かした表現)なインスタレーションの制作を委託すると発表した。

テート・ブリテン内のレストランにある壁画《The Expedition in Pursuit of Rare Meats(希少な肉を追い求める遠征)》には、黒人奴隷の姿も描き込まれている 写真:Alamy/アフロ

これは以前、テートの倫理委員会が「不快」だと判断し、論争の的になっていたレックス・ホイッスラーの壁画の一部を撤去しないことを意味している。

テートは2月16日の声明で次のように述べている。「我々は芸術作品であるこの壁画に対する責任がある。新しいアプローチでは、壁画を鑑賞するうえでの適切かつ包括的な文脈を提示し、その文脈が今後時間の経過とともに、必要に応じて進化できることが重要と考える」

テート・ブリテンが、美術館内レストランの壁画制作をホイッスラーに依頼したのは1920年代のこと。出来上がったのは、全長約17メートルの壁画《The Expedition in Pursuit of Rare Meats(希少な肉を追い求める遠征)》で、珍しい食材を追い求める狩猟隊が描かれている。絵の中には、荷車に鎖でつながれた黒人奴隷の子どもや貴族風の白人女性も見られる。

2002年の夏にホイッスラーの壁画をめぐる論争が始まって以来、この部分を取り壊す、あるいは何らかの方法で取り除くべきだという意見が多く見られた。しかし、壁画は英国の文化財に関する法律で保護されていることから、改造は難しい。また、コロナ禍でレストランが閉鎖されたため、しばらく公開されていなかった。

テート・ブリテンの外観 写真:Steve Vidler/アフロ
テート・ブリテンの外観 写真:Steve Vidler/アフロ

2020年にテートは、この問題にどう取り組むか、最善策を探るために5人の委員による審議会を設置した。しかし、意見は大きく分かれたという。

「壁画についての話し合いは、オープンに、厳格に、そして友好的な雰囲気の中で進められたが、意見の相違は深いものだった」と、審議会の共同議長で、オックスフォード大学オール・ソウルズ・カレッジの社会・政治理論教授、アミア・スリニバサンは、2月16日の声明の中で述べている。

スリニバサンによると、審議会で討議された中には次のような論点があったという。「壁画の公開を続けることは人種差別的な見方を助長するのか? 非公開にした場合も同じことになるのではないか? このスペースを有色人種のアーティストによる創作の場とするのはどうか? しかし、それは白人が生み出した重荷を彼らに不当に押し付けることにならないか?」

最終的に審議会は、同じレストランに設置するインスタレーションの制作を依頼する決定を下した。「新しい作品は今ある壁画とともに展示され、壁画との相互関係によってこの空間での体験を再解釈するもの」とテートは述べている。

さらに、壁画の作家や壁画を取り巻く背景、歴史上のさまざまな時点でどんな評価を受けていたのかなどについて説明する新たな展示を加え、その文脈をより明確にする計画だ。テートはまもなく制作を委託するアーティストを発表し、2023年の冬にはレストランを再オープンさせる。(翻訳:平林まき)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年2月16日に掲載されました。元記事はこちら

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