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  • 2022.08.03

歌手のホールジーが美術界デビュー、ジェンティレスキの競売に伊当局が待った、オークション会社の22年上半期売り上げ好調など~7月のオークション記事まとめ

ARTnewsが7月に報じたオークション関連の記事をまとめてお届けする。歌手のホールジーがツアー中に舞台で描いた絵をサザビーズで販売し、アート界デビューを飾った。オークションで競売されかけていた17世紀の女性画家ジェンティレスキの作品は、イタリアの文化遺産保護当局によって待ったが掛けられた。新型コロナ後にV字回復したアート市場は好調で、2022年上半期の売り上げは、業界1位のサザビーズも3位のフィリップスも前年同期を上回った。フィリップスは10月にロサンゼルスに支店を開設すると発表、業界2位のクリスティーズはアート×テックに貢献しそうな新技術を開発するベンチャー企業を支援する基金を創設した。アフリカ美術のオークションをNYで開いたボナムズには、その人気の理由を、ARTnewsが担当者にインタビューした。

ホールジー《無題、ポートランド》(2022年) サザビーズ提供

歌手ホールジー、ライブ中に描いた絵をサザビーズに出品、収益は女性の権利擁護運動に

7月末のフジロックフェスに来日参加した米ポップ歌手のホールジー(Halsey)が同月、現代アート界にも進出した。全米ツアー中にステージで描いた5枚の絵を、7月19日に開かれたサザビーズのオークションに出品した。同社サイトによると売却額は2万5200ドル。収益は全米中絶基金ネットワークに寄付するそうだ。

これらの絵は、7月9日にカリフォルニア公演で幕を閉じた全米ツアー「ラブ・アンド・パワー・ツアー」中に、タイトルのない楽曲を歌いながら描かれたという。ホールジーは、女性の「性と生殖に関する健康と権利」を積極的に擁護してきた。流産の後処置として中絶手術を受けた自身の経験をヴォーグ誌でのエッセーで吐露し、中絶反対派がロー対ウェイド訴訟をひっくり返した最高裁判決にも疑義を唱えていた。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年7月13日に掲載されました。元記事はこちら

イタリア当局、2億6000万円相当のジェンティレスキの競売に「待った!」

女性美術家の見直しの動きの中で注目された一人が、17世紀にイタリアの画壇で活躍したアルテミジア・ジェンティレスキだ。同国内で継承されてきた彼女の作品の国外でのオークションに、イタリア当局が待ったを掛けた。

文化遺産保護捜査班によると、懸案の絵はジェンティレスキの《カリタス・ロマーナ(ローマの慈愛)》。彼女の無名の弟子作と騙(かた)って、不正にウィーンのオークション会社のカタログに掲載されたという。この絵はもともと、17世紀半ばにイタリアの貴族の依頼で描かれ、バーリの城に保存されていた。2019年にオーストリアに移送され、20年からイタリア警察が捜査を進めてきた。当局は約200万ユーロ(約200万ドル)と価値を見積もっている。ジェンティレスキは、最近その価値が再評価され人気が高まっている女性画家の筆頭で、19年には《ルクレチア》が彼女のオークション記録を塗り替える530万ドルで落札されている。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年7月20日に掲載されました。元記事はこちら



フィリップスロサンゼルスの外観 Formation Association提供

フィリップス、ロスに支店開設し西海岸に進出、22年上半期は売り上げ好調で拡大期

フィリップスは、2022年上半期の売上高が7億4600万ドルを記録した(前年同期比37%増)。同社は10月にロサンゼルス支店を開設し、米国西海岸に進出する。

同社はいまや、クリスティーズ、サザビーズに次ぐ世界第3位のオークション会社だ。同社の史上最高売り上げは2018年で、上半期で6億ドルだったが、今年はそれを上回る。ちなみに今年同期の売上高は、クリスティーズは発表では41億ドル、8月に公表予定のサザビーズは約32億ドルと推計される。

ロスは、ニューヨークに次ぐ全米2位のアート市場とされる。フィリップスの新しい西海岸本社には、2600平方フィート(約240平方メートル)の展示場を設ける。同社は拡大期にあり、昨年NYの新本社を開設、香港にも今秋旗艦店を開業する。オークション売り上げの41%がアジアの顧客によるもので、同社のアジアシフト方針は変わらないという。アジア太平洋地域の買い手の3分の1以上は、ミレニアル世代のコレクターだったという。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年7月14日に掲載されました。元記事はこちら


イブニングセール「ロンドンからパリへ 20/21世紀」は、クリスティーズのロンドンとパリで開かれる ガイベル/GBPHOTOS

クリスティーズは上半期に41億ドルを売り上げ、アート市場の回復力は底堅く

世界最大のオークションハウス、クリスティーズは7月12日、2022年上半期の売上高が41億ドルだったと発表した。前年同期の35億ドルを18%上回った。同社CEOは声明の中で、厳しい経済・政治環境の中での美術品市場の「自然な回復力」に言及した。

同社によると、22年上半期の出品作の販売率は87%。前年と変わらず、需要の安定性を示したという。買い手の44%は米大陸、34%は欧州と中東・アフリカが拠点だった。アジアからの購入者は22%と、過去最高を記録した前年から著しく減少した。一方で、注目すべきは新規顧客だ。上半期の全購入者の約3割が初めてクリスティーズのオークションに参加した人で、うち34%がミレニアル世代だったという(前年は31%)。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年7月12日に掲載されました。元記事はこちら


クリスティーズ・ベンチャーズ 同社提供

「アート×テック」育成でベンチャー基金を創設、クリスティーズ

クリスティーズは、アート市場に影響を与えそうな製品を作る新興ハイテク企業を対象に、投資ファンド「クリスティーズ・ベンチャーズ」を創設したと、7月18日に発表した。投資規模はおおむね「数百万ドル」とされる。

クリスティーズはこれまでも、NFT(非代替性トークン)のアート市場への影響にいち早く気づき、NFT販売で他社に先駆けた。結果、同社とアート市場は拡大した。特に、デジタルアーティスト、ビープルの作品は2021年3月、6930万ドルという記録的な高値で落札された。

クリスティーズ・ベンチャーズは最初の投資を始めている。「レイヤーゼロ・ラブス」というウェブ3企業で、暗号資産のイーサリアムやテゾスなど、さまざまなブロックチェーンの連携を図る試作品をすでに提供している。クリスティーズの責任者は「ウェブ3は、(投資先の)3本柱の1つ」としている。残り2つは、「より良いアートの鑑賞方法、つまり、アートの消費法を改善する技術への投資」「アート市場での金融改革、つまり物理的なアート作品を入手しやすくする技術」という。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年7月19日に掲載されました。元記事はこちら


ヘレネ・ラブ・アロティ COURTESY MARGUERITA AND LUKE FULLALOVE

アフリカ美術マーケットの「常識」書き換え中、オークション会社ボナムズ専門家の挑戦

美術館やギャラリー、アート市場で最近、アフリカ美術が人気を博している。国際的に認知度や人気が高まった陰には、アフリカ美術の専門家たちの努力がある。ヘレネ・ラブ・アロティは、オークション会社ボナムズで、アフリカ美術市場の「常識」を塗り替えてきた一人だ。

ラブ・アロティは2020年、オークションカタログの表紙に最も高価なロットを載せるという慣習を破り、アフリカ人アーティストを起用した。彼女は2015年にボナムズに入社、今年4月に同社のアフリカ近現代美術販売責任者に就いた。「アフリカ美術史」というインスタグラムのアカウントも運営し、研究や教育への支援もしている。

ボナムズはニューヨークで7月27日、「アフリカとアフリカ移民による近現代美術」のオークションを開催した。植民地時代から現代までの、抽象画から写真までと、幅広い作家・作品を扱った。

ARTnewsはラブ・アロティに、アフリカ美術市場の変化についてインタビューした。彼女は、「ここ数年でコレクターの態度や関心が変わり始めた。美術史がいかに欧州中心主義だったかを考え、コレクションの多様化を企図するコレクターが多い。彼らはコレクションの多様化のため、アフリカ人アーティストの作品の購入を検討している」と見る。また、アフリカ美術の中では、当初はナイジェリア・ラゴス拠点のアーティストが注目されたが、その人気が最近はガーナに移ってきたという。「アートの庇護(ひご)者も多く、サバンナ現代美術センターなどが地元のアーティスト教育や支援を担っている」ためと分析する。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年7月26日に掲載されました。元記事はこちら

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