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サーチ・ギャラリー、ウクライナ支援のチャリティ展覧会がロシア人コレクターの関与疑惑で中止に

ロンドンのサーチ・ギャラリーが、ウクライナのアートを紹介するチャリティ展覧会を中止したと、8月17日にアートニュースペーパーが報じた。ロシアの銀行家でアートコレクターのイーゴリ・ツカノフと、同じくロシアのコンサルタントでアートパトロンのマラト・ゲルマンが関わっているこの企画が、ネットで激しく批判されたことを受けての判断だ。

サーチ・ギャラリーで開催が予定されていた展覧会「The Ukrainian Way(ウクライナのやり方)」の宣伝用ビジュアル Courtesy Saatchi Gallery

「The Ukrainian Way(ウクライナのやり方)」と題されたこの展覧会は、9月3日に始まり、100人のウクライナ人アーティストが参加する予定だった。プレスリリースによると、作品の実物とNFTのオークションが同時開催され、収益は全て「勝利のための芸術基金(Art for Victory Fund)」や「ウクライナ緊急芸術基金(Ukrainian Emergency Art Fund)」など、ウクライナの文化芸術を支援する慈善活動」に寄付されるはずだったという。キーウのM17コンテンポラリー・アート・センター(M17 CAC)もパートナーとして名を連ねていた。

しかし8月上旬、出展作品を手がけたウクライナ人アーティストたちが、サーチ・ギャラリーは自分たちの同意を得ていないとソーシャルメディアに投稿。アートニュースペーパーの記事には、フェイスブック上で展覧会を非難した美術評論家でキュレーターのオルガ・サハイダクの言葉が引用されている。

「著作権? そんなこと何も聞かれていない。この展覧会の主催者は(ウクライナのアーティストたちの)意見を無視している。作品を所有しているからといって、必ずしもそれを出版したり展示したりする権利があるわけじゃない」

アーティストの懸念を受け、複数の「主要な関係者」が支援を取りやめたことが明らかになると、同ギャラリーは10日間にわたる展覧会のキャンセルを決定した。

「サーチ・ギャラリーは『The Ukrainian Way』の主催者でもキュレーターでもなく、アーティストやコレクターとのやり取りにも直接関与していない」。ギャラリーの広報担当者はアートニュースペーパーにそう語っている。

声明によると、サーチ・ギャラリーは「ウクライナのアーティストの活動を紹介し、同国支援の資金集めをする」ためにスペースを提供したといい、「このプロジェクトに参加したそもそもの前提は、ウクライナの主要な関係者が関わっていたからだ」という。

同ギャラリーは、ウクライナ文化の振興を目的とする非営利団体、ウクライナ・インスティテュートと協力しながら、「ウクライナのアーティストの作品を展示し、同国で起きている受け入れがたい状況を世に知らしめ、文化を支援するための資金を集める方法を模索する」としている。ウクライナ・インスティテュートは、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシア関連組織との文化協力のボイコットを呼びかけている

この展覧会に展示される予定だったウクライナ人アーティストの作品は、ツカノフとゲルマンの所蔵品だ。2人は、2017年から18年にかけてサーチ・ギャラリーで開催された「Art Riot: Post-Soviet Actionism(アートの暴動:ソビエト崩壊後のアクショニズム)」展で協力関係にあった。ロンドンに拠点を置くツカノフ・ファミリー財団とサーチ・ギャラリーは、13年に提携関係を結んだことを発表している。

ツカノフの妻のナターシャは、ロシアの国営石油企業ロスネフチのトップでプーチン大統領の支援者として知られるイーゴリ・セーチンのアドバイザーを務めていたことがある。ツカノフ夫妻は西側の制裁対象にはなっていない。

一方、モスクワのアートシーンでベテランギャラリストとして知られたゲルマンは、ロシアのリベラル派と保守派双方からの批判を受け、2014年にモンテネグロに移住した。2000年代前半には、政治戦略家としてウクライナの親ロシア派の選挙キャンペーンに関わり、物議を醸している。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年8月18日に掲載されました。元記事はこちら

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