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  • 2022.09.13

フリーズ・ソウル、VIP内覧日に売れた作品と価格帯。韓国・中国の買い手がついた高額作品は?

世界的なアートフェア、フリーズが韓国に進出して行う第1回目のフリーズ・ソウルが、9月2日〜5日に開催された。期間中、台風に見舞われるというあいにくの天候だったが、韓国メディアはフェアの成功を報じている。では、実際のセールスはどうだったのか。VIPデーに売れた作品と価格帯を見てみよう。

ス・ドホ《Hub-1, Kitchen Lobby, 185 Comptons Lane, Horsham, United Kingdom(英国ホーシャム市コンプトンズ・レーン185番地、キッチン・ロビー、ハブ1)》(2020)、フリーズ・ソウルでの展示風景 Photo Jung Yeon-Je/AFP via Getty Images

9月2日のVIP内覧日に、いくつかのギャラリーから100万ドルを超える作品の買い手がついたと発表があったところを見ると、少なくとも最大手のギャラリーにとっては、このフェアは成功だと言えるだろう。とはいえ、売り上げのほとんどは、それをかなり下回る価格のものだった。

一方、アジアにおけるフリーズの競合、アート・バーゼル香港では1000万ドルを超える作品を売り上げることもある。今回のフリーズ・ソウルは、それとは異なる傾向を示しているが、それでも、全体として韓国や中国のアートコレクターの購買意欲は旺盛だったようで、両国の勢いづくアートシーンへの関心の高さをうかがわせた。

ただし、実際には事前に行われた取引が、フェアの開幕後に初めて発表されるケースもある。そのため、ギャラリーの自己申告による販売実績を客観的に検証するのが困難であることには注意が必要だ。

では、9月2日のVIP内覧日にギャラリーから販売報告があった7つの作品を紹介しよう(各見出しは、作家名/ギャラリー名/金額の順に表示)。


George Condo/Hauser & Wirth/$2.8M(ジョージ・コンド/ハウザー&ワース/約4億円)


ジョージ・コンド《Red Painting Composition(赤い絵のコンポジション)》(2022) Photo: Photo Thomas Barratt/©George Condo/Courtesy Hauser & Wirth

ピカソにインスピレーションを得たジョージ・コンドの絵画は、アジアでファンが多い。2021年には上海の龍美術館が、コンドにとって最大規模の回顧展を開催。200点以上の作品が展示された。また、20年にクリスティーズ香港のオークションに出品された絵画は658万ドルで落札され、コンド作品の過去最高記録を打ち立てている。

フリーズ・ソウルでもコンド熱は高く、ハウザー&ワースは《Red Painting Composition(赤の絵のコンポジション)》(2022)を、280万ドル(約4億円)で韓国のとある私立美術館に売却したとしている。どの美術館か知りたいところだが、2016年の報告書によれば韓国は世界一私立美術館が多いので特定は困難だろう。ハウザー&ワースは他に、マーク・ブラッドフォードの新作絵画が180万ドル(約2億6000万円)で売れたと報告している。


George Condo/Sprüth Magers/$1.5M(ジョージ・コンド/スプルース・マーガース/約2億1000万円)


ジョージ・コンド《Smiling Profile(微笑む横顔)》(2022) Photo: Courtesy Sprüth Magers

スプルース・マーガースも“コンドブーム”を感じたと言い、実際《Smiling Profile(微笑む横顔)》(2022)が中国のコレクターに150万ドル(約2億1000万円)で売れている。コンドの絵画作品によく見られるように、複数の視点を取り入れたピカソの肖像画を参照しつつ、独特の構図で組み合わさった歯、目、髪が描かれている。ギャラリーの売上報告が事実なら、この作品とハウザー&ワースが販売した作品だけで、コンドの作品はフリーズ・ソウルの初日に430万ドル(約6億1000万円)を売り上げたことになる。


Adam Pendleton/Pace Gallery/$475K(アダム・ペンドルトン/ペース・ギャラリー/約6800万円)


アダム・ペンドルトン《Untitled (WE ARE NOT)(無題〈私たちは違う〉)》(2022) Photo : © Adam Pendleton/Courtesy Pace Gallery

コンドやブラッドフォードのような価格で売れた作品は少なかったが、ギャラリーの中には、出展アーティストにとって史上最高額で作品を取引できたと発表したところもあった。ペース・ギャラリーは、アダム・ペンドルトンの《Untitled(WE ARE NOT)(無題〈私たちは違う〉)》(2022)が47万5千ドル(約6800万円)で売れたとしているが、この金額は彼のオークション最高落札額まであと3万ドルに迫るものだ。同作品は、2021年にニューヨーク近代美術館で行われたペンドルトンの個展で、2階のアトリウム全体を埋め尽くした作品に似たもの。彼の言葉を借りれば、「白でも黒でもない」方法で、複数の解釈ができるフレーズが提示されている。


Joel Mesler/LGDR/$25K-$175K(ジョエル・メスラー/LGDR/約360万円〜約2500万円)

LGDRギャラリーでは、ブースに持ち込んだジョエル・メスラーの絵画が全て、VIP内覧日に売買成立または売約済になったという。メスラーは、明るい色使いの植物に単語や短いフレーズを組み合わせた作品で知られる。LGDRによれば、今回出展された作品の価格帯は2万5000ドル〜17万5000ドル(約360万円〜約2500万円)。ただし、今年初めにクリスティーズ・ニューヨークで行われたオークションでは、これをはるかに上回る90万7200ドルで落札された作品もある。


Lee Bul/Lehmann Maupin/$260K(イ・ブル/リーマン・モーピン/約3700万円)


イ・ブル《Perdu CXXXIX(失われた139)》(2022) Photo: Photo Jeon Byung-cheol/Courtesy the artist

フリーズ・ソウルに参加した欧米のギャラリーの展示は、たいてい欧米のアーティスト中心のものだった。他社に数年先立ち、2017年にソウルにギャラリーを創立したリーマン・モーピンも似た路線だったが、所属する韓国人アーティスト、イ・ブルとス・ドホの展示にもかなりのスペースを割いていたのが目を引いた。同ギャラリーによると、イはブース内でもとりわけ人気があり、2022年の作品《Perdu CXLIII(失われた143)》は26万ドル(約3700万円)で売れたという。また、このシリーズの他の作品は、リーマン・モーピンとタデウス・ロパックのブースで、1点19万ドル(約2700万円)で売れている。


Tom Sachs/Thaddaeus Ropac/$300K(トム・サックス/タデウス・ロパック/約4300万円)


トム・サックス《Fun Town(ファン・タウン)》(2021) Photo: ©Tom Sachs/Courtesy Thaddaeus Ropac, London, Paris, Salzburg, and Seoul

タデウス・ロパックは、2つのバドワイザーのビール缶でできたロケットを描いたトム・サックスの《Fun Town(ファン・タウン)》(2021)が売約済になったと発表。ロケットの先端にはコンドームのブランド、「トロージャン」のロゴマークが描かれているという、お上品とは言えない作品だ。だが、そのアイデアはへの注目度は高く、30万ドル(約4300万円)で買い手がついたという。今年5月にクリスティーズで行われた大規模なオークションでは、サックス作品として過去最高の落札額が記録されたが、今回の販売価格はこれをわずか2000ドル下回るだけの水準に達している。


Sterling Ruby/Xavier Hufkens/$375K-$475K(スターリング・ルビー/グザヴィエ・ユフケンス/約5400万円〜約6800万円)


スターリング・ルビー《TURBINE. ABALONE CAGE(タービン、アワビのかご)》(2022) Photo: Photo Robert Wedemeyer/Courtesy the artist and Xavier Hufkens, Brussels

スターリング・ルビーの作品だけを出展したブリュッセルのギャラリー、グザヴィエ・ユフキンスのブースでは、VIP内覧日に全ての作品が売約済になったという。価格は37万5000〜47万5000ドル(約5400万円〜約6800万円)だった。いずれも「TURBINE(タービン)」シリーズの新作抽象画で、大きなカンバスに、旋風が吹いた後のように絵の具が散らされている。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月2日に掲載されました。元記事はこちら

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