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  • 2022.01.17

アート×ファッション:現代アートとデザイナーのコラボは、新しいスタイルを生み出す起爆装置

アートの世界がその境界を広げ、あらゆるカルチャーを取り込もうとするなか、雑誌版ARTnewsの8・9月号ではアートとさまざまな分野のコラボレーションに関する取材を行った。今後、「アート×ファッション」をはじめ、関連する特集記事を配信する。

リチャード・プリンスが手がける「Jokes(ジョークス)」シリーズのハンドバッグや透ける素材のドレス。2012年にパリ装飾芸術美術館で開かれた「ルイ・ヴィトン-マーク・ジェイコブス」展より Courtesy Louis Vuitton/Fairchild Archive/Penske Mediaリチャード・プリンスが手がける「Jokes(ジョークス)」シリーズのハンドバッグや透ける素材のドレス。2012年にパリ装飾芸術美術館で開かれた「ルイ・ヴィトン-マーク・ジェイコブス」展より Courtesy Louis Vuitton/Fairchild Archive/Penske Media

グッチゴースト×グッチ

「優れたアーティストは借用する。偉大なアーティストは盗用する」とは、ピカソの有名な言葉だ。もし、グッチゴーストことストリートアーティストのトレバー・アンドリューとグッチのコラボレーションをピカソが見たら、「頭のいいアーティスト(あるいはブランド)は盗み返す」と付け加えたかもしれない。

アンドリューは10年ほど前に、「G」を二つ組み合わせたグッチのロゴを取り入れてグラフィティを制作し始めた。1930年代に創業者グッチオ・グッチの息子の一人が作ったアイコニックなロゴである。アンドリューはこれを壁面や衣服、家具、ゴミ収集箱など、さまざまなものにスプレーし、大きな反響を得るようになった。

アンドリューは先頃のオーシャン・ドライブ誌のインタビューで、「僕がグッチのGをスプレーしただけで、たくさんの人がゴミ箱の横に立って記念撮影するようになったのは驚きだった」と振り返っている。

グッチゴーストがかつて告白したところによれば、ロゴの使用を続けられるのは、グッチに訴えられるか、あるいは雇われるまでだと思っていたらしい。

すると2016年、グッチのクリエイティブディレクター、アレッサンドロ・ミケーレが秋冬コレクションでコラボレーションしたいとグッチゴーストにコンタクトし、スタジオを提供し、最終的には世界ツアーも行った。こうして生まれたのが、グラフィティのような走り書きのスタイルでロゴをあしらい、あるいは星や光線のようなモチーフをデザインしたウェアとアクセサリー、計80点だ。

今もNFTアート(*1)を含むアート作品を発表し続けているアンドリューによると、グッチとのコラボレーションで特にお気に入りの作品は、彼がパターンを提供した赤とクリーム色のプリーツスカートや、異なるファブリックと配色を組み合わせたボンバージャケットのシリーズ。それに、グッチのブランド名をエンボス加工したトートバッグに、ペンキで描いたような「REAL(本物)」の文字をあしらったREALバッグだという。

*1 NFTアート:非代替性トークンを用いて所有権を保証したデジタルアート

ジル・マギド×エバン・ユーマン

コンセプチュアルアーティストのジル・マギドは、ジュエリーブランド、デビッド・ユーマンの創業者の息子であるエバン・ユーマンと出会ったとき、すぐに意気投合したという。

マギドは次のように振り返る。「ニューヨークのキャナルストリートにあるオフィスに私を招いて案内してくれたのですが、エバンはお父さんのドローイングや彫刻を心から誇りに思っているのがわかりました。彼は子供の頃から物づくりを学んだそうです。アートの世界とジュエリーの世界のクロスオーバーという考えは、とてもエキサイティングでした」

二人はそのときすでに、マギドがパブリックアートのプロジェクト《Tender(通貨)》のためにデザインしたペニー(1セント)銅貨をネックレスにするコラボレーションについて話し合いを始めていた。

2020年9月にマギドは、パブリックアート団体、クリエイティブ・タイムの支援を受けて12万個の1ペニー銅貨(コロナ対策としてアメリカ政府が配布した1200ドルの小切手と同額)を制作。数十枚単位で赤と白の紙に包まれた銅貨の縁には、コロナ禍の時代を映し出す「the body was already so fragile(ボディーはすでにとてももろくなっていた)」(*2)という文字が刻まれ、主にニューヨークの小さな食料品店で支払いに使われ、流通することになった。

*2 この「body」は人間の身体と国家(body politic)の両方の意味を想起させるもの

マギドはこのペニー銅貨を発表してすぐに《Tender》をジュエリーのプロジェクトに発展させたいと思うようになり、友人でヴォーグ誌のジュエリー担当エディターであるセルビー・ドラモンドにユーマンを紹介してもらった。

「父のデビッドは彫刻家、母は画家というアーティスト一家に生まれ育った私は、すぐにジルのプロジェクトに共感を覚えました」とユーマンは語る。「このプロジェクトにはクラフトマンシップとデザインの視点で取り組み、ジルのコンセプトにジュエリーという形で命を与えることを目指しました」

当初、マギドは作品のコンセプチュアルな側面をジュエリーの形に落とし込むのは難しいのではないかと懸念していたが、ユーマンが率いる制作チームはその課題を克服する解決策を見いだした。「私のアイデアが実現するよう助けてくれたという意味で、真のコラボレーションでした」とマギドは語る。「制約を設けることもありませんでしたし、コインに文字を刻むことについて認めてくれるかどうか心配でしたが、むしろ快諾してくれました」

マギドは個人的な理由から、お守りのようなコインがネックレスを身につける人の心臓の上にくることを望んだ。マギドの息子が小さかった頃、ペニー銅貨をのみ込んでしまい、レントゲンを撮ったところ心臓に重なって見えたのだという。

「私自身はジュエリーをあまり身につけないのですが、心をつかまれるものもあります」とマギドは言う。あるプロジェクトのプレゼンを行う直前に、建築家ルイス・バラガンの住居で今は記念館になっているメキシコシティのカーサ・バラガンを訪れ、併設されたショップで買ったピンキーリングはその一つだ。

そのプロジェクトは実現し、ピンキーリングは幸運のお守りになった(2016年、マギドはバラガンの遺灰の一部をダイヤモンドにしてエンゲージメントリングにセットし、「私のすべてはあなたのものです」という言葉を刻んでいる)。

ユーマンと制作チームは「ペニー銅貨に近づけるため」マギドのコインを18Kローズゴールドで作った。限定版のペンダントでは、ペニー銅貨をゴールドの輪の中で自由に回転するようにセットし、その輪にはバゲットカットのルビーとダイヤモンドを交互に埋め込んで赤と白の包み紙を思わせるデザインにしている。

マギドは、コインをネックレスにする過程で、自分には思いつかなかったディテールをユーマンが指摘してくれたと語っている。ユーマンは、本物のペニー銅貨の場合、コインを右から左に裏返すとデザインが上下逆さになることに気づいたのだ。

「それは本当にありがたい指摘でした」とマギドは言う。コインのデザインを調整し、リンカーンの肖像のある面ともう一方の面のいずれが表にきてもデザインが逆さにならないようにした。「ペニー銅貨を通貨から身につけるアクセサリーに変えるのですから、実際のコインとは上下の向きを変えてもいいでしょう」

サルバドール・ダリ×エルザ・スキャパレリ

米国フロリダ州セントピーターズバーグのサルバドール・ダリ美術館は、2017年に「Dalí & Schiaparelli, In Daring Fashion(ダリとスキャパレリ、大胆なファッション展)」を開催したと。

そのときヴォーグ誌は、1930年代にダリとスキャパレリという二人のアーティストが「アートとファッションのコラボレーションを発明した」と評した。さらに、「皮肉にも、高級素材と安価な素材の組み合わせや、彼らが開拓したマルチメディアでの宣伝手法は、現在のアーティストやデザイナーたちによって今もなお用いられている」と付け加えている。

ダリとスキャパレリの伝説的なプロジェクトはアートとファッションを融合させ、「Shoe hat(シューハット)」「Lobster dress(ロブスタードレス)」「Tears dress,(ティアーズドレス)」「Skeleton dress(スケルトンドレス)」を生み出した。そのコラボレーションの成果を今振り返ると、思いもよらないような新奇なファッションの先駆けだったといえる。

たとえば、著名な編集者イザベラ・ブロウのトレードマークだった奇抜な帽子や、アレキサンダー・マックイーンのフェイスマスク、アイリーン・ラフトのクチュール小物としてのガスマスク。

さらには、自分の生首のような頭部のレプリカを抱えてショーに登場したグッチのモデルや、別のモデルを自分の身体に巻きつけてランウェイを歩いたリック・オウエンスのショーなど。人体がアートのすばらしい素材になりうることを証明してみせたのも、ダリとスキャパレリの大きな功績だ。

ハンク・ウィリス・トーマス×ヘルムート・ラング

ハンク・ウィリス・トーマスは、アーティストとして出発して以来、作品に政治的な意味を持つテキストを取り入れてきた。2016年、ミシシッピ州パール市では、トランプ大統領候補(当時)の選挙スローガン「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国に)」を、1965年にアラバマ州セルマの公民権運動中に起きた「血の日曜日事件」の写真に組み合わせた看板を掲げている。

そして2021年、ウィリス・トーマスはファッションブランドのヘルムート・ラングと組み、彼の最も挑発的なテキストを全く新しいやり方で発表した。

パーカー、Tシャツ、ワンピースなど10点の限定コレクションは、ウィリス・トーマスが2010年に発表した代表作に基づくもので、レンチキュラープリント(*3)のスローガンがあしらわれている。そのスローガンは、見る角度によって「IT’S ALL ABOUT YOU(まさにあなたについてのことです)」または「IT’S NOT ABOUT YOU(あなたのことではありません)」と読める。

*3 立体感や奥行きを出したり、角度を変えると絵柄が変化するように見せたりできる印刷

ヘルムート・ラングは衣服にレンチキュラー効果を再現し、「IT’S ALL ABOUT YOU」、「IT’S NOT ABOUT YOU」という会話のような作品を、身につけることができるファッションアイテムとして商品化した。また、ウィリス・トーマスの社会問題や政治への取り組みに賛同し、売り上げの15%を刑務所改善団体(Incarceration Nations Network)に寄付するという。

ウィリス・トーマスがファッションブランドとコラボレーションを行うのはこれが最初ではない。

2020年には制作会社のイクエーター・プロダクションズとともに、阿部千登勢によるサカイの2021年プレ・スプリングコレクションとメンズ春夏メンズコレクションのキャンペーンを手掛けた。このプロジェクトでは、ウィリス・トーマスが、ミュージシャンのキーヨン・ハロルドとジェイソン・モラン、アーティストのゾーイ・バックマンなどで構成される自らのチームを投入して動画を制作している。

一方、ヘルムート・ラングがアーティストとのコラボレーションを行ったのも初めてではない。ウィリス・トーマスの前には、キャリー・メイ・ウィームズ、ジェレミー・デラー、ヨゼフィーネ・メクセーパー、そしてヴァネッサ・ビークロフトとのコラボレーションを行っている。

特に、ビークロフトとのコラボレーションは、アートとファッションの歴史における最も象徴的なパートナーシップの一つと言える。

2001年にラングは、VB45と名付けられたビークロフトの耐久テストのようなパフォーマンスのために、太ももまである黒のロングブーツをデザインした。ウィーンの美術センター、クンストハレ・ヴィーンで行われたこのパフォーマンスでモデルたちは、ブーツ以外は一糸まとわぬ姿で軍隊の隊列を組み、疲れ果てて床に倒れこむまで立ち続けた。

ウィリス・トーマスは、今後もこうした試みを続ける意向を見せている。ヘルムート・ラングとのコラボレーションに関するWWD誌の取材に対し、「ファッションとブランディングが私たちの他人や自分自身に対する見方をどのように形成するのか、常に強い関心がある」と述べている。

ミン・スミス×ナイキ

ミン・スミスは最近、自分の担当ギャラリストであるニコラ・バッセルの質問に対し、自らの写真をバスケットボールのシュートに例えている。

「重要なのは予測する力であり、やって来るものを待つ忍耐力です。これはバスケットボール選手がスリーポイントシュートを決めるのと同じ。ひたすら練習、練習の繰り返しで、確実に上達はするけれど、やはりミスはつきもの。写真の場合、決定的な瞬間がレンズに入ってきたら捕まえなければいけない。その瞬間が見えたときにシャッターを切ります」

女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)の25周年を記念して、スミスはスリーポイントシュートが得意なことで知られる一流選手たちを撮影した。そして今年、ナイキのジョーダンブランドは、バッセルのクリエイティブディレクターとしての協力を得て、スミスをジョーダンファミリーのメンバーの撮影に起用。ジョーダンファミリーとは、マイケル・ジョーダンが認めた女性アスリート最大のグループだ。

スミスが撮影したポートレートには、ミネソタ・リンクス所属(ガード)のクリスタル・デンジャーフィールド選手、フェニックス・マーキュリー所属(ガード)のキア・ナース選手、ダラス・ウィングス所属(フォワード)のサトウ・サバリー選手などがいる。このシリーズでは、アスリートたちはほぼ黒一色で装い、個人でのポートレートとマイケル・ジョーダンを囲むグループショットが撮影された。

スミスは1970年代初めから、さまざまな技法を用いた幻想的な作品を撮影することで知られている。また、ロイ・デカラバが創設した黒人フォトグラファーの集団、Kamoinge(カモインゲ)唯一の女性メンバーでもある。

アスリートを撮影することについて、スミスはi-D誌のインタビューで次のように述べてこう語っている。「見る人を力づけるような写真は、ステレオタイプなものではありません。私たちの母親世代の女性たちは胸の谷間を見せる必要はなかったけれど、とても女性的でした。彼女たちも、そして私たちも女性です。女性アスリートの美は内面にも外見にも現れていて、身体的であると同時に精神的……つまり生命力なのです」

リチャード・プリンス×ルイ・ヴィトン

過去20年で、ルイ・ヴィトンはアーティストとのコラボレーションの代名詞のようなブランドになった。それを最近のコレクションからさかのぼって見ていこう。

まず2017年には、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ゴッホ、モネなどの名画を用いたジェフ・クーンズの「Gazing Ball(ゲイジングボール)」シリーズをベースにしたバッグ、スカーフ、レザー小物のラインを発表している。

2012年、ルイ・ヴィトンの当時のクリエイティブディレクターで、自らもアートコレクターであるマーク・ジェイコブスが、当時82歳の草間彌生の世界を全面的に取り入れ、服やアイテムだけではなくニューヨークの旗艦店全体を草間の作品を代表する水玉模様で覆った。

彼は2003年にも、日本が生み出した現代美術のスーパースター、村上隆とのコラボレーションで究極のイットバッグ(ブランドを代表するようなベストセラーバッグ)を発表し、目を見張らせるようなアニメ的デザインは圧倒的な非常な人気を博した。その成功を考えると、ヴィトンがその後15年間にわたって繰り返し村上とのコラボレーションによるコレクションを発表しているのは不思議ではない。

これらのコラボレーションはいずれも実り多いものになったが、リチャード・プリンスとジェイコブスのコラボレーションはとりわけ際立っている。古い大衆小説のペーパーバックの表紙に着想を得たプリンスの「Nurse(ナース)ぺインティング」シリーズは、オークションで数百万ドルの高値を記録。2007年にはグッゲンハイム美術館でプリンスの回顧展が開かれた。

これに刺激を受けたジェイコブスは、2008年の春夏コレクションでプリンスとのコラボレーションを行い、ナオミ・キャンベルやナタリア・ヴォディアノヴァを含むスーパーモデル12人が、透けるナース服とLVのモノグラム模様が入った黒いレースのマスクをつけ、プリンスの別の作品をデザインしたバッグを持ってランウェイに登場。さらにモデルたちは、全員並ぶと「LOUIS VUITTON」と読めるように文字があしらわれたナース帽をかぶっていた。

2020年2月、コロナウイルスのパンデミックが世界中に広がると、ジェイコブスはこのショーでマスクをして出演したモデルたちの写真をグリッド状に並べてインスタグラムに投稿した。「これを1枚取っておけばよかった。ルイ・ヴィトンの2008年春夏コレクションのモノグラム入りレースのマスク。#justsayin’ #FASHIONNURSE #richardprince」というコメントを添えて。

ステラ・マッカートニー×さまざまなアーティスト

「エネルギーが最高にみなぎっていると感じるのは、コラボレーションの環境にどっぷり浸かって、お互いのクリエイティビティーを糧としたアイデアを得られるとき」と語るのは、これまで多数のアーティストとのコラボレーションを行ってきたステラ・マッカートニーだ。

「Shared(シェアード)」と題されたカプセルコレクション(限定コレクション)は、「スタイルとアクティビスト的な価値観を共有することで国境を超えて生まれる連帯を、若々しくジェンダーレスなアプローチで追及するもの」とされ、今年発表した第2弾では日本のアーティスト奈良美智の作品を取り入れた。

一方、2021年春夏コレクションでは、進歩的な考え方をアルファベットの文字と結びつけた「A to Z マニフェスト」を展開。ラシッド・ジョンソン、ジェフ・クーンズ、シーラ・ヒックス、シンディ・シャーマン、ジョージ・コンド、オラファー・エリアソン、ウィリアム・エグルストンなど、父ポールと母リンダのもとでアートに触れながら育った子ども時代から親しんでいた巨匠を含む、豪華な顔ぶれのアーティストからインスピレーションを得ている。

ちなみに、「A to Z マニフェスト」の文字が表すものは、たとえばMはMindful(マインドフル:いま現在の自分の心や体に意識を向ける状態や過程)、RはRepurpose(リパーパス:環境保護を意識した消費行動の一つ)といったもの。

マッカートニーは、「2020年秋冬コレクションには大切な思い出が込められています」と振り返る。

「類いまれなアーティストであるエルテ(Erté、フランスで活動したロシア人アーティスト)に、子どもの頃会ったことがあります。両親と一緒に乗っていた飛行機の中でのことでした。それ以来ずっとエルテを敬愛していましたが、コラボレーションの機会が訪れるとは夢にも思っていませんでした。でも、最初の出会いから長い歳月を経て、未発表の版画作品をコレクションに組み込むという幸運に恵まれたのです」

マッカートニーは、アートに囲まれて育ったことが彼女の目を養ってくれたと語る。「私のデザイン指針の一つは常にアートです。私はいつもアートの世界からインスピレーションを得ています。アートは現在の状況をファッションに反映するモチベーションを与えてくれるだけではなく、新たな現実をもたらす別の視点を与えてくれます」

マッカートニーは、アートとファッションの関係が深まっているおかげで、ファッションの未来も、そしてアートの未来も明るいと感じている。「毎回アーティストとのコラボレーションを行うたびに、その過程が特別なものだと感じます」とマッカートニーは言う。「アートとファッションの世界はこれからも糸がより合わさるように結びつき、どちらも互いにとって欠かせない存在になっていくと確信しています」

アンネ・イムホフ×バーバリー

2020年春、コロナ禍で通常のショー形式でのコレクションが中止になり、ファッションの世界は最新コレクションをショートフィルムの形で発表するようになった。

バーバリーのクリエイティブディレクターであるリカルド・ティッシが2021年春夏コレクションのプレゼンテーションを計画し始めた2020年の夏には、他のデザイナーたちはすでに、変更になったコレクションの発表形式について既成の枠にとらわれない考え方を始めていた。

たとえば7月には、ミウッチャ・プラダがプラダの2021年春夏コレクションを、5人のアーティストによる映像の形で発表。テレンス・ナンス、ジョアンナ・ピオトロヴスカ、マルティーヌ・シムズ、ユルゲン・テラー、ウィリー・ヴァンデルペールに対し、ミウッチャは彼女のデザインを独自に解釈した制作を依頼した。

一方、ティッシがコンタクトしたのはドイツ人アーティスト、アンネ・イムホフだ。「彼女は僕がクリエイティブ面で共感できる人物であり、自分が構想しているショー体験に、まったくユニークな視点をもたらしてくれるという確信がありました」とティッシは語る。

そのコレクションは、「人魚とサメのラブストーリー」をイメージしたものだとティッシは言う。そのため、多くのウェアが神話や海をモチーフにしている。ティッシとイムホフは、イングランドの人里離れた森を舞台に選んだが、そこには数カ月に及んだロックダウンを経て取り戻された自由な世界の象徴という意味を込めたという。

2020年9月のロンドン・ファッション・ウィーク中に公開された映像の中で、モデルたちは森の小道を歩いていき、空き地に出ると輪になって、儀式のような踊りのパフォーマンスを見る観客になる。

イムホフの公私におけるパートナーである画家のエリザ・ダグラスが、このフィルムのためにヘビーメタルを取り入れた音楽(踊りでは頭を激しく振る動きが見られた)を作曲。パフォーマーたちがまとっていたコスチュームは白一色だった。イムホフは、この映像はポジティブさと希望のメッセージを捧げるためのものだと説明している。

ティッシは過去にもパフォーマンスアーティストを起用したことがある。2016年春夏コレクションでは、アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチがランウェイに無言のパフォーマーを送り込んだ。イムホフも同じような方向性でプレゼンテーションを構想したが、彼女は大勢が出演するパフォーマンスを過去にも発表しており、ダンサーが長時間にわたって空間を動き回る作品が多い。

こうしたイムホフのパフォーマンス作品は近年評価を高め、2017年にはヴェネチア・ビエンナーレのドイツ館で発表した《Faust(ファウスト)》は金獅子賞を獲得している。この作品は、ストリートウェアを着たダンサーたちが、ドーベルマンを連れてナチス時代の建築を彷彿させるドイツ館の建物の中を物憂げに動き回るものだった。

イムホフは同じ頃、ヘルムート・ラングやバレンシアガのモデルを務めたことがあるパートナーのダグラスを通して、ファッション界とのつながりを深めていた。

2017年秋、《Faust》がまだヴェネチア・ビエンナーレで行われている最中に、イムホフは最初のファッション撮影を監督している。スタイリストのロッタ・ヴォルコヴァと組んで制作したWマガジンの見開きページでは、プラダ、カルバン・クライン、ランバン、バレンシアガ、そしてバーバリーなどのブランドをまとったダグラスを撮影。イムホフは当時、ファッションが「今の瞬間を捉えると同時に歴史から多くを取り入れていること」に感銘を受けたと語っている。

過去の特定の時期に引かれる点でも、イムホフとティッシは共通している。「アンネはとてもパワフルで際立ったビジョンを持っていて、1990年代末から2000年代初めまでの時代の空気を作品に取り入れています」とティッシは語る。「あの時代のファッション、音楽、アートに見られたヒリヒリするような魅力へのノスタルジーと親しみを、僕たちは共有しているのです」

イムホムとのコラボレーションについて、ティッシはこう語る。「それはすばらしい体験で、アンネの世界を知れば知るほど、互いのエネルギーと意見を本音でぶつけ合えるようになりました」。そして今後もアーティストとのコラボレーションを続けていく意向だ。

ティッシはまた、アブラモヴィッチやケヒンデ・ワイリーといったアーティストと行った過去のプロジェクトに触れてこう述べた。「僕はずっとアーティストとのコラボレーションを行ってきました。異なる視点を示し合うことは、僕にとって真に開かれた自由なクリエーションを達成するための最高の方法なのです」(翻訳:清水玲奈)

※本記事は米国版ARTnewsに2021年9月8日に掲載されました。元記事はこちら

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