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  • 2022.02.23

ナチス略奪のクリムトやシャガール作品、遺族に返還

フランスで、グスタフ・クリムトマルク・シャガールの絵画など、ナチスが持ち主に強制的に売却させたり略奪したりした15点の美術品の返還が最終決定された。返還を認める法案は、1月25日に国民議会(下院に相当)において全会一致で可決され、2月15日に上院で承認される予定だ。

クリムトの《Rosiers sous les arbres(樹々の下の薔薇)》の横でスピーチを行うフランスのロゼリン・バシュロ文化相。オルセー美術館(パリ)でのセレモニーにて Alain Jocard/Pool Photo via AP

ロゼリン・バシュロ文化相は、美術品を奪われたままにしておくことは「(本来の持ち主であるユダヤ人家族の)人間性、記憶、思い出を否定するもの」だと声明の中で述べ、法案可決を称賛した。

これらの作品の中には、1958年にフランスに移り住んだポーランド系ユダヤ人、音楽家で弦楽器職人のデビッド・センダーから略奪されたシャガールの絵《Le Père(父)》も含まれている。この絵は1988年に国立コレクションとして登録された。

樹木の葉や花、果実を鮮やかな色彩のモザイクとして表現したクリムトの《Rosiers sous les arbres(樹々の下の薔薇)》(1905年頃)も、返還される著名な作品の一つ。この絵はもともと、オーストリア系ユダヤ人のノラ・スティアスニーが、1927年に叔父ビクトル・ツッカーカンドルから相続したものだ。オーストリアの実業家、ツッカーカンドルはアートコレクターでもあり、その遺産には、この作品を含めてクリムトの絵画7点が含まれていた。しかし、1938年のナチスによるオーストリア併合に伴い、スティアスニーは強制的に絵画を売却させられた。その後、彼女は1942年にポーランドで殺害されている。

この絵は、1980年にチューリッヒのNathan Peter Gallery(ナータン・ペーター・ギャラリー)からフランス政府が購入して以来、オルセー美術館に収蔵されている。同美術館が1986年に開館するのに先立ち、国立美術館の評議会が作品の購入を承認した。

スティアスニーは1938年に、当時ウィーンの美術学校で短期間校長を務めていたナチス党員フィリップ・ホイスラーに、正当な価格を大きく下回る400ライヒスマルク(当時のドイツの通貨単位)でこの絵を売却させられた。ホイスラーはこの作品をフランクフルトに密輸し、1966年に死去するまで個人コレクションとして所有していた。

フランスの法律では、国有の絵画を政府が手放すためには、略奪された来歴を証明し放出を認める法案を提出する必要があった。バシュロ文化相は以前、次のように語っている。「公的コレクションから重要な作品を返還するという決定は、正義と略奪された家族への賠償に対する我々のコミットメントを示すものです」

クリムト作品の返還は、フランスが現在進めている、より大きな事業の一環として行われる。それは、国が所有する美術品の中から、1933年から1945年の間に略奪された作品を特定するというものだ。こうした返還事業が浮き彫りにしたのは、略奪と不正取引が横行していた時代を経た作品の来歴解明がいかに難しいかということだった。

ウィーンのベルヴェデーレ宮殿に収蔵されていたクリムトの《Pommier II(林檎の木II)》は、2001年にスティアスニーの相続人に返還された。だが、オーストリアの返還委員会は2017年に来歴調査の専門家モニカ・メイヤーとクリムトに詳しい美術史家のトビアス・ナターに、この絵の記録を再調査するよう依頼。その結果、《Pommier II》の返還先が間違っていたことが分かったが、国家が個人に譲った作品を取り戻す法的枠組みは存在しない。なお、さらなる調査で《Rosiers sous les arbres》については、スティアスニー家が正当な所有者であることが判明している。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年1月26日に掲載されました。元記事はこちら

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