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トム・サックスが謝罪。「従業員ハンドブックも全面見直し」

元アシスタントらによる告発を受け、アーティストのトム・サックスが、5月10日のニューヨークタイムズの記事の中で謝罪した。

Photo: Courtesy of Nike

この記事の中でトム・サックスは、「わたしのスタジオで働く人々が、安心感や充足感、支持されている実感を得られていないと感じたことを大変残念に思うが、そう感じた人がいることは事実だ」と述べた。一方で、そうした就労文化を意図的に作り出したことは否定し続けている。

また、自身の30年におよぶキャリアの中で、「わたしは誰かに嫌がらせをしたり不快にさせようとしたことはありません」とも述べた。同スタジオの広報担当であるカーリー・ホールデンは、「スタジオは元従業員らの告発を受け、従業員ハンドブックを全面的に見直した」と語っている。

スタジオの文化と芸術的実践

サックススタジオとその「システム」は、しばしば彼の芸術の中でも扱われてきた。例えばサンパウロ・ビエンナーレで展示されたサックスのビデオ作品《10 Bullets》(2010)では、ウェス・アンダーソン作品を彷彿させるスタイルで、スタジオの様々なルールが記録されている。映像の中で、彼は自分を映画『フルメタル・ジャケット』(1987)に出てくる鬼教官ハートマン軍曹になぞらえ、映画の映像に乗せて「既存の生産システムを遵守する」方法を部下に教える様子をナレーションしている。スタジオでは、「好き勝手な意思決定や個人的な創意工夫は禁物だ」と。

また、2017年には《The Hero's Journey》と題した自身のスタジオに関する別の動画を制作し、ナイキとのコラボスニーカーのお披露目を兼ねた展示会で上映している。この動画では、志の高い女性アシスタントが退屈なオフィスワークを辞め、サックススタジオにやってくるシーンが捉えられている。彼女はベニヤ板を切ったり接着剤を塗ったりと、さまざまな仕事をこなしながら、サックスによる教化テスト──体を縛られ、偽の100ドル札が顔に吹きつけられるといったような──を受けるのだ。そしてサックスは言う。

「彼女はまだ旅を終えていないが、ストリートのクズたちは並外れた力を持っている。だが、彼女の中の真のヒーローは抵抗する。なぜなら、彼女は名もない力によって理解し難い義務に縛られているからだ」

サックスのスタジオ運営方法は業界でも有名だ。問題は、彼が綿密につくりあげた世界にアシスタントたちを屈服させていたことだ。元アシスタントたちによる告発内容に比べると、これらの動画で描かれるサックスの掟はほほえまし過ぎると言わざるを得ない。

スタジオの文化が彼の芸術的実践とライフスタイルの中心であったことは確かだが、そこでの虐待的な慣習を実際にどう見直すつもりなのか。残念ながらその具体策について、サックスは今回のニューヨークタイムズの記事では語っていない。(翻訳:編集部)

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