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ロンドン・ナショナル・ポートレート・ギャラリー、石油関連企業BPとの関係に終止符

ロンドン・ナショナル・ポートレート・ギャラリーは、石油関連の大手企業、ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)との関係を断つことになった。BPは30年以上にわたり、同館のポートレート賞のスポンサーを続けていたが、同社の広報担当者によると2021年12月に満了した契約は更新されなかったという。

2010年、BPポートレート賞の授賞式が行われたロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリー前で横断幕を掲げる活動家「Greenwash Guerrillas(グリーンウォッシュ・ゲリラ)」(清掃業者に見えるような作業服を着ている) AP Photo/Akira Suemori

ポートレート賞のスポンサーが石油会社であることは長年論争の的になっており、授賞式に対してたびたび抗議が行われてきた。2019年、Extinction Rebellion(エクスティンクション・リベリオン)という団体のアクティビストたちは、BPがスポンサーとなった作品が展示されていたオンダーチェ・ウイングのメインホールで、石油に見せかけた液体を自分たちに浴びせる行動をとった。

また同年、サラ・ルーカス、アントニー・ゴームリー、アニッシュ・カプーアなど数十人のイギリスのアーティストたちが、BPは気候変動を助長しているとしてパートナーシップの終了を求める書簡に署名。2020年にBPは、23年間務めてきたポートレート賞の審査員会から外れている。

なお、BPポートレート賞は、ナショナル・ポートレート・ギャラリーの大規模改装のため、ここ2年間は休止中だ。

同館のニコラス・カリナン館長は声明の中で、BPポートレート賞への長年の支援に感謝の意を表し、次のように述べている。「この賞への資金提供は、30年以上にわたり創造性を育み、肖像画を奨励し、世界中のアーティストにプラットフォームを提供するだけでなく、イギリス中の観客にインスピレーションと楽しみをもたらしてきた」

一方、BP幹部のルイーズ・キンガムは声明で、「30年間、イギリスの美術と文化を支えてきたことを非常に誇りに思う。しかし、現在のBPは、ナショナル・ポートレート・ギャラリーとのパートナーシップを始めた頃とはかなり違った企業になっている」と説明。また、BPは化石燃料に頼らない「統合的なエネルギー企業」を目指すことも表明している。

ナショナル・ポートレート・ギャラリーの一件は、化石燃料企業のフィランソロピー活動を排除するようイギリスの芸術関連施設に訴える激しい運動を受けたものだ。ロンドンでは、他にもこの呼びかけに応じた施設がある。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーは2019年にBPとの関係を断ち、テートも2017年に同社とのパートナーシップを解消している

2月19日・20日の週末には、大英博物館で気候変動アクティビストのグループによる抗議活動が行われた。BP or Not BP(BPかBPでないか)という名のこのグループは、博物館スタッフに扮して「ストーンヘンジ掘削計画」のプレゼンテーションを演じた。同館で7月17日まで開催中の大規模展覧会、「The World of Stonehenge(ストーンヘンジの世界)」を風刺したものだ。

大英博物館のハートウィグ・フィッシャー館長が、「強い反対があるにもかかわらず、論争の的になっている石油・ガスの巨大企業BPのスポンサーシップ契約更新を推進している」のが明らかになったことへの抗議行動だと、BP or not BPは声明で述べている。

この10年、世界中で美術施設と民間企業のパートナーシップに注がれる目が厳しくなっている。米国では、中毒性のあるオピオイド系鎮痛剤の乱用を助長したと非難されたパーデュー・ファーマ社のオーナー、サックラー家との関係を絶つようアーティストやアクティビストから圧力を受け、ルーブル博物館、グッゲンハイム美術館、テートなどの主要美術館が、今後はサックラー財団から資金の提供を受けないと発表している。

また、サックラーの名前は公共の場からひそかに削除されつつある。最近では、この1月にサーペンタイン・ギャラリーが、サックラーの名前を建物から取り外した。サーペンタインは、ロンドン中心部に2つの展示スペースを持っているが、インターネット上の展覧会アーカイブからこの名前を削除し、片方のスペースの名称を変更。以前はサーペンタイン・サックラー・ギャラリーと呼ばれていたが、今はサーペンタイン・ノース・ギャラリーとなっている。(翻訳:平林まき)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年2月22日に掲載されました。元記事はこちら

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